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今だからこそ知っておきたいそもそもAIって何?

今だからこそ知っておきたいそもそもAIって何?

「AI」という名の技術はない

ここ数年、「AI」という言葉を、さまざまな場所で見聞きするようになった。従来の製品やサービスにAIを載せ「AI○○」という言葉にするだけで、最先端に聞こえてくる。

しかし、「AIってどんな技術?」と聞かれ、正確に回答できる人は少ないだろう。一般的には「人間や動物の自然知能(自然が生み出した知能)をコンピュータ上に実現すること」と定義される。ただし、「AI」という単一のテクノロジーはない。機械学習、深層学習、自然言語処理など、さまざまな情報処理技術に関する研究分野が総合してAIと呼ばれている。

同じくAIへのよくある誤解として、「すでにAIは人間同様の知能を持っている」というものがある。近い将来SF映画のように、自ら意思を持って動き出すのではないかと不安を抱く人もいる。しかし人間の持つ自然知能は、何億年もかけて進化したものであるうえ、コンピュータと我々の脳は原理が違う。自然知能をそのまま人工知能で再現できるわけではないのだ。

そのため、現在のほとんどのAIは、それぞれの数学的問題を解決する「問題特化型」である。また、問題特化型知能を集合させたところで、人間同様の知能は実現しない。それほど人間の脳は複雑であり、高度な思考を持っているのだ。

ここで改めてAIの歴史を振り返ろう。実は昨今のAIブームは初めてのことではなく、過去にも二度のブームがあった。第一次ブームは1956年から1960年代。1956年にジョン・マッカーシーらが発起人となったダートマス会議で、「AI」という言葉が初めて登場した。この時代には、コンピュータで推論や探索をすることで、特定の問題を解く研究が進む。1964年にはのちにシリの原型となるコンピュータと人間の対話システム「イライザ(ELIZA)」が登場。しかし、いずれも現実に存在する複雑な問題は解けるようにはならず、ブームは終焉する。

第二次ブームは1980年代。コンピュータに大量の知識を入れることで賢くし、問題を解決するというアプローチが広がる。特定の専門分野の知識を取り込み、推論を行う「エキスパートシステム」はさまざまな分野で作られた。しかし、コンピュータに入れるための知識を専門家から引き出すコストや、大量の知識を適切に管理するコストが大きな課題となった。広範囲に渡る知識の記述も難しく、人間には当たり前の知識でも、コンピュータに正しく認識させることは想像以上に難しい。ひと昔前の機械翻訳が、めちゃくちゃな文章だったのは記憶に新しいだろう。人間は経験や一般常識をもとに、「私は」「私が」のニュアンスの違いを判断できるが、コンピュータが理解するには、膨大な知識を扱い、処理する必要があるのだ。結局、知識に関する課題は解決できず、AIブームは1995年頃に終わり、再び冬の時代を迎える。

1964年、コンピュータと人間がテキストベースであたかも対話しているように見せるシステム「ELIZA(イライザ)」が登場した。SiriにELIZAについて尋ねると、「私はELIZAから多くを学びました」「彼女は私の最初の先生だったんですよ!」などと答える。

自ら学習する知能へ

しかし、同時期に検索エンジンが誕生し、2000年代にインターネットが普及すると、WEB上には大量のデータが蓄積され始めた。その後、それらのデータを用いた機械学習(マシンラーニング)が広がり始め、近年の第三次AIブームにつながることとなる。機械学習ではコンピュータが大量のデータを処理しながら、イエスとノーに判断を分ける。さらにその分け方を自ら学習するため、未知のものに対しても、判断や予測ができるようになった。第二次ブーム時のように、人間がすべての知識を管理する必要がなくなったのだ。

現在はAI技術の核となる機械学習に加え、深層学習(ディープラーニング)の波も押し寄せ、大きなうねりが起きている。アップルはその中でどんな戦略を策定し、波に乗っていくのだろうか。3つのキーワードから、第三次AIブームとアップルの戦略を紐解いていこう。

AppleのAI戦略を知るための3つのキーワード

1 機械学習(マシンラーニング)

機械学習とは、AIにおける学習を指す。人間が自然に行っている学習と同様に、AIプログラム自身が学習し、データ内を洞察する。そのため、大量のデータを処理し、解析し、未来を予測することで、使うほどに学習していき、賢くなるのが特徴だ。「最適化」と「蓄積」は機械のもっとも得意とする分野であり、機械学習を繰り返すことで、人間がプログラムした以上のことができるようになる。Appleの音声アシスタントのSiriにも、この機械学習が取り入れられている。

Appleは機械学習の研究を進めており、2016年末には初めて、機械学習に関する論文を発表した。コンピュータが生成する人工的な画像(合成画像)は、使用する際に現実の画像とギャップがあることが問題だった。そこで論文では、シミュレーションされた教師なし学習「SimGAN」を提案。専門的な内容になるため、具体的な方法は割愛するが、2つのニューラルネットワークを使うことで、合成画像を改善する学習方法を導いた。

機械学習は近年、機械学習の一種である深層学習の発展もあり、劇的な進歩を見せている。学習を繰り返すことでどんどん賢くなる性質を持つ技術なだけに、今後さらにその進歩は加速するだろう。

AppleはAI研究の成果を共有する仕組みとして、「Apple Machine Learning Journal」を開設。エンジニアによる機械学習テクノロジー関連の活動に関する投稿記事を読むことができる。【URL】https://machinelearning.apple.com/

 

2 深層学習(ディープラーニング)

大量のデータから複雑なパターンを学習する技術。従来のデータ解析では、データや問題ごとに、特徴を抽出するアルゴリズムを工夫する必要があった。しかし、深層学習では、人間側が手を加えることなく、データから直接学習し、自動的に特徴を抽出する。機械学習同様、与えるデータが多いほど、深層学習の正確性は向上する。

深層学習がもっとも得意なのは、記号化できない画像データや音声データのパターンを認識することだ。たとえば、絵画の巨匠を筆のタッチを学習して再現したり、アニメーションのキャラクターの特徴を見つけ出したりする研究もあるという。

深層学習が一躍有名となったのは、2016年にプロ棋士が敗北したGoogleの「アルファ碁(AlphaGo)」からだろう。アルファ碁は深層学習をコア技術としており、囲碁AIのレベルを飛躍的に向上させた。学習にも二段階あり、膨大な棋譜のデータベースを学習し、プロ棋士と同様に打てるよう関数を調節。さらに、自分と自分が対戦することによって強化学習を行った。

Google DeepMind社によって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「アルファ碁」。アルファ碁は深層学習と強化学習を繰り返し、まさに独学でプロ棋士に勝利した。

 

3 ニューラルネットワーク

私たちの脳内には「ニューロン」と呼ばれる神経細胞があり、それぞれが結合して電気信号を送っている。ほかのニューロンから受け取った電気信号が一定以上の量に達すると興奮し、また別のつながったニューロンに電気信号を送り、それが繰り返されることで連係を取っている。

この仕組みを数学的にモデル化したものが「ニューラルネットワーク」である。まず、人間が例題と模範解答をニューラルネットワークに伝える。ニューラルネットワークは学習機能を持つので、人間が教えたことはもちろん、それ以外の問題も自分で判断したり推察したりできるようになる。たとえば、天気予報や株価の予測、偽札の判別などには、すでにニューラルネットワークが使われている。

ニューラルネットワークを搭載したAIが発展したものが深層学習であり、画像データや波形データのパターンを認識して抽出できるようになった。

近年よく聞かれるこの3つの用語だが、これらは密接に関係している。機械学習の一種に深層学習があり、その深層学習は多層のニューラルネットワークによって学習するという関係性だ。Appleの機械学習にも、さまざまな技術要素が含まれており、今後の発表を見ていくうえで、これらの用語はぜひ知っておくとよいだろう。

iPhone Xなどに搭載されているA11 Bionicチップには、「ニューラルエンジン」という機械学習のための専用ハードウェアが新たに搭載された。これはFace IDなどの機械学習のタスクに使用されている。