独自開発の曲面振動板を搭載したスピーカ。曲面サウンド(30W)とノーマルサウンド(20W)のハイブリッド構成となっており、従来型のスピーカとまったく異なる音響特性を持つ。難聴者専用に作られたものではなく、健聴者でも難聴者でも明瞭で聞き取りやすいサウンドを再生できるのが最大の特徴で、「音のバリアフリー」を実現する画期的なスピーカだ。
聴力に問題を抱えている人は多い。平成18年度に実施された厚生労働省の調査では、18歳以上で約34万3000人が聴覚障がいに該当する。しかし、ここには加齢や疾病などによる軽度・中等度の「難聴」、さらには片耳の難聴(一側性難聴)もほとんどの場合含まれていない。日常の小さな音や、騒音のある場所での会話で聴きづらさを感じたり、補聴器を利用するかしないかといった微妙なケースは相当な数にのぼる。日本補聴器工業会の調査では、日本人の約9人に1人は何らかの形で「聴こえ」に困っているという。
しかし、こうした軽度・中等度の難聴は外見からはわかりにくいため、生活でさまざまなトラブルに遭遇する。たとえば、テレビのボリュームの大きさを巡って近隣の健聴者と揉めたり、窓口での呼び出しに気がつかず順番を飛ばされてしまうのはよくあることで、災害時の緊急アナウンスが聞き取れないなど命に関わることもあるという。
こうした聴こえの問題を、意外なアプローチから解決してしまう製品が「ミライスピーカー」だ。開発のきっかけは実に意外なところにあったと語るのは、株式会社サウンドファンの佐藤和則代表取締役だ。
「開発のきっかけは、音楽療法を手がける大学の先生から聞いた“難聴の高齢者は通常のスピーカよりも蓄音機のほうがよく聞こえる”という話でした。蓄音機のラッパ部分もバイオリンのような楽器も、曲面で構成されているのが特徴であることに気づき、すぐに試作機を作りました。これを重度の加齢性難聴であった父親に聞かせたところ、『補聴器を使わなくてもよく聞こえる』といわれたのです」
また、驚くことに楽器の原理を利用した試作スピーカは、健聴者にはうるさく聞こえず、遠くに離れていても音が減衰せずハッキリと聞こえた。この出来事に確信を強めた佐藤氏は、2013年に同社を設立、ミライスピーカーの開発と製造販売を開始した。
音を聞きやすくするために曲面フォルムを採用
ミライスピーカーのハイスペックモデルである「Curvy(カーヴィー)」は、曲面の振動板のデザインを強調するため、側面から見ると半円状のユニークなスタイルとなっている。指向性がなく単体でサウンドが鳴るが、通常のステレオスピーカのセンターに追加するという設置方法もある。本体サイズは138(W)×250(H)×250(D)mm、重さは約3.2kgとしっかりとした作りだ。色はホワイトとブラックが用意されている。
音が増幅する原理が単純であることを示すため、佐藤氏は何の変哲もないセルロイド板を用意し、オルゴールと密着させて音を鳴らし始めた。すると、セルロイド板を曲げて行くほどにオルゴールの音が大きくなり、部屋中に音が行き渡った。まるで手品のような光景である。
「130度くらいの曲げ方が音が大きくなるピークで、この音は最大で70~80メートルほど届き、指向性がありません。また、不思議なことに振動するセルロイド板を手で押さえてもほとんど音は小さくなりません」
原理自体は単純だが、「なぜ健聴者にも難聴者にも同じように明瞭に聞こえるのか」という理由については未解明な部分があり、メカニズムを解明するため、大学と共同研究を進めている。
「これまで約600人以上の難聴者に試してもらいましたが、6~7割以上の人がミライスピーカーのほうがよく聞こえると報告しています。テスト方法も日本聴覚医学会の基準に沿った厳密なテスト方法ですから、信頼性があります」
ミライスピーカーは難聴者だけでなく、健聴者にとっても聞き取りやすいため、「音のバリアフリー」を実現するものとして期待されている。すでに銀行や役所のロビーなどの呼び出しアナウンスや高齢者施設、セミナー会場での拡声器などさまざまなシーンでの導入が進んでいるそうだ。また、個人向けの販売もされており、現在は渋谷、新宿、名古屋、大阪のタワーレコードや、八重洲ブックセンター本店などで試聴が可能だ。さらに、2週間の無料貸し出しサービスもあるので、音の聞こえ方に不安を感じている人は、公式WEBサイトから問い合わせてみてはいかがだろうか。
テレビなどのオーディオ端子につなぐだけですぐに使える!
オーディオミニプラグ(AUX)とRCAのライン入力を備えているので、テレビなどのオーディオ端子と接続すればすぐに利用できる。Macや以前のiOSデバイスのヘッドフォン出力端子の場合は、変換ケーブルを介することで利用可能だ。また、モノラルのマイク入力も備え、距離が離れても聞こえ方が変わりにくいことから、セミナーやイベント会場などでの利用にも適している。
振動板を曲げるだけでサウンドのエネルギーが広がる
ミライスピーカーの基本構造はいたってシンプル。アクチュエータに曲げられた振動板が装着されているが、この板の素材自体は特殊なものではない。「原理的にはコピー用紙でも音を増幅できる」と佐藤氏はいう。アイデア自体を模倣することはできてしまうため、各種の国際特許で何重にも保護をしている。この辺りはビジネス経験豊富な佐藤氏ならでは。
遠くでもクリアに聞こえ近くで聞いてもうるさくない
通常のコーン型の振動板を搭載したスピーカとミライスピーカーのサウンドの違いを解説した模式図。曲面振動板では音波同士を干渉させずにエネルギーの高い状態で、遠くまでエネルギーのある音を届けることができる。マイクを近づけた際にハウリングが発生しないのも利点だ。
次世代モデルでは有機ELパネルを採用?
同社では、ミライスピーカーの仕組みを利用してさまざまなモデルを開発中。次世代モデルの1つである「Filmo(フィルモ)」は圧電フィルムを振動板としており、ここに有機ELパネルを組み込めば文字やイラストなど視覚情報が表示できるので、街中の観光案内板などへの応用が可能。インバウンド向けの製品も期待される。