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ホームポッドの音楽機能はどこまで期待できる?

著者: 牧野武文

ホームポッドの音楽機能はどこまで期待できる?

アップルのホームポッド(HomePod)の発売を待ちきれず、アマゾンエコーを購入してしまった。使ってみてわかったのは、意外に音楽デバイスとして優秀だということだ。アマゾンエコーでこれなら、音の良さを謳うホームポッドはもっとすごいのではないか。ホームポッドの音楽機能はどこまで期待できるか。これが今回の疑問だ。

小洒落たセリフはAIの本質ではない

アマゾンエコーとグーグルホーム(Google Home)が相次いで発売され、2018年にはアップルからホームポッドの販売が予定されるなど、にわかに「スマートスピーカ」が話題を呼んでいる。世間では「人工知能(AI)との円滑な会話」「家電や照明の音声制御」というところに注目が集まっているようだ。どこに注目し何を期待するかは人によって異なるので押しつける気はさらさらないが、私個人はこの2つにはあまり期待をしていない。

  「人工知能との会話」というと、映画「スター・ウォーズ」のC3POのように時にウィットがあり、時に皮肉がある知的な会話を求めがちだ。確かにSiriは、ウィットに富んだ返しをしてくることがある。でも、それは知能ではなくて、開発者が仕込んだものにすぎず、必須ではない。

必要としているのは、状況判断と推論の知能だ。たとえば、(8時に起こして)「明日12日午前8時にですね」(そう)「アラームをセットしました。午前9時にタクシー配車を依頼しますか?」(いや、地下鉄で行くからいい)「承知しました。午前10時、Mac Fanでの予定に合わせた公共交通機関のルートをiPhoneに転送しました」(ありがとう)「12日午前の東京の天気は小雨が予想されます。最低気温は4度。厚いコートと傘をご用意ください」というように、クラウドに保存されている予定表、位置情報などのデータ、過去の履歴から次の行動を推論して、すべてを先回りして提案してくれる知能だ。

なんのことはない。1988年にアップルが公開したコンセプトビデオ「ナレッジナビゲータ」の世界だ。現在、Siri(とアイクラウド)は、ナレッジナビゲータにかなり迫るところまで進化してきている。ホームポッドには音声認識コマンドのベースとしてSiriが搭載されるが、ホームポッド用にSiriを大幅にアップデートするだろう。こういう人工知能本来の、知性のある「対話」ができるかどうか大いに期待をしている。

操作が不要なのが本当の「いい家電」

スマートスピーカによる家電制御も、個人的にはあまり期待をしていない。なぜなら、照明で言えば、「壁に設置されたスイッチ」というのは現状で最高のインターフェイスだからだ。指で押すだけで操作でき、自宅であれば自然に位置も覚えてしまうので、暗闇でも操作できる。スイッチは部屋の出入り口にあることが多く、「照明を消して部屋を出る」「部屋に入り照明を点ける」という行動シナリオにも合致している。

音声で照明や家電を制御するのは確かに近未来的な感じがして楽しいが、生活家電の最高のインターフェイスは「インターフェイスそのものが消滅してしまう」ことだ。たとえば、玄関、トイレ、洗面室などの照明を人感センサのライトにしている家庭も多いと思う。入れば点き、出れば自然に消えるという「操作をしない」ことが最高のソリューションなのだ。

操作をするのは色味や明るさを調節するときだろうが、これも本来は人工知能により、外の明るさ、室温、時間などを考慮して自動で調整し、操作をしないというのが最高のソリューションのはずだ。音声で「少し明るく」「少し暖色に」と調整するのはかえって煩わしいような気がする。

アップルはこのあたりをよく理解していて、ホームキット(HomeKit)が使われているシーンとして病院の事例をよく紹介している。ベッドから動くことができない特殊な環境下では、照明やカーテン、家電などをiPadから操作できるホームキットは強力なソリューションになる。また、ホームキットの場合、外出先からの制御も可能なのが利点だ。出掛けてから自宅の家電の状況を確認し、主要な家電をオフにし、すべての鍵をロックするといったことはスマートスピーカ単体ではできないので、ホームポッド+ホームキットの連係に期待したい。

音楽の評価が声でできる

アマゾンエコーを買ってみて、うれしい誤算だったのが「ラジオ」と「音楽」だ。エコーではラジコ(radiko)経由でラジオを聴くことができ、プライムミュージックで音楽を聴くことができる。360度モノラルスピーカというのは、音にこだわる人からはいろいろ不満があるのかもしれないが、BGMとして音楽を聞き流す目的であれば満足できる音質だと思う。

また、プレイリスト、ジャンル、アーティスト名などを指定して音楽を再生できるが、究極のBGMは自分専用のラジオ局を作ってくれることだ。こちらの好みを推察して、好きそうな音楽を次々と流してくれる。そういう試みは、15年以上も前からラストFM(Last FM)、パンドラ(Pandora)などのサービスが提供してきた。しかし、面倒なのはこちらの好きな曲と嫌いな曲を学習させなければならないことだ。iPhoneでラストFMを聞いていた場合、好きな曲がかかったら、アプリを表示して「いいね」をタップしなければならない。この作業が煩わしい。

エコーでは、音楽を流しているときに「アレクサ、これはなんていう曲?」と尋ねれば曲名とアーティスト名を教えてくれ、「アレクサ、この曲いいね」と言えば「評価を保存しました」と答えてくれる。これを繰り返していけば、自分の好きな曲だけが流れる自分専用ラジオ局ができるだろう。

音楽を強く志向したスマートスピーカ

ただし、惜しいのは、アマゾンプライムミュージックに用意されている曲が100万曲と少ないことだ。いわゆる誰でも知っている有名な曲のみという感覚だ。アマゾンミュージック・アンリミテッド(4000万曲以上)を契約すればいいのだろうが、それならば、アップルユーザとしてはアップルミュージック(Apple Music)を利用したくなる。

その点で、ホームポッド+アップルミュージックの組み合わせは、音楽デバイスとして最強のものになるのではないかと期待している。少なくともBGM用に自分専用のラジオ局を作るのは、音声で簡単にできるようになるだろう。さらに、コアな音楽ファンのために、プレイリストを音声で簡単に作れる機能や今よりもっと賢い検索機能を提供してくれるのかもしれない。

ホームポッドが349ドル(約3万8000円)とアマゾンエコーやグーグルホームと比べて高価なのは、オーディオデバイスとしての完成度を高めたからだとアップルは説明している。空間の状況を把握し、どのような形状の部屋でも最適な音楽環境を作ってくれるビームフォーミングテクノロジが搭載されているという。

しかし、アマゾンエコーでもBGMを聞くデバイスとして考えれば、今までのどのデバイスよりも理想形に近いものになっている。ならばホームポッドは、スマート機能を備えた音楽デバイスとしてより完成度の高いものになって登場してくれるはずだ。ティム・クックCEOの「ホーム音楽の再発明」という言葉は嘘ではないと信じている。

Siriは、ちょくちょくこういった小洒落た返しをしてくるが、これは人工知能の本質ではない。単に開発者がそういうセリフを仕込んでいるだけにすぎない。

Appleは30年前の1988年、ナレッジナビゲータというデモ映像を公開した。この世界は、iPhone、iPad、Siriなどで実現しかかっている。今見ても素晴らしい映像なので、YouTubeで「アップル ナレッジナビゲータ」と検索してほしい。

Amazon Echoアプリから、さまざまなスキルをオンにできる。スキルとはEchoの追加機能のこと。すでに400個程度のスキルが公開されている。

自宅のAmazon Echo。「ダイニングテーブルの真ん中に置いてください」というが、ご覧のとおりACアダプタからケーブルで電力を供給しなければならない。このケーブルの始末があるため、結局、壁際に置くしかなくなる。とても残念な仕様だ。

文●牧野武文

フリーライター。アマゾンエコー(Amazon Echo)で素晴らしいのは、マイクの感度。声を張って話しかけなくても、独り言の音量でも認識してくれる。テレビがついていて、うるさくても、無反応や誤認識が極めて少なくて驚かされた。