2017年6月のWWDC(世界開発者会議)の基調講演でティム・クックCEOより最高齢参加プログラマーとして紹介された若宮正子さん。連日マスコミなどの取材を受け注目を集めているが、その講演が2017年11月5日、教育向けイベント「Edvation x Summit 2017」にて行われた。
ひな壇アプリ誕生秘話
「高齢化社会の到来にも関わらず、パソコンのソフトもスマートフォンのアプリもハイシニア層向けのものが少なかった」と語るのは、マーちゃん先生の愛称で知られる82歳のiOSプログラマー・若宮正子さんだ。現在は地元の神奈川県藤沢市でパソコンサロンを営む若宮さんだが、パソコンを始めたのは60代を迎えてから。iOSアプリのプログラムについて学び始めたのはなんと81歳からだったという。
そのきっかけは、東日本大震災のボランティア活動を通じて知り合った宮城県塩釜市在住のアプリ開発者小泉勝志郎さんとの出会い。小泉さんは、もしハイシニア層のアプリがないと思うのであれば、若宮さんが自らアプリを作ることに意味があると薦め、スカイプやフェイスブックメッセンジャを利用してアプリ開発を遠隔でサポートした。
ウィンドウズユーザであった若宮さんは開発に必要なMacの基本操作を覚えるところからのスタートということで戸惑いもあったというが、驚くべき速度で操作をマスターし、英語の壁も乗り越えて初のiPhoneアプリ「hinadan(ひな壇)」をひな祭り前の2017年2月にリリース。
「アップルからのメールでアプリが承認(Approved)されたと知らされたときは本当に感動して舞い上がってしまいました」
hinadanアプリの内容は、ひな人形をひな壇の所定の位置に正しく配置するというシンプルなゲーム。だが、このテーマを選んだのは若宮さんなりの狙いがある。それは「日本の伝統的な風習なので、しきたりごとの知識がある年寄りのほうが有利」だからだという。また、人形を配置する操作をタップで行う理由について「シニア層は指先が乾いていてスワイプ操作がしにくいんです」とユーモアたっぷりに語り会場を笑わせた。
アプリ公開後はマスコミ報道でも取り上げられ、世界にも配信されるなど大きな注目を集めた。そして、2017年6月に開催されたアップルのWWDC(世界開発者会議)の基調講演で紹介されたことは本誌読者ならご存知のとおり。
hinadanアプリは2017年10月末現在で90万近いインプレッション数と5万3000ダウンロードを達成している。若宮さんは、その数字にも驚いたそうだが、ユーザから「親から子どもまで三世代で楽しめた」「ゆっくりしたモードなので特別支援学級の生徒にも使える」といった利用者からのコメントに大きな喜びを感じたという。
「不完全なアプリ1本で有名になれたのは怪我の功名です。ゲームアプリの新しい可能性を切り拓いたという評価もいただき、多くの人に使っていただいていることをうれしく思っています」
1935年生まれ、今年82歳の若宮正子さん。退職後に神奈川県藤沢市で近所に住む高齢者向けにパソコンサロンを開き、パソコンに親しんでもらうためにExcelを利用した「エクセルアート」を考案して評判を呼んだ。その後、81歳からiPhoneアプリ開発をスタート。その活動が評価され、政府の人生100年時代構想会議の有識者メンバーとなった。
未来を変えましょう
今後はさらにプログラミングの勉強を進め、体の不自由な人や高齢者でも楽しめるアプリや日本の伝統を後世に残せるものを作っていきたいという若宮さん。「創造することこそ、人工知能にできないもっとも人間的な活動だと思います。だからこそ私は“創造的でありたい”のです」。
また、既存の学校教育で取り残されがちな、個性的で発想がユニークな子どもたちが学べる環境づくりを支援していきたいとも語る。そのためには、自分もアプリ開発で苦労した「先生探しの難しさ」を解消できるマッチングサービスや、子どもが自由に作りたいものを作れるためのデバイスの整備や環境構築が必要だと述べた。若宮さんの創造活動にこれからも目が離せない。
hinadan
【開発】Masako Wakamiya 【価格】無料
若宮さんが世界から注目を集めるきっかけとなった「hinadan(ひな壇)」。コーディングは遠隔でサポートを受けつつ独自で行い、App Storeでのリリースを成功させた。雛人形のイラストはWordのシェイプアート機能によるもので峰尾節子さんが作成、ナレーションはプロの声優が協力した。
Windowsユーザであった若宮さんがiPhoneアプリ開発で遭遇したハードルのひとつが初めてMacを利用することであった。最初は戸惑うこともあったがすぐに慣れ、現在はMacとWindowsを両方使っているという。