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頼れないサービス、磨かれる自分力

著者: 三橋ゆか里

頼れないサービス、磨かれる自分力

海外に住んだことのある人がよく漏らすのが、「外に出てみたことで、日本の良さを再認識する」ということ。これは私も、東京からロサンゼルスに引っ越してきたときから実感しています。船便の荷物が届く当日、クロネコヤマトの担当者の方から「10分ほど遅れます」と電話が入りました。3年ほど日本に住んでいたアメリカ人の夫も、「さすが日本のサービス」と驚いていました。

日本では、約束の時間に遅れるなら電話の一本でも入れるのが普通という感覚ですが、こちらでは業者がそれぞれ特有の時間軸で動いているかのようです。何度か水道業者や修理業者などを頼んだことがありますが、数時間遅れるのなんてざら。約束の時間が2時間過ぎてもやってくる気配がないため連絡してみると、悪びれた様子もなく「あと1時間になりそう」と。結局、2時間後にやっと訪れる始末。

アメリカのスーパーでは、店員同士がおしゃべりをしてお客を待たせるのは日常茶飯事。テキパキする気なんて毛頭なさそうです。また、近隣のレストランから出前を頼んだときのこと。何度か電話して催促したにも関わらず、料理が届いたのは、なんと指定時間の3時間後。事実に即して低いレビューをつけたところ、店長らしき人から「タダにしたのに何で悪い評価をつけるんだ!」と脅迫めいたメッセージが届きました。最初から時間どおりに届ければいいのに…と頭をかしげてしまいます。

残念ながら、サービスの品質に改善が求められるのは、弁護士や病院なども同じです。ときには最小限のことすら忘れてしまうようなことが珍しくありません。グリーンカードを取得申請するために弁護士を使った際、必要書類を細切れに出してきてなんとも要領が悪い。これは? あれは? とこちらから細かく確認しなければ先に進みません。そのおかげで、一度で済むはずの外出が数回に渡るようなことも。病院も似たり寄ったりで、処方されるはずの薬が抜けていて催促しなければいけなかったり、掛け直すと言われた電話がかかってこなかったり…。

と、よろしくないサービスクオリティばかりを例に挙げてしまいましたが、日本と同じ、または日本より優れていると感じるサービス業に、レストランやWEBサービスがあります。レストランに関しては、チップの存在が大きいでしょう。チップは飲食代の20%が平均ですが、自分のサービス次第でそれが上りも下りもするのですから、やる気につながっているはず。また、昨今のWEBサービスのメールやチャットを使ったカスタマーサポートは、全体的にレスポンスが速い印象です。

約2年半前にアメリカに引っ越してきたばかりの頃は、こうした違いにちょっと参りました。パイプ管の修理に来たおじさんは、遠慮なしに寝室やバスルームに土足で入ってくるし(これは文化の違いでもありますが)、時間指定の再配達なんて存在しません。日本の宅配業者の2~3時間ごとの再配達指定がまるで夢のよう…。でも、時間はかかったものの、結局割り切ることにしました。自分がコントロールできないことを気にしたりイライラしたりしても仕方がない、と。

さらには、サービスの質が不安定で安心できないからこそ、身についた術があるかもしれない…とすら考えるようになりました。アメリカでは、嫌でもプロアクティブ(積極的)になることを強いられるからです。弁護士や医者など頼れるはずの人でも、自分のことは自分で管理するしかない。日本にいたら安心して任せられるようなことを不安に感じることで、とにかくアクションあるのみ! と行動力が高まった気がします。

「郷に入れば郷に従え」といいますが、そこで生じてしまう“違和感”には、少なからず学べることがあるのかもしれません。

©Freedomz

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp