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Apple TV 4K買いか、否か

著者: 山下洋一

Apple TV 4K買いか、否か

2015年9月に第4世代モデルが発売開始されてから約2年。AppleのセットトップボックスであるApple TVが「4K」として生まれ変わりました。HDの4倍のピクセル数を誇る4Kのみならず、ハイダイナミックレンジにも対応し、より高精細に映画やテレビ番組、アプリを楽しめます。

さらなる高みへ

tvOSを搭載し、「テレビの未来はアプリ」とアップストアのエコシステムをテレビに拡大した第4世代のアップルTV。2015年の登場から2年が経過し、本体デザインはそのままに、これからのリビングルームのエンターテインメントを見据えて中身を大幅に強化した「アップルTV 4K」が9月22日に発売されました。名前が示すように4K映像出力、そしてHDR出力に対応し、4Kテレビとの組み合わせで、シャープで生き生きとした映像を表示します。

米国の4K放送は開始に向けた整備が始まったばかり。一方、ネット配信に目を向けると2014年にネットフリックスが先行して4K配信をスタートさせ、アマゾンプライムビデオも続いています。アマゾンのファイアTV、ロク(Roku)といったアップルTVのライバルは4K対応済み。ただ、米国の一般家庭が契約するブロードバンドはサービスの伝送速度が4K映像のストリーミングに不十分で、4K配信を存分に楽しめる人は限られていました。

そうした中、ISPが重い腰を上げて4K配信に耐える接続サービスへのアップデートを開始、4Kテレビの価格が手頃になってきたことも踏まえ、今年のホリデーシーズンは4Kテレビが人気商品になると見られています。

過去を振り返ると、白黒からカラー、HDといったテレビの変化は常に地上波放送の対応に牽引されてきました。今回初めてネット配信主導でテレビの買い替えが実現しそうです。ネット配信に関わるメーカーにとって、4Kへの移行は大きなチャンスであり、その波が大きくなるタイミングを捉えるようにアップルはアップルTV 4Kを投入したのです。

アップルTV 4Kの外観は前モデルと同じ、インターフェイスもHDMIと有線LAN、電源ポートと変わりません。でも、中身はすべてアップグレードされています。システムオンチップにA10Xフュージョンを搭載。有線LANはギガビットイーサネット、無線LANもデュアルバンド同時接続に対応します。HDMIは4K規格に対応する2.0aです。

iTunesストアではハリウッドのさまざまなスタジオが提供する4Kコンテンツを、HDコンテンツと同じ価格で販売します。すでにHDコンテンツを購入済みのユーザには、自動的に4K版へのアップグレードを提供。また、ネットフリックスやアマゾンプライムビデオなどの4K配信も間もなく楽しめるようになります。

OSはtvOS 11です(米国のみの提供だった「TV」アプリの提供は、今回日本は見送られました)。ラインナップは32GBモデルと64GB、価格はそれぞれ1万9800円、2万1800円。第4世代アップルTVも32GBモデル(1万5800円)が引き続き販売されます。

Apple TV 4Kの仕様

TOP

サイズは98mm(W)×98mm(D)×35mm(H)と第4世代Apple TVと同じサイズです。重量は425グラム。

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Siri Remote

Siri Remoteのサイズも同様。Siri Remoteは少しだけデザインし直され、新しく「menu」ボタンの周りを白い円で囲むようになりました。

Apple TV 4Kの注目ポイント1「A10X Fusion」

新チップを搭載

手頃な価格も重要であるアップルTVには、これまで一世代前のプロセッサが採用されていましたが、アップルTV 4KはA10Xフュージョンを搭載。春に発売されたiPadプロに採用されたプロセッサです。「X」を冠するAプロセッサはその世代の性能強化版であり、A11バイオニックが登場したとはいえ、A10Xはまだ色あせてはいません。第4世代アップルTVが備えるA8チップと比べると、CPUの速度は2倍、GPUは4倍。4K/60fps動画再生やメタル2を用いた迫力あるゲームを楽しめるように、パフォーマンスを優先した選択と言えます。

A8チップは20nm製造でした。A10Xフュージョンは10nm製造であり、微細化の効果で発熱と消費電力を抑えながら性能が引き上げられています。また、A10世代のチップは高性能コアと高効率コアを備えたマルチコア仕様。3Dレンダリングやゲームといった演算能力が求められるときには高性能コアをフル活用し、高速な処理が不要な場合は高効率コアを用いてトータルの消費電力を抑えます。第4世代アップルTVはヒートシンクを大きくする必要から本体サイズが大きくなりましたが、アップルTV 4Kは飛躍的なパフォーマンスの向上を果たしながら本体サイズは変わっていません。

ストレージが限られるApple TVでは、アプリの実行プログラムとリソースだけをストレージにインストールし、それら以外のコンテンツは必要に応じてダウンロードします。これまで実行プログラムなどの上限は200MBでしたが、今年初めに4GBに引き上げられ、今後本格的なゲームが増えると期待されています。

Apple TVが「ホビー」から「コンテンツ戦略」デバイスという位置づけに変わったことを考えるとパフォーマンスの強化は道理にかなったアップデート。イベントではパフォーマンスの向上を「わずかな向上ではない、驚きに値する向上だ」とアピールしていました。

Apple TV 4Kの注目ポイント2「4K」

とにかく高精細

4Kは解像度から付けられた呼び名で、「K」は1000の意。つまり「4000」です。横×縦の画素数が4000×2000ピクセル前後の規格を略したものが4Kと呼ばれます。アップルTV 4Kは2160p、3840×2160ピクセルの解像度のビデオ出力に対応。画面アスペクト比は16対9。従来のアップルTVがサポートしていた1080p、1920×1080ピクセルに比べて総画素数が4倍です。

大画面で見る4Kの画質は圧倒的です。ストリーミング配信だと配信速度とのバランスが図られますが、それでもフルHDに比べたら迫力が段違い。顔の陰影、暗部階調の表現もしっかりとしていて、また服のテクスチャなどディテールもしっかりと感じられます。

4Kの実用放送が開始されるのは2018年末になります。今はまだ一部のコンテンツしか4Kで楽しめないのに「4Kテレビが必要なの?」と感じている人も少なくありません。でも、4Kの画面を見慣れてしまうとフルHDには戻れなくなります。それはiPhoneやiPadのレティナディスプレイ、またはiMacのレティナ4Kディスプレイを見慣れた感覚に近いものです。アップルTV 4Kは4Kビデオスケーラを内蔵し、HDコンテンツも4Kテレビで美しく視聴することができます。

米国ではデジタルテレビ放送の標準規格ATSCの3.0で4Kの実用放送を目指しています。ATSC 3.0では、これまでのTS方式からIPベースの伝送方式に変わります。アプリケーションはHTML5、コーデックはスケーラブルHEVC。それによって放送とインターネットの機能が本格的に融合することになり、アップルが提唱する「テレビの未来はアプリ」の可能性が大きく広がることになりそうです。アップルTV 4KとtvOS 11は、そんな次世代のテレビの視聴体験も見据えたアップグレードです。

4Kテレビの機能を自動検出して設定を最適化し、最高品質の画像を映し出します。またHDテレビでも、最新の4Kドルビービジョン対応の有機ELテレビでも、テレビの能力に合わせて最高の解像度で出力するので、どのような環境でも美しい映像を楽しめます。

Apple TV 4KではSiriが賢く視聴をサポートしてくれます。いつも使っているサービスのどの作品が4K品質で配信されているか不確かでも大丈夫、Siriに「4Kの映画を見せて」と頼むと見つけ出してくれます。

20世紀フォックス、パラマウント、ユニバーサル、ワーナー・ブラザースなど、ハリウッドのメジャースタジオがiTuensストアに4K HDRコンテンツを提供、ネット配信から4Kの波が起こりそうです。

Apple TV 4Kの注目ポイント3「HDR」

表現の幅を広げる技術

4Kとともに映像面のアップグレードとなるのがHDR(ハイダイナミックレンジ)です。HDRは広いダイナミックレンジで画像や動画を記録し、そして表示するためのディスプレイ技術。たとえば、従来の映像で太陽やネオンを撮影したものを見ても、現実の世界でそれらを見たときに感じる「まぶしさ」とは異なります。

HDR技術では、高低の幅が従来の約100倍の輝度を記録できます。それを対応ディスプレイで表示すると、これまで表現できなかった「まぶしさ」や夜空のかすかな光などが再現されます。

アップルTV 4Kは、HDR対応ディスプレイとの互換性を保証する基本形式の「HDR10」と、ダイナミックメターデータを使用してシーンごとに輝度を最適化する「ドルビービジョン(Dolby Vision)」の2つのHDR形式に対応しています。

4K(左)と4K HDR(右)の表示を並べて比べると、その差は歴然としています。4Kテレビの購入を考えているなら、その高解像度をさらに優れた画質で映像コンテンツを楽しめる4K HDRがこれからのトレンドです。

アップルがスペシャルイベントで披露した4Kドルビービジョンの映像サンプル、ドバイの街を走る車のヘッドライトのまぶしさ、ビルの電灯の光のディテール、夕暮れの霞が美しく表現されています。

Apple TV 4Kの注目ポイント4「tvOS 11」

インターフェイスががらりと変化

今年のスペシャルイベントでは、tvOSのアップデート内容が紹介されませんでした。Appストアや「TV」アプリが追加された昨年に比べると、今年のtvOS 11は新機能は少なく、パフォーマンスや安定性を向上させ、iOSやmacOSとの連係を保つアップデートにとどまっています。でも、体験の向上はメジャーアップデートと呼ぶのにふさわしいものです。

ユーザインターフェイスに関しては、昨年追加された表示モードの切り替えが改善されました。ライトかダークのどちらかではなく、明るい昼間はライトモード、夜間にはダークモードというように昼と夜で自動的に切り替わる設定を選べます。

アイクラウド(iCloud)を通じたデバイス連係も大きな強化点です。これまでエアポッズ(AirPods)を使うにはブルートゥースアクセサリのペアリング設定を行う必要がありましたが、アイクラウドアカウントに登録されているエアポッズの情報がアップルTVにも同期され、すぐにペアリングできるようになりました。またアイクラウドアカウントを通じて、ホーム画面を複数のアップルTVで同期する機能も追加されました。

複数のスピーカをサポートできるようになった「エアプレイ2(AirPlay 2)」に対応、ホームキット(HomeKit)との組み合わせでアップルTVからマルチルームオーディオをコントロールできます。また、エアプレイ2によって、オーディオストリーミングの安定性が向上します。

バックグラウンドフェッチとサイレント通知によって、アップルTVアプリでも「Appのバックグラウンド更新」が可能になりました。システムが対応アプリのスリープをバックグラウンドで解除し、ポッドキャストの新エピソードなど新しいコンテンツのダウンロード、データのリフレッシュといったことが自動的に行われます。

ほかにも、圧縮効率に優れた新世代のビデオコーデック「H・265/HEVC」と、HEVC由来の画像圧縮形式「HEIF」をサポート、Metal 2、Core MLフレームワークに対応するなど、アップルのプラットフォームの進化に追従するアップデートになっています。

明るい環境に最適なライトモード、薄暗い環境に適したダークモード、どちらに設定すべきか迷った人も多かったはず。tvOS 11では時間に応じて自動的にモードを切り替える設定が追加されました。

iPhoneなどでAirPodsをペアリングし、同じiCloudアカウントでApple TVにサインインしていたら、自動的にオーディオ出力デバイスのリストにAirPodsが表示されます。

Apple TVは自宅にあって電源に接続されているのでホーム・ハブに最適です。HomeKitにスピーカが追加され、AirPlay 2プロトコルをサポートするApple TVを通じて、家中のスピーカをコントロールできます。もちろんSiriを使った操作も可能です。

Apple TV用のアプリは、しばらく動作した後にスリープ状態になります。Appのバックグラウンド更新を有効にすることで、スリープ状態のアプリが定期的に背後でアップデートされ、新しいコンテンツを確認し、必要に応じてコンテンツを更新します。

Apple TVも第5世代、新しいApple TVを購入して、古いApple TVは寝室のテレビ用にというように複数を所有しているユーザもいるかと思います。tvOS 11では複数のApple TVでホーム画面とアプリの同期が可能です。

「TV」アプリがスポーツ中継をサポートし、応援しているチームの試合が「Watch Now」に表示されます。専用の「スポーツ」タブから現在放送されているすべてのチーム、リーグやスポーツイベントをチェックすることも可能。各試合のサムネイルにはリアルタイムのスコアが表示されます。

「TV」アプリのサポートが年内に7カ国まで拡大されますが、残念ながら日本は含まれていません。「TV」アプリに関しては、参加するサービスプロバイダーを重視し、それぞれの国で人気のあるサービスとのパートナーシップを実現した上で拡大するとしています。