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Apple Watch Series 3進化のポイント

著者: 氷川りそな

Apple Watch Series 3進化のポイント

S3とW2のチップで“独立する”デバイスに

基本性能を格段に向上

シリーズ3の持つ魅力は、外見はそのままに大きくパワーアップしたその内部のテクノロジーにあります。まず、メインとなるのは心臓部となる「S3」チップです。アップルウォッチ専用に設計・製造されたSシリーズは、ナンバーが示すとおり今回で第3世代のアーキテクチャが採用されています。CPUはデュアルコア化した「S2」からさらに70%近く高速になり、アプリがより快適に起動・動作するようになっています。同様に搭載されるGPU(グラフィックスプロセッサ)は、従来よりも滑らかに描画が可能となっています。

このS3チップの恩恵を受ける代表例が、新機能の「話せるSiri」でしょう。従来までアップルウォッチで利用できるSiriは他のiOSデバイスやMacと異なり、文字ベースの返答のみで、レスポンスも速くありませんでした。これが他のデバイスと遜色ない速度で応答し、音声で答えてくれるのです。アップルウォッチ上でのSiriを使った体験は、格段に向上するに違いありません。

また、内蔵するチップとしてワイヤレス機能を司る「W2」の存在も忘れてはなりません。GPSとFelica(Suicaなどのおサイフケータイ機能)に対応した前世代の「W1」からさらに向上し、ロシアの衛星システム「GLONASS」や日本国内向け準天頂衛星システム「QZSS」に対応することで位置情報の精度を高めています。さらに、気圧高度計を内蔵することで階段の昇降数や屋外での高度差なども単独でワークアウトに記録できるようになっています。

新機能を搭載しながら、Wi-Fi接続は85パーセント高速化し、ブルートゥースは最新の4.2までをサポート。基本的な部分も徹底的に強化しながら、消費電力を従来の半分に抑えることでバッテリの持続時間を従来と同等に維持しています。W2は、「一日中身に着けている」デバイスには欠かせない、極めて大きな役割を担っているチップなのです。

W2には、アップルウォッチを使ううえで重要な要素となる感圧タッチ対応ディスプレイや高い耐水性能、心拍センサやジャイロ、環境光・加速度センサ、後述するLTEに対応したモバイル通信モジュールとアンテナも組み込まれています。「iPhoneとペアにして使うパートナー」としてスタートしたこのウェアラブルデバイスは3度目の進化を経て、いよいよ独立して活躍できるスマートデバイスとしての第一歩を踏み出そうとしているのです。

性能を高めたS3やW2チップのほか、モバイル通信機能を内蔵しながら、シリーズ3のケースは、エンジニアリングの努力によって従来とまった同じサイズ。筐体裏蓋部分はコンマ数ミリ厚くなっていますが、目で見てわかるレベルではありません。

シングルコアでスタートしたApple WatchのCPUは、シリーズ3でデュアルコアとなり高速化。そのパフォーマンスは初代モデルやSeries 1とは比較にならないほど快適なレベルです。

W2では新たに気圧高度計を搭載。これによってステッパーやトレイルランといった高低差も重要な指針となるワークアウトの計測もApple Watchだけで行えるようになります。

使い込むほどに便利さが実感できるSiriですが、それもレスポンスの良さがあってこそ。Series 3の高いパフォーマンスによってようやくその真価が発揮されるようになります。

GPS+CellularモデルのApple WatchはLTEを使ったモバイル通信を実現するためにeSIMと呼ばれる従来のSIMカードの100分の1以下のサイズのモジュールを本体に内蔵しています(筐体左上の青い部分)。

新しいセンサをケースに組み込むために、Series 3のモバイル通信用のアンテナはディスプレイそのものがその役割を果たすという新しいアイデアで従来までの筺体サイズを維持しています。

 

LTEによるモバイル通信対応でもっと便利に

通信は欠かせない

アップルウォッチは、使えば使うほどその魅力を感じ、手放せなくなるデバイスだと評する人が少なくありません。通知を受け取ったり、ナビゲーションに用いたり、ウィジェットやエクセサイズに使ったりなど人によって利用方法は異なりますが、日常のさまざまなシーンですぐに使える利便性がこのウェラブルデバイスの評価を大きく押し上げているのが事実です。

しかし、依存度が高くなるほど不満に感じるのが「iPhoneが一緒にないと使える機能が少ない」ということではないでしょうか。シリーズ2からはGPSやFelicaに対応したことによってある程度解消されたものの、アップルウォッチが持つすべての機能を利用するにはiPhoneのCPUパワー、そしてネットワーク通信機能が欠かせないという現実があったのです。

今回のアップデートでLTEを使ったモバイル通信に対応したのは、この問題点の解決に大きく前進したと言えるでしょう。通信を単独で行えるようになったことで、iPhoneを置いたまま外出しても通知を受け取ってメッセージやコメントなどをチェック・返信したり、ネットワーク通信を必要としたウィジェット系アプリを単独で操作したり、より詳細なワークアウトやエクササイズを記録したりなど、活用の幅が大きく広がりました。

中でも特に大きく利便性が伸びる具体例としては、まずSiriが挙げられます。チップの進化によって「話せるSiri」となったシリーズ3ですが、ネットワークにいつでもつながることによって今までiPhoneでやっていた作業の多くも文字どおりの「ハンズフリー」で可能になります。

また、ミュージックもその使い方が大きく変わるはずです。従来はiPhoneから限られた曲だけを転送して聴くしかできませんでしたが、こちらもネットワークを介してアップルミュージック(Apple Music)のストリーミングサービスを利用することができるようになります。つまり、これによってアップルウォッチを実質無限の音楽を持ち運べる「次世代のiPod」として利用する、といった使い方も実現できるようになるでしょう。

アップルウォッチで電話

そしてもっとも重要なのが、音声通話のサポートでしょう。フェイスタイム(FaceTime)オーディオによる通話だけでなく、アップルウォッチは通常の電話として使用することが可能になっています。電話番号はiPhoneで使用しているものがそのまま使えるため、新たに番号を取得する必要も、周りの人たちに別の番号を伝える必要もなくシームレスに使えるように設計されています。

今回のモバイル通信対応は、単なる新機能というだけでなく「スマートウォッチの新スタンダード」を確立し、ブレイクスルーを果たす重要なアップデートとして歴史に刻まれる大事件になる可能性を十分に秘めています。

従来までのペアリングの概念

今までのApple Watchは、その作業の大半をiPhone側のCPUによる処理とネットワーク通信に依存していました。このためお互いが通信不能な距離まで離れてしまういわゆる「圏外」の状態では、その機能は大きく制限されてしまいました。

LTEによるペアリングの概念

セルラーモデルのApple Watchは、iPhoneとの通信ができなくなると自動的にLTEによる単独通信に切り替わります。これによって屋外のようにWi-Fiがない環境でもネットワークに接続して情報をアップデートしたり、通話が可能になります。

LTE対応だからこんなことができる!

通話

ネットワークを使ったFace Timeオーディオはもちろん、通常の音声通話も可能なため着信する相手を選ばないのは大きなメリットでしょう。また、電話番号はiPhoneと同じものが利用できるようにサービスが設計されているため、煩わしい手間をかけることなく使い始めることができるなどユーザビリティの設計も秀逸です。

使ってみるまではわざわざ時計で電話なんて…と思うかもしれませんが、ヘッドフォン不要でハンズフリー、さらに移動しながら通話できる利便性は慣れてしまうとなかなか手放せない快適さがあります。

Siri

Siriのレスポンスの正確さやリアクションの賢さを支えるのは、クラウド上に展開されている専用の解析ネットワークです。LTEに接続できるようになることでApple Watch単独でも充分なパフォーマンスを発揮できるようになれば、より「ハンズフリー」での操作が快適になることは間違いありません。

Siriは話しかけた内容を理解するのに、クラウド上にある専用のデータベースを利用しています。両手がふさがっている環境でもSiriがフル機能で使えるようになれば、Apple WatchはiPhone以上に便利に。

通知とメッセージ

会食やミーティング中などiPhoneの画面を見るのが難しいシチュエーションでも、通知を受け取って素早く内容をチェックできるのはApple Watchの大きなメリットです。加えて音声入力によるメッセージ作成ができるシチュエーションが増えれば、iPhoneを使わずにコミュニケーションできる自由度もぐっと増すでしょう。

大切な会話を遮ってiPhoneの画面を見るのはなかなか難しいもの。ミーティングと同僚とのコミュニケーションを両立させたいビジネスパーソンほどApple Watchのこの機能を絶賛するとも言われています。

ウィジェット

エクササイズのようになるべく荷物を減らしたいときにはSeries 3の持つパートナーシップは真価を発揮します。従来はGPSによる経路の記録までは可能でしたが、マップを使ったナビゲーションも併用できるようになることで、新規ルートの開拓やディレクションを受けながらの走行などより発展的なワークアウトが可能になります。

Apple Watchの中にあるアプリやウィジェットの多くはネット経由でデータを取得します。LTEが使えることでiPhoneを持って歩かなくても、ちょっとした作業であれば済ませられるのは便利です。

ミュージック

Apple Musicとの組み合わせが実装されることで、聴ける楽曲数が実質無制限となったミュージックアプリ。iPhone側から転送する必要もなくなったことで、いつでもどこでも自分のライブラリを持ち運ぶことが可能になります。これはネットワークに対応した「新しいiPod」と呼んでも差し支えないでしょう。

iPod shuffleやnanoでは容量が小さすぎる、かといってClassicでは大きいし重い…といった不満をすべて解消してくれそうなApple WatchとApple Musicの組み合わせには期待を抱かずにはいれらない人も多いのでは。

LTEを使うには追加のオプション契約が必要

Apple Watch Series 3でLTE機能を利用するにはキャリアとのオプション契約が必要になります。現時点でサービスを提供しているのはドコモの「ワンナンバーサービス(月額500円、2018年3月31日までに申し込むと初回180日無料)」や、auの「ナンバーシェア(月額350円、2018年12月31日までに申し込むと半年間無料)」、ソフトバンクの「Apple Watch モバイル通信サービス月額350円、2018年3月31日までに申し込むと半年間無料)」の3つ。現在契約しているiPhoneと同じキャリアである必要があります。また、このサービスを有効にするためにはiPhone SEもしくは6以降のモデルで、かつiOS 11にアップデートされていることが条件となります。

 

新機能満載!watch OS 4のアップデート

さらに使いやすくなる工夫

単にハードウェアの性能だけが向上しても、その体験は向上しません。アップル製品の「魔法」はソフトウェアとの組み合わせでこそ成立しているのです。今回も新製品のリリースとタイミングを同じくして、内蔵するシステム「ウォッチOS」がメジャーアップデートを果たしました。

アップルウォッチは通知やナビゲーション、ウィジェットといったさまざまな使い方が可能ですが、その中でももっとも注目されているのが「ヘルスケア」と「エクササイズ」です。このジャンルはウェアラブルデバイスだからこそ利便性が高まる機能であり、ウォッチOS 4でもこの部分が重点的に強化されています。

たとえば「心拍数」はアップルウォッチの背面にあるセンサを利用して定期的にモニタリングを行った結果を詳細にレポートするようになったり、「ワークアウト」ではより詳細に水泳の記録が取れるようになったり、高強度インターバルトレーニングに対応するようになりました。また、ジムに置かれたトレーニングマシンとペアリングすることで心拍数や速度、カロリーなどの測定値をデータ同期することも可能になるなど、その充実度の高さからもアップルの「本気度」が見て取れます。

ほかにも新しい文字盤のデザイン追加や、アップルミュージックに対応してデザインを一新した「ミュージック」アプリの投入など、デザインや機能面を丁寧にアップデートすることで、単独での使い勝手の向上が体感できるようになっています。まさに大型アップデートにふさわしい仕上がりといえるでしょう。

心拍数

アップルウォッチは、世界でもっとも利用されている心拍計測機の1つ。近年のヘルスケアブームもあり心拍数の定期的なモニタリングの需要が高まっている中、アップルはこの機能の大幅アップデートに着手しました。

ウォッチOS 4では今まで現時点の心拍数のみを表示する機能から安静時の心拍数の経過をグラフとして記録し続ける「現在」やワークアウト中、さらにワークアウトから通常時に戻るまでの「回復」、マインドフルネス機能を持つ「呼吸」などを含むサードパーティヘルスケアアプリなど、あらゆる場所から心拍数データを取得し履歴として表示できます。

また、アップルの医療用フレームワークである「リサーチキット(ReserchKit)」と「ケアキット(CareKit)」に大きなリソースを注いでいることでも有名なスタンフォード大学と提携し、不整脈の検知などより高度な使い方が可能になる「アップルハートスタディ(Apple Heart Study)」アプリを今秋からアメリカ国内で展開することがイベント内で告知されました。

心拍数の「現在」は俯瞰して今日全体の脈拍数の上下をチェックすることができます。

従来は平均値しかチェックできなかったワークアウトも時間の経過ごとの遷移が確認できるように。

文字盤

ウォッチOSのアップデートに際して、新しい文字盤の追加を心待ちにしている人も多いでしょう。今回はピクサーの人気映画「トイストーリー」がラインナップ。また、今回はデザインだけの追加に止まらない新たな試みも追加されています。たとえば「万華鏡」はテンプレート、もしくは自分の写真の中から好きなものを選択すると独自のアルゴリズムとに基づいて分析し、3つのスタイルで万華鏡のテクスチャを作り出します。

さらにアップルのインテリジェンスを垣間見える「Siri」も魅力的。この文字盤はコンプリケーション(時間表示以外の内容を表示する複雑時計機能)を固定せずに、そのときに役立つ情報をタイムリーに提供してくれます。

トイストーリーのバズやウッディの文字盤が登場しました。

万華鏡のアルゴリズムを使って加工することで、思わぬ写真がアーティスティックなデザインに化けることもあります。

文字盤にもSiriのインテリジェンスが導入。デジタルクラウンと併用すれば多くの情報がチェック可能に。

アクティビティ

アップルウォッチにおけるアクティビティは、ムーブ(どれだけアクティブに動いてカロリーを消費したか)、エクササイズ(軽運動以上の動作を何分したか)、スタンド(1時間の間で1分以上立ち上がって動いていたか)を3つのリングで表示してくれます。ウォッチOS4では、「より積極的に」をテーマに、アップデートが施されました。たとえば、日ごと週ごとの進捗状況からゴールをアップデートしたり、夕方には「あとどれくらいの運動をすれば今日の目標を達成できそうか」を教えて背中を押してくれたり、前月の結果に基づいて達成目標が変化する月間ゴールの設定など、今までよりもパーソナルに分析をしながら日々の生活をコーチングしてくれるようになっています。

毎朝、昨日までの進捗状況のまとめや今日のゴールを説明してくれます。

ゴールの達成条件を「あと何分ウォーキングすればいいか」など具体的に提案してくれるように。

月間ゴールも使っている人ごとに達成可能な目標にパーソナライズして設定されるようになりました。

ワークアウト

アップルウォッチでの利用率が高く、もっとも注目されている機能の1つでもあるワークアウトは、ウォッチOS 4で大きく改修されました。まず目を引くのは、変更されたUIデザインです。今まで以上に指先で選びやすくなるように全体が大きく見やすくなっただけでなく、前回と同じ設定ですぐに始めることができる「クイックスタート」によってメニューを素早く選べるようになりました。

エクササイズ内容には、トレンドを積極的に組み込んでいます。プールスイミングでは泳法やセットごとのペースといった細かな部分まで記録が可能。さらに、短時間に極めて負荷の高いトレーニングを行うことを繰り返す「高強度インターバルトレーニング」への対応も追加されています。

このほかにもトライアスロンのように内容の異なる複数競技のワークアウトの同時記録や、大手ジムメーカーのトレーニングマシンとペアリングしてデータを同期するソリューションに対応するなど、スタイルの自由度も前バージョンと比較して格段に向上しているのもポイントです。

指先で操作しやすいようにより大きく見やすくなったUIで使いやすさは格段に向上しました。

水泳はクロールや平泳ぎといった泳法の違いにも対応。より専門的な使い方に対応しています。

エクササイズ項目には新たにダイエットにも最適と言われる高強度インターバルトレーニングが追加。

ミュージック

LTEによるモバイル通信に対応したことで、単独での利用シーンの増加ができるアップルウォッチ。そのキラーコンテンツとなる可能性を秘めているのが、このミュージックでしょう。アップルミュージックに対応することでストリーミングで曲数無制限に聴けるようになるのは大きなメリットで、アカウント情報もiPhoneから引き継ぐので設定不要ですぐに使い始めることができる簡単さです。

プレイリストも同期するため、ワークアウトや通勤などに最適なセットもすぐに聴くことができますし、Beat 1をはじめとする人気ラジオステーションにも全て対応。エアポッズ(AirPods)と組み合わせれば世界最小のミュージックプレーヤとして活躍させることができます。

アートワークをフリップして操作可能になった新UI。移動しながらでも簡単に曲が選択可能になりました。

Apple Musicはプレイリストも自動同期。とにかく「何もしないですぐ使える」設計は秀逸です。