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Apple ID、DEP、VPP…、各種プログラムを理解しよう

著者: 吉田雷

Apple ID、DEP、VPP…、各種プログラムを理解しよう

監修:ダイワボウ情報システム株式会社

優良なアプリが勢ぞろい「App Store」

 

アップルがすべて審査

アップストア(App Store)は、アップルが展開するアプリ販売ストアです。iOS向けアプリが揃う「App Store」とは区別して、Mac向けソフトを扱うストアは「Macアップストア(Mac App Store)」と呼ばれる場合があります。アップストアでは、アップル純正のアプリのほか、サードパーティが開発した多種多用なアプリが無料・有料ともに公開されており、2017年2月時点で公開されているアプリはなんと220万本に達しています。

また、企業や教育機関でアプリを利用するにあたり重要な特徴といえるのが、アップストアで公開されているアプリはすべてアップルが審査を行っているという点です。そのため、ウイルスやマルウェアを含むような危険なアプリは登録されにくく、万が一紛れ込んだとしてもアップルがすぐに排除してくれます。そのため企業や教育機関では安心してユーザに利用してもらうことができます。iPadやiPhone、Macには標準で強力なアップル純正アプリがインストールされていますが、組織内で利活用をさらに図るためにはいかに導入目的にマッチしたアプリを使うかがポイントとなってきます。アップストアの利用は導入を成功へと導きたいIT管理者に必須といえるでしょう。

アプリを購入するためには、アップルIDが必要となりますが、企業や教育機関で購入する際には、アプリ購入を一括で行えるVPPに対応したVPPストアが企業・教育機関向けにそれぞれ用意されています。

 

●ビジネス/教育に使えるアプリ

iPhoneやiPadなどのiOSデバイスでは標準の「App Store」アプリから、Macの場合は「Mac App Store」アプリからアクセスできます。

 

個人向けとは違うノウハウが必要!「Apple ID」

 

端末ごとに振り分ける

「アップルID(Apple ID)」は、アップル製品やサービスを利用するときに必要なアカウントです。個人的に利用する場合は1つのアップルIDを自分のMacやiPad、iPhoneなどに登録して利用しますが、企業や教育機関などで組織として利用する場合も、ユーザごとにアップルIDを取得してデバイスに登録する必要があります。

個人利用の場合、アップルIDは自分自身で作成するだけで済みます。しかし、企業や教育機関の場合、それぞれのユーザにアップルIDを作ってもらうと、その後のデバイスやアプリ、コンテンツの管理などで面倒が起こります。そのため組織におけるアップルIDの作成は、管理者があらかじめ作成しておくほうが適切です。

また、組織内で使うアップルIDには前述したユーザが利用するためのものだけでなく、DEPやVPPなどアップルの法人・文教プログラムなどを利用するために「組織として」必要なものもあります。管理者は複数のアップルIDの必要性を理解して使い分けるのと同時に、きちんと管理しておく必要があります。

なお、iPadなどのiOSデバイスは複数のアップルIDを登録し、切り替えて使用することが可能ですから、たとえば個人のアップルIDと、企業や教育機関など組織のアップルIDを1つのデバイスに登録し、個人で購入したアプリと組織で導入したアプリを併用したり、アップルのさまざまなサービスをアップルIDごとに使い分けることが可能です。

 

●Apple IDのWEBサイト

Apple IDはAppleのWEBサイトから取得できます。【URL】https://appleid.apple.com/

 

●2つの作成方法のメリット/デメリット

(A)企業・教育機関で作成する

組織内のルールに基づいてアカウント管理が行えます。管理者がApple IDにアプリやコンテンツを割り当てることが可能となり、一元管理がしやすい反面、管理者の手間はやや増えます。

(B)使用者が作成する

管理者の手間は減るものの、アプリやコンテンツ、サービスの管理が難しくなり、組織内の運用ルールを守るのが難しくなりがちです。

 

 

専用のアプリを作るなら「Apple Developer Program」

 

アプリの配付方法で選ぶ

組織内で利用するiOSデバイス向けアプリやMac向けソフトを開発してデバイスで動作させたり、アップストア経由で配付したりするときに必要なプログラムが「アップルデベロッパープログラム(Apple Developer Program)」です。

アップルデベロッパープログラムはアップルIDを持っていれば個人でも登録でき、登録自体は無料で行えます。ただし、アップストアでアプリを配付する場合は年間メンバーシップの料金1万1800円が必要となります(組織で利用するためにはアップルID以外にD–U–N–S番号等も必要)。メンバーシップに登録すると、ベータ版のOSやさまざまな開発リソースにもアクセスできます。

企業においてアプリをアップストアに公開せず、従業員のみを対象として開発・配付する仕組みとしては「アップルデベロッパーエンタープライズプログラム(Apple Developer Enterprise Program)」があります。料金は年間3万7800円です。

そのほか、アップルは教育機関向けに「iOSデベロッパーユニバーシティプログラム(iOS Developer University Program)」も用意しています。これは学位を授与できる高等教育機関向けのプログラムで、iOSアプリ開発をカリキュラムに組み込むためのものです。よって、教育機関でも組織内で利用するアプリの開発・配付にはアップルデベロッパーエンタープライズプログラムを利用します。

 

●Apple Developer Program

 

●3つのアプリ開発プログラム

(A)App Storeで公開して配付する→Apple Developer Program

(B)App Storeには公開せずに配付する→Apple Developer Enterprise Program

(C)高等教育機関でiOSアプリ開発を行う→iOS Developer University Program

 

 

アプリを一括で購入して配付するなら「VPP(Volume Purchase Program)」

 

個別に買うより手間なし

企業や教育機関において、アプリをどのように入手するかは重要な問題です。デバイスの導入数が少なければ、ユーザ個々にそれぞれのアップルIDを用いてアップストアから入手してもらうことも可能でしょうが、大量導入の場合は管理側で一括して行いたいものです。というのも、個々にアプリを入手してもらうと、有料アプリの場合、どのように決済するかが担当者を悩ませる問題となるからです。アップストアではアプリの購入をクレジットカードかiTunesカードで決済できます。法人名義のクレジットカードや使い切りタイプのクレジットカードがあれば決済は可能ですが、iTunesカードの場合はアプリ購入後の残額をほかのユーザに移行できないので余ったお金が問題となります。さらに、ユーザに購入してもらうとアプリはユーザのアップルIDに紐付いてしまい再利用できなくなります。

そうした問題を解決するためにアップルが用意しているのが、「ボリュームパーチェスプログラム、Volume Purchase Program・以下VPP)」です。2012年10月から国内でも利用できるようになったこのプログラムに登録すると、IT管理者がアプリのラインセンスを一括購入して、それぞれのデバイスに割り振ることができ、購入と運用の手間をぐっと減らすことができます。購入したアプリはIT管理者のアップルIDに紐付けられるためアプリの回収・再配付が可能な点、MDMと連係させることで一括で配付できる点、教育機関向けに許可されたアプリは割引が受けられる点、クレジットカードのほかに「VPP Credit(Volume Purchase Program Credit)」と呼ばれる発注書によって購入ができる点などのさまざまなメリットがあります。

VPPには企業向け、教育機関向けの2つのVPPストアが用意されており、企業の場合は「ADP(Apple Deployment Program)」から、教育機関の場合は「ASM(Apple School Manager)」から登録できます。

なお、VPPを使って購入できるのは、アップストアで公開されているアプリとiBooksストアで公開されている電子書籍です(社内開発したカスタムアプリの入手も行えます)。

 

●2種類のVPPストア

VPPには、企業向けと教育機関向けの2種類が用意されています。

 

●VPPのメリット

(1)アプリや電子書籍を一括購入できる

MacとiOS用アプリのほか、iBooksを購入できます。

(2)カスタムアプリにも対応

サードパーティが自社向けに開発したカスタムアプリをVPPストアから一括で入手できます。

(3)発注書で購入する

発注書を利用すれば、VPPストアで使えるVolume Purchase Program Credit(VPP Credit)を購入できます。VPP Creditは一定の購入金額ごとに管理者にEメールで電子的に届けられます。

(4)効率よく配付する

MDMを利用してアプリや本をユーザやグループに割り当てることができます。アプリが不要になったら、ほかのユーザに割り当て直すこともできます。

(5)アプリが割引される

開発者が教育機関向けアプリとして公開を許可していると20個以上のアプリ購入で50%の割引が適用されます。

 

 

キッティングの手間を削減「DEP(Device Enrollment Program)」

 

ユーザ起動時にポリシー適用

iOSデバイスやMacを大量導入する際、それぞれのデバイスに初期設定(キッティング)を行うのは、端末が多くなればなるほど大変な作業となります。それを簡便化するためにアップルが用意しているのが「デバイスエンロールメントプログラム(Device Enrollment Program・以下DEP)」です。

DEPに対応した販売店からデバイスを一括購入すると、アップルもしくは販売店側でその端末のシリアル番号をDEPに登録してくれます。そして組織内では、DEPに対応したMDMサーバとDEP登録した端末を紐付け。あとは、MDM等で運用ポリシーに沿った初期設定を定めて構成プロファイルを作成しておけば、アップルデバイス初期セットアップのアクティベーション時に、ネットワーク経由で構成プロファイルが適用され、初期設定を施した状態でデバイスを監視下に置きながら使用させられるようになります。

また、DEPに登録しておくことでMDMを介してワイヤレスで監視することもできますし、ユーザが勝手にプロファイルを削除してMDMの監視下から外れてしまうのを防ぐこともできます。

DEPに登録するためには、法人の場合は「ADP(Apple Deployment Program)」から、文教の場合は「ASM(Apple School Manager)」から行います。現在DEPに対応した販売店は多数あり、またDEPに対応したMDMも豊富にあるので、ぜひ利用したいプログラムです。

 

●登録はApple WEBサイトから

企業の場合、DEPの登録はVPPと同じように、Apple Deployment Program(https://deploy.apple.com/enroll)から行います。教育機関の場合は、後述するASMから可能です。

 

大量デバイスの管理には必須「MDM(Mobile Device Management)」

 

効率的な一元管理に必須

MDM(モバイルデバイス管理)は、アップルが用意しているプログラムではなく、広くIT機器を企業・教育機関で導入する際に利用されるものです。「エアウォッチ(AirWatch)」や「モバイルアイアン(Mobile Iron)」「クロモ(CLOMO)」といった多数の製品が各ベンダーから発売されており、今ではそのほとんどがアップル製品へ対応しています。

MDMは組織内で配備したデバイスを効率的に一元管理するためのもので、端末の情報収集、プロファイルの作成と適用、端末のリモートロック/ワイプ、アプリのインストールや削除などできることは多岐にわたります。DEPやVPP、ASMを活用する際にも連係が必須となります。

 

Apple純正の構成展開ツール「Apple Configurator 2」

 

MDMでは不可能な設定も可

「アップル・コンフィギュレータ(Apple Configurator 2・以下AC2)」は、アップルがMacアップストア(Mac App Store)で無料で提供している構成展開ツールです。OS X 10・11以降を搭載したMac上で動作し、iPadやiPhone、iPodタッチ、アップルウォッチ(Apple Watch)を管理することができます。

AC2ではキッティングに必要な初期設定(構成プロファイル)を作成でき、デバイスに適用させることができます。設定可能な内容は多岐にわたり、アプリの追加や構成プロファイルの追加、壁紙の設定、証明書の追加なども可能で、VPPとも統合されているためアプリのインストールや管理も行えます。また、DEPとも統合されており、MDMへの登録を自動化することもできます。

そのほか、AC2ではデバイスのアップデートやバックアップなども可能です。MDMと比較するとできることは似通っていますが、大きな違いはAC2は端末を有線でつないで設定する必要があるため、基本的には「配備前」に利用するものであること。一方、MDMは「配備後」でも端末をワイヤレスで管理できます。

ただし、MDMでは不可能でAC2でしかできない設定が存在しますので(詳細は92ページ)、AC2はMDMと併用するのが正しい使い方といえます。なお、接続可能なデバイスは最大30台までとされていましたが、AC2ではUSBで給電できる数十台となっています。

 

Apple Configurator 2はMac App Storeから無料でダウンロードできるMac用ソフトです。

 

Apple Configurator 2

【場所】Mac App Store>ビジネス

 

教育機関向けの新ソリューション「ASM(Apple School Manager)」

 

学校のすべてを1つの場所から

「アップルスクールマネージャ(Apple School Manager・以下ASM)」はアップルが2016年3月にリリースした教育機関向けのポータルサービスです。登録すると管理者は、組織内のメンバー(教職員や児童・生徒等)やデバイス、コンテンツを一元管理できるほか、VPPやDEPへの登録もASMを介して行うことができます。教育機関の管理者が必要なことはすべてASMから行える、それが特徴となっています。

ASMにはさまざまな機能が搭載されており、中でも便利なのが、児童・生徒や教職員向けに学校専用のアップルIDを作成できる「マネージドアップルID(Managed Apple ID)」です。また、iTunes Uを使って授業を作成し、児童・生徒向けに配信することも可能です。

ASMとMDMを連係させれば教職員や生徒のデバイスを一括で管理し、学校に合わせた設定で効率的に運用することも可能になります。たとえば授業に参加している児童・生徒のホーム画面をMDMを使って変更し、授業に必要がないアプリを非表示にするといったことが可能です。さらに特筆すべきなのが、「シェアードiPad(Shared iPad)」と呼ばれる機能。児童・生徒一人一人への端末の配付が難しい教育機関の場合、1台のiPadを複数人で利用するように設定、児童・生徒はマネージドアップルIDでログインすることであたかも自分のiPadのように利用できます。

 

●Apple School Manager

Apple School Managerは、Apple製品を導入する教育機関の管理者を助けるポータルサイトです。【URL】https://school.apple.com/

 

教員と児童・生徒をつなげる新アプリ「Classroom」

 

児童・生徒を監視して授業

ASMと同時期にリリースされた教育向けアプリが「クラスルーム(Classroom)」です。このアプリはiPad専用となっており、教員と児童・生徒のiPadにインストールして使用します。教員側がアプリを起動すると、同一ネットワーク内にある児童・生徒のiPadをモニタリングしたり、アプリを起動したり、特定の作業をナビゲートしたり、エアドロップ(AirDrop)を使ってファイルを送信したりできます。また、画面をロックしたり、消音したりなどのコントロールも可能です。

クラスルームアプリはアプリ単体でも利用することができますが、ASMと連係して使うことで、iPadを活用した授業をより効果的なものに変えられます。

 

Classroom

【価格】無料

【場所】App Store>教育

 

 

iPad向けアプリ「Swift Playgrounds」と教員向けの「Apple Teacher」にも注目!

今注目を集めている「プログラミング学習」において重要な役割を果たすことになりそうなのが、「Swift Playgrounds(スウィフトプレイグラウンズ)」です。2016年6月に発表(日本語対応は今年3月)されたこのiPad向けアプリは、Appleが開発したプログラミング言語「Swift」を楽しく学べるツール。レベル別にコースが分かれており、言語やコーディングの知識がないユーザでも自然にステップアップできる仕組みが用意されています。

また、教員にとって見逃せないのが「Apple Teacher(アップルティーチャー)」プログラムです。これは教育者のICTスキル向上を目指すもので、メンバー登録をすれば誰でも無料で参加できます。iPad/Macを実習に役立てるために、それぞれのデバイスについて各種iWorkソフトの使い方や学習効率、創造性といったテーマのオンラインコースと、8つのテストが用意されています。テストをクリアするとApple Teacherに認定され、専用ロゴを使用できるようになります。独習はもちろん、研修のプログラムとしても活用できるでしょう。

ゲーム内のキャラクター「Byte(バイト)」をプログラミングで動かし、Gem(宝)を獲得するなどゴール条件を満たせばステージクリア。ゲーム感覚でプログラミングを学べます。

 

Swift Playgrounds

【価格】無料

【場所】App Store>教育

 

Apple Teacherプログラムは、日本では今年3月からスタートしました。認定後に取得できるオリジナルロゴは、授業で使う教材やWEBサイトでの情報発信などに使用できます。【URL】https://www.apple.com/jp/education/apple-teacher/