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明暗分かれる米小売り業床面積売上高でAppleトップ独走

著者: 山下洋一

明暗分かれる米小売り業床面積売上高でAppleトップ独走

デパートやアパレルチェーンを中心に米小売業の大規模な店舗閉鎖が相次いでいる。テナントを失ったショッピングモールがそのまま潰れてしまうケースも珍しくない。そうした店舗型小売りの不振をよそに、Apple Storeは過去数年と変わらない圧倒的な水準の床面積売上高を維持している。

大型モールが廃墟に

米小売店舗の床面積売上高でアップルストアがトップという調査結果が出ても、ここ数年は大きな話題になっていなかった。2位以下を大きく引き離した状態が長く続いてニュース性がなくなっていたためだが、今年は違った見方で再び注目されている。米国における店舗型小売りの不振である。

不動産リサーチ会社コスター(CoStar)の分析によると、十数年前は375ドル近かった床面積売上高の平均がここ数年で325ドル前後に減少。ショッピングモールやデパートから客足が遠のき、店を閉めたテナントのあとを埋められず、そのまま廃墟化したモールが「デッドモール」と呼ばれて社会問題化している。そうした中、アップルストアは好調な売上を維持しながら、世界中に店舗を拡大し続けている。

市場調査会社イーマーケター(eMarketer)が収集する小売データによると、アップルストアの2016年の1平方フィートあたりの売上高は5194ドルだった。好調だった一昨年の5942ドルから数字を落としたものの、2016年の米小売市場の景況を反映した範囲であり、この夏時点の過去12カ月の数字は5435ドルと回復している。2016年二位のマーフィーUSAは3338ドル。過去10年の間にトップ10の二位以下の順位や顔ぶれは変わり続けてきたが、アップルストアの圧倒的な首位は変わらない。

2016年の1平方フィートあたり平均売上高トップ5(eMarketer調査)

1. アップル : 5194ドル

2. マーフィーUSA : 3338ドル

3. ティファニー&Co : 2683ドル

4. バークス・グループ : 1555ドル

5. ケイト・スペード&Co : 1523ドル

実店舗は人が集まる場所

デパートやアパレルチェーンといった店舗型小売りが不振に陥っている原因として、ネット通販の成長が指摘されている。たとえば、2017年度1月期の通期決算でデパートチェーンのJCペニーが6期ぶりの黒字転換を果たした。スマートフォンの普及でネットショッピングの利用者が爆発的に増えた時期に業績を悪化させた同社は、ネット通販の比重を増す再建計画に基づいて店舗を削減した。だが、JCペニーの復活と見る向きは少ない。無駄を省いて利益が出る体質に変化しつつあるものの、実店舗の床面積売上高が105ドル前後と低いまま。要のデパートが成長に転じる見通しが依然不透明だからだ。

床面積売上高は店舗生産性を示す重要な指標の一つだ。今その数字が芳しくない企業を分析すると、モノを売ることに偏り過ぎているという意外な共通点が浮き彫りになる。逆に良好な店舗は買い物に限らず利用者に快適な体験を提供している。

皮肉なことに、誕生60周年を超えたショッピングモールが衰退し始めた理由もそこにあると言われている。元々モールは、「第一の場所=家」でもなく「第二の場所=職場」でもない、「第三の場所=居心地の良い場所」として設計された。人々が日々の生活から離れてリフレッシュできる場である。商業施設を中心とした文化的、社交的なコミュニティセンターであり、娯楽の場として、人々の気持ちを豊かにする施設であってこそ、たくさんの人がモールを訪れて長く滞在する。それが商業施設の利益にもつながる。ところが、今では利益重視でコマーシャルな店舗が多くを占めるようになった。単に買い物をするだけなら、場合によってはネットのほうが便利であり、今のモールには人々を向かわせる何かに欠ける。

昨年アップルが米サンフランシスコのユニオンスクエアに新世代の旗艦店をオープンさせたときに、リテール担当シニアバイスプレジデントであるアンジェラ・アーレンツ氏は新しいアップルストアを「現代版の公共広場」と表現した。コミュニティに学びやインスピレーションのきっかけを提供する場を目指す。パソコンやスマートフォンを売る店舗とは思えないが、まさに「第三の場所」だ。そんなアップルストアだからこそ、今も好調な床面積売上高を維持できている。

アップルストアの店舗単位の平均売上高と成長率。2015年は米国経済の回復が顕著だった年で、その反動から2016年は米小売り全体が苦戦したものの、過去5年間で見ると着実に成長している。(eMarketer調査:【URL】https://retail-index.emarketer.com/company/5374f24c4d4afd2bb44465e1/apple/

サンフランシスコの旗艦店は以前から「アップル・ユニオンスクエア」と呼ばれていたが、他の店舗も「アップル・スタンフォード」(写真)というように「ストア」を消した呼び名に変更した。単にアップル製品を販売するストアではなく、アップルユーザが集う場というニュアンスを伝える。

アマゾンによる買収に合意した米食品スーパーチェーンのホールフーズ。オーガニック食品や自然食品を扱うホールフーズは、2015年に床面積売上高を50%向上させた。そんな実店舗小売りを米ネット通販最大手のアマゾンが買収、ネットとリアルの融合に取り組む。