Apple Watchは「最も身近なデバイス」として、iPhoneやMacでは届かなかった我々の生活に密着したテクノロジーを実現しようとしている。2017年秋にリリースされるwatchOS 4と、そのアプリ群の「現在」に迫った。
起こり始める変革
アップルは、6月29日に、ちょうど10年前に初代iPhoneをリリースしたことを同社WEBサイトで振り返った。2011年から米国で暮らしている筆者は、米国やその他の国々において、iPhoneが個人のコミュニケーションツールやエンターテインメントデバイスとしてだけでなく、ビジネスの現場や社会問題の解決ツールとなった様子を目の当たりにしてきた。ショッピングや食、交通、都市、教育、金融など、あらゆる「不便」をスマートフォンとアプリで解決していく様子は圧巻だった。
そうしたiPhoneの10年間のインパクトが、今度はよりパーソナルな健康や医療の領域に入り込んでくることになる。それが、アップルウォッチに対する期待であり、今まさに起こり始めている新たな変革なのである。
ジム体験では唯一の存在に
アップルウォッチは、標準機能として「ワークアウト」の計測を行うことができる。スマートウォッチを売り込んでいくうえで、スポーツの計測は第一の機能となっている。ウェアラブルデバイス市場全体がスポーツトラッキングから出発しており、このカテゴリでアップルよりも多くの台数を販売する企業は、スポーツに特化してきた「フィットビット(FitBit)」だ。
アップルウォッチはスマートウォッチとしての汎用性を備えているが、市場の立ち上がりはやはりスポーツだと判断し、その機能を拡充してきた。アップルウォッチシリーズ2はGPS搭載と防水対応を果たし、アップルウォッチだけでの正確なジョギング計測と水泳のエクササイズに対応した。
また、今秋にリリースされる予定のウォッチOS(watchOS)4で、アップルウォッチは他社の製品を寄せ付けない存在へと進化することになる。ウォッチOS4ではワークアウトアプリが大きく改良され、アイコンからすぐにエクササイズを選ぶことができる。計測をスタートするまでの設定画面をスキップしてすぐに始められ、煩わしさから解放される。さらに、ワークアウトに新しい種類も追加された。米国で「クロスフィット」として非常に人気が高まっている「高強度インターバルトレーニング」が収録された。これまでのアップルウォッチのアルゴリズムでは、心拍数と消費カロリーが連動していたため、強い負荷と休息を交互に織り交ぜるトレーニングでの正確なカロリー計算ができていなかったという。
ブルートゥースとNFCによる機器連動が利用できるようになる点にも注目だ。ジムに設置されているトレッドミルやバイクと連係させると、マシンが持っている正確な速度や距離、回転数をアップルウォッチに同期できるようになる。これらは、ワークアウトの記録の充実とより正確なカロリー計測に寄与する。しかも、その操作はワンタッチでマシン側にワークアウトの情報は残らない。
ブルートゥース連係が可能になったことで、ジムのインストラクターは、アップルウォッチだけでスタジオの光や音量をコントロールできる。またグループセッションに参加している人のリアルタイムの情報をiPadに集約し、個別に指導することも可能だ。アップルウォッチは、ジムの中のスター選手となる。
スポーツを楽しむツールへ
アップルウォッチやiPhone、アップルTV(Apple TV)を用いれば、ジムのインストラクターに習わなくても、さまざまなスポーツを楽しむことも可能だ。たとえば「スウェット(Sweat)」は「ビキニが映える引き締まったボディを作る」ことを目的としたアプリで、iPhoneでは日々のワークアウトから食事の記録、ビフォー・アフターの写真を記録するといった機能を備えている。アップルウォッチでは、エクササイズをアニメーションで確認しながらタイマーで時間を知らせてくれる機能が便利だ。
サーフィン用のセンサを販売する企業「Xensr」は、アップルウォッチシリーズ2でサーフィンの記録を取ることができるアプリをリリースする。また、「ゼップ・テニス(Zepp Tennis)」はラケットに装着するセンサによって、テニススイングのスピードや打点を記録することができるアプリだ。サーブの練習などの際の記録を自動的に付けられる点は、テニスをたしなむ筆者も試したい機能と言える。
スポーツにおいて、このようにデータを自分で取りながら試行錯誤し、向上させていく過程は楽しいものだし、インストラクターに記録を見せれば改善点を指摘してもらえる。アップルウォッチはカロリー計測から、スポーツをいかに楽しむかという領域へとすでに踏み込んでいるのだ。
習慣化でダイエット
筆者は長年「減量しなければ」と悩んで、取り組んでは失敗する、ということを繰り返してきた。しかし2017年5月からの減量は2カ月で10キロという成果を上げ、リバウンドもしていない。その勝因について考えてみると、アップルウォッチによって減量することが習慣化したからだと思う。今までいろいろなスポーツに取り組んだり、特別な食事や飲料などを試したりしてきたが、そうしたものを一切やめ、シンプルに「カロリー管理」と「運動」を習慣化したのだ。
アップルウォッチのアクティビティとエクササイズ、スタンドの3つのリングを毎日完成させること。そして日々の体重と食べたものを「ヌーム(Noom)」で、飲んだ水の量を「ウォーターマインダー(Water Minder)」で記録することを徹底した。結果的にはシンプルな方法が一番有効で、習慣化がリバウンドを防いでくれている。
ウォッチOS4ではこの「習慣化」を機械学習を用いてサポートしてくれる機能が搭載される。たとえば、目標消費カロリーにあと150kカロリー足りない場合、アップルウォッチが自動的に「15分のジョギング」などのワークアウトを提案してくれるのだ。
ちなみに、運動量と違って食事はアップルウォッチではなかなか計測できない。筆者はそんなとき、iPhoneアプリの「ルーズイット(LoseIt!)」に食べた食事の写真をアップロードしてカロリー計算を行う。また、水のボトルの底面にセンサを装着することで水分摂取量を記録することができる「H2O Pal」も便利だ。こちらも、何気なく飲んでしまう水を簡単に記録する仕組みとして重宝する。
未来のiPhone
アップルウォッチは、ウォッチOS4で外部機器とのより自由な連係と、シリ(Siri)やサードパーティアプリの機械学習を利用したアプリによるインテリジェント化が進んでいくことになる。もちろん単独あるいはiPhoneを通じて通信もできるし、位置情報もつかむことができる。そして、我々の体の動きを、心拍数とともにつぶさに観察してくれる。膨大な情報が手首につけたデバイスから取得できるといった手軽さから、アップルはより健康的な生活をアシストしようとするし、アプリ開発者はさまざまなメリットをユーザに与えることができるようになる。
筆者の減量を成功に導いてくれたヌームは、運動による消費カロリーに応じて、その日食べて良い許容カロリー量を増やしてくれる。ダイエットアプリなのに、たくさん動いたらたくさん食べても良いと言うのだ。心理的には非常に楽になり、減量継続に役立った。また、たとえば前述の水分摂取のアプリは、すでに、運動状況や気温、湿度などを活用した適切な水分摂取量を提示してくれる。アップルは外部センサを用いて、睡眠、血糖値、血圧などのデータを統合しようとしており、また心拍数をカロリー消費だけでなく、マインドフルネスの計測にも用いようとしている。
アップルウォッチは他のウェアラブルデバイスと同様にスポーツ計測から出発しているが、2017年はスマートウォッチとしての汎用性を発揮し始める転換点を迎えることになる。もはや他のメーカーのウェアラブル製品が追いつけない存在になってしまった、といっても過言ではないだろう。そして、「最も身近なデバイス」は今後iPhoneと同じくらい、またはそれ以上の革新を私たちにもたらしてくれるはずだ。
watchOS 4のワークアウトアプリケーションには、高強度インターバルトレーニング(HIIT)ワークアウト向けの新しいモーションと心拍数のアルゴリズムが搭載されている。 photo●apple.com
Zepp Tennisは、テニスラケットに「Zeppテニススイングセンサー」(税別1万2800円)を取り付けることで、スイングのパワーや安定度、強度等を測定、同名のApple Watchアプリに表示してくれる。
iPhoneやAppleTV、Apple Watchに対応したヘルスケア&フィットネスアプリ。ワークアウトや食事管理等のさまざまな面から運動を習慣化させてくれる。
Noomは全世界4500万ダウンロードを達成したヘルスケア&フィットネスアプリ。人工知能が一人一人の生活に合わせたプログラムを提案してくれる。食事記録や、運動・血圧・血糖の記録のほか、専属のコーチが運動をサポートしてくれる機能もある。
WaterMinderは、身体が必要とする水分の摂取を記録・管理して、グラフでわかりやすく表示してくれるアプリ。通知機能によって水分摂取のタイミングを通知してくれる。