「静止画の良さは、見る者にそれと向き合う時間が許されていること。フレームの中に物語が収められている1枚こそ、真のコンテンツです」
そう話すのは、ナショナル・ジオグラフィックで初の女性写真家の一人として起用されたアニー・グリフィスさん。6月中旬にNYで開かれた「アドビストック(Adobe Stock)」のパネルディスカッションで語られた言葉です。当日は、写真や動画など9500万点以上を扱うアドビのストックサービスに、ロイターなどのニュース報道用の写真「エディトリアルコレクション」が加わったことが発表されました。また、ソーシャル時代のジャーナリズムにおける“写真”をテーマに、著名媒体で写真や映像に携わる5名が議論しました。
ソーシャルメディアの台頭はさまざまな分野に大きな影響を与えていますが、メディアもその例外ではありません。プラットフォームごとに消費者がセグメント化され、また彼らのアテンションスパン(注意力が持続する時間)が短縮している中で、ニュース報道はますますスピードが求められるようになっています。アンディ・スコットさんが副編集長を務める北米の全国紙「USA Today」では、紙面の第一面より先にフェイスブックに投稿する内容を考えるそう。
「10年前、WEBのうたい文句は字数制限がないことでしたが、今、私たちは読者の注意力という制限に直面しています」
どんなテクノロジーもそうであるように、情報社会におけるSNSもまた一長一短。たとえば短所は、スマホひとつで誰もが情報発信できるためノイズが多いこと。また、「いいね!」などで反響をリアルタイムに測定できるので、数字が稼げるニュースばかりが報道・注目されてしまうこと。一方、SNSは消費者にボイス(声)を与え、従来は一方通行だった誤報に対して反論する術を提供したりもしています。さらに、メディアにとってSNSは情報収集のツールとしての機能も。そんな、情報の循環をSNSが牛耳る時代のジャーナリズムについて、パネルディスカッションでは2つのことの重要性が強調されました。
まず、情報過多でノイズが多いからこそ、「編集」や「キュレーション」という役割の重要性が増していること。ロイターで北米とパキスタンを担当する編集長のアンドリース・ラティフさんは、写真を提供することが主だった昔と違い、伝えるべきニュースの選別に始まる「編集」の役割が通信社に求められていると指摘。ニュースや出来事に“反応”するのではなく、そもそも「何を伝えるべきか」という大きな視点が欠かせないと語ります。また、政治やエンタメ、移民や黒人の人権問題など多様なテーマを報道するには、それぞれのコミュニティに所属する多様な記者が必要。企業でもその重要性が叫ばれるダイバーシティ(多様性)は、ジャーナリズムにおいても必須です。そして、これもまた採用権限を持つ編集者の腕の見せどころだといえます。
昨今フェイクニュース(虚偽のニュース)が煽られ、SNSがメディアを上回る影響力を持つようになったことで、ジャーナリズムの未来が危ぶまれています。未来を担う次世代の記者や写真家、編集者たちに、現役世代は何を伝えるべきなのか。フォトショップ(Photoshop)など高度な画像編集ツールの使い方や、将来的にはドローンを使った空撮撮影など、具体的なスキルは嫌でも引き継がれるでしょう。でも、パネリストたちが後世に残す使命を感じているのは、テクノロジーの使い方でもなければスキルでもありません。それは、報道に対する倫理観、そして自らの仕事に高い水準以外を許さないインテグリティ(真摯さ、誠実さ)です。これは決して言葉で伝えられるものではなく、彼ら自身がそれを実践する姿勢とその背中を見せることでしか、残すことができないのです。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp