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【WWDC2017】iPad Pro②

著者: 山下洋一

【WWDC2017】iPad Pro②

[ディスプレイ]iPad史上もっとも美しいなめらかでレスポンシブな表示

パーソナルコンピュータに高解像度ディスプレイを採用する流れを作ったのはアップルだったが、ライバルが画面解像度の数字を争うのをよそに、同社は解像度をアピールしなくなった。人の眼でドットを識別できる限界を超えた高密度なディスプレイを指して、アップルはレティナ(網膜)と呼んでいる。それ以上の高解像度化がユーザの体験に与える影響は小さいからだ。アップルがこだわっているのは、ユーザが美しいと感じる表示やユーザの眼に優しい自然な表示である。そのために、今は解像度よりも輝度や色再現性、色温度、レスポンスなどの改善に努めている。

新しいディスプレイは輝度が600ニトに向上、「DCI-P3」に準拠した広い色再現性を備える。反射防止コーティングの改良で反射率を1.8パーセントに抑えた。

そして、120Hzの高リフレッシュレートをサポートする。動きの激しいゲームでもかくつくことなく、素早いスクロールもなめらか。スクリーン上のあらゆる動きがスムースかつ明瞭に表示される。120Hz化のためにアップルはCPUをカスタマイズし、OSやドライバも最適化した。120Hz駆動によって消費電力は大きくなる。しかし、常に120Hzで駆動させるのではなく、デバイスの利用状況に応じて24Hzや48Hzといった低いフレームレートに可変させ、トータルの消費電力の上昇を抑えている。そうしたハードウェアとソフトウェアの最適化によって、従来のタブレットでは実現できなかったなめらかで美しい映像を実現するテクノロジーを、アップルは「プロモーション(ProMotion)」と呼んでいる。

画素密度を維持して10.5インチに

9.7インチと比較して20%大型になったディスプレイの画面解像度は2224×1668ピクセル。画素密度は264ppiで9.7インチモデルと変わらないが、輝度の向上や120Hz化によって、ユーザがコンテンツを視聴したり、インターフェイスを操作する体験が格段によくなった。

将来を見据えた先進的なディスプレイ

WWDCの基調講演では新しいディスプレイのプロモーション以外のポイントとして、周囲の明るさに合わせてホワイトバランスを自動調整する「True Toneディスプレイ」、広色域、低い画面反射率、600ニトの輝度、HDRビデオ対応などを挙げた。アプリやサービスのHDR対応はこれからであり、Appleの動きが注目される。

[プロセッサ]ノートPCに負けないパフォーマンス拡張現実など新たな可能性も

新しいiPadプロは、第4世代の64ビットSoC(システムオンチップ)である「A10Xフュージョン」を搭載。iPhone 7シリーズの「A10フュージョン」の性能強化版と呼べるチップであり、A10よりも2つ多い6つのCPUコアを備える。

iPadプロでアップルはモバイルノートPCに匹敵するような性能を引き出そうとしているが、消費電力や発熱の抑制、バッテリ駆動時間の確保が性能向上の制約になる。そこで、3つの高性能コアと3つの高効率コアという構成を採用した。スプリットビューを使ったマルチタスク、3Dレンダリングやゲームといった演算能力が求められるときには高性能コアをフル活用し、高速な処理が不要な場合は高効率コアを用いてトータルの消費電力を抑える。A10XのCPU性能の公称値は、9.7インチのiPadプロが搭載する「A9X」の最大1.3倍である。

統合されている新設計のGPUは12コア。A9Xが搭載していたGPUの最大1.4倍の性能を発揮するという。WWDCの基調講演でアップルはARKitを用いた拡張現実(AR)のデモを披露したが、次世代のコンピューティングも見据えた設計になっている。また、デジカメの画像処理エンジンに相当する画像信号プロセッサを内蔵しており、機械学習も活用して、効果的かつ効率的に画像やビデオに最適な処理を施す。

プロ製品に求められるパフォーマンスを引き出すだけなら難しいことではない。それをアップルは従来のiPadと変わらないサイズと薄さで実現し、最大10時間(Wi─Fiモデル)のバッテリ駆動時間を維持している。そこにチップレベルから最適化を図れるアップルの強みが現れている。

複数のコアとプロセッサが連係

6個のCPUコア、12個のGPUコア、Appleが設計したパフォーマンスコントローラが性能と効率性のハーモニーを生み出す。M10コプロセッサも、その1つ。CPUよりも低消費電力で、加速度センサや電子コンパス、ジャイロなどからの情報をバックグラウンド処理で利用できるようにする。

モバイルデバイスの進化を支えるGPU

コンピュータの近年の進化はCPUよりもGPUに負うところが大きい。初代iPadが搭載していたA4と比べると、A10XのGPU性能は500倍。ここ数年は加速度的な伸びを維持しており、3Dを駆使したゲームやCADソフト、4Kビデオの編集といった作業を難なくこなせるようになった。

[カメラ]iPhone 7同等のカメラを搭載本格的な撮影・編集を楽しめる

背面のiSightカメラは、画素数こそ1200万画素と9.7インチモデルから変わらないものの、より高速なCMOSセンサを備える。データの読み出しが速くなり、たとえば動きの速いものを撮影したときの歪みが少なくなり、連続した撮影が安定する。

レンズは従来のF2.2からF1.8に明るくなり、レンズ構成も5枚から6枚になった。そして光学式手ぶれ補正機能を装備する。これらによって暗い場所での撮影でもノイズの原因になる高いISO感度を使わずに、シャッタースピードの調整だけで対応できる可能性が高まる。また複数のLEDを異なる色温度で発光させるトゥルートーンフラッシュがデュアルLEDからクアッドLEDに強化され、明るさが50%向上、より自然な色味を出せるようになった。

ビデオ撮影機能は3倍ビデオズームが光学2倍ズームに変わり、そしてノイズリダクション、連続オートフォーカスビデオといった機能が加わって、安定して高いクオリティのビデオを撮影できる。4Kビデオの撮影中に800万画素の静止画を撮影することも可能。

モバイルデバイスでは自撮りやビデオチャット用にインカメラの性能が問われるようになっているが、前面のフェイスタイムHDカメラが前モデルの500万画素から700万画素に向上した。1080pのフルHDビデオ撮影に対応する。

広色域のセンサや手ぶれ補正は、ライブフォト(Live Photos)にも有効だ。A10Xプロセッサが内蔵するアップル独自設計の画像信号プロセッサは、機械学習を活用して画像やビデオを処理しており、顔検出だけではなく人体検出もサポートする。

レンズの出っ張りは解消せず

背面のiSightカメラはサファイアクリスタル製のレンズカバーで覆われている。薄い本体にハイパフォーマンスなカメラが完全に収まらず、9.7インチモデルでも一部の批判を浴びたレンズ部分の「飛び出し」がある。ただし、机の上に置いて作業して不安定になることはない。

プロダクティビティに役立つカメラ

ドキュメントの閲覧性に優れ、手書きもできるiPad Proだから、カメラ機能でドキュメントをスキャンするユーザは多い。EvernoteやScanner Proなど、そうした需要に応えるアプリは多数あり、iOS 11では「メモ」アプリでもドキュメントスキャンが可能になる。

[ワイヤレス]LTE通信速度は最大450Mbps海外旅行に便利なグローバル対応

iPadプロは、Wi─Fiは802・11acを利用でき、2.4Ghz/5GHzのデュアルチャンネル、複数のアンテナを利用するMIMOをサポートし、通信速度は最大866Mbpsだ。Wi─Fi+セルラーモデルのデータ通信機能は、4G LTEアドバンストに対応。理論値最大450MbpsのLTE通信が可能だ。ナノSIMスロットを備え、内蔵されるアップルSIMで世界180以上の国と地域において、主要キャリアのサービスをiPadから直接契約できる。

常時接続デバイスに注目

PC産業では今年、LTEモデムと組み込み型SIMカードを備えた常時接続PCの普及を後押しする動きが活発になっている。その市場の開拓に適したApple製品はiPad Proであり、これまで以上にWi-Fi+セルラーモデルが注目されそうだ。

[タッチID]タッチIDが第2世代に高速で高精度な指紋認証

感圧式ホームボタンの採用は見送られたが、ホームボタンに統合された指紋認証センサが第2世代タッチIDになった。登録した指でホームボタンに触れると指紋認証が行われ、iOSのアンロックやアプリの認証、アップルペイを用いた買い物などを安全かつ簡単に済ませられる。使い方はこれまでと同じだが、読み取りと認証のスピードが2倍になった第2世代のタッチIDだと、触れた直後にアンロックが完了するぐらい処理が速い。ボタンを押し込むだけでホーム画面が開く感覚だ。

最新のiPhoneと同じタッチID

ノートPCの領域にまでiPadを広げるなら、セキュリティとプライバシー保護の強化が欠かせない。セキュリティは堅固なだけでは不十分、それを使いやすく提供することでユーザに浸透するため、第2世代のタッチID採用のインパクトは大きい。