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【WWDC2017】High Sierraの新機能

著者: 海老原昭

【WWDC2017】High Sierraの新機能

[Photos]ユーザが作成したライブラリをより効率的に

High Sierraへのアップデートにより、もっとも大きな変化が見込まれるソフトが「写真」だ。新機能として、ウインドウ右上に新設された「セレクションカウンタ」がある。ここには選択した写真が置かれ、ここからまとめてアルバムやデスクトップにドラッグ&ドロップしたり、写真を回転したり、お気に入りに指定したりできる。通常の操作より一手間増えるようだが、写真そのものをクリックすると選択が解除されてしまうこともあったので、全体としては作業効率が高まるはずだ。

Live Photosの編集が可能になることも喜ばしい変更点だろう。ループやキー写真の設定、トリミング等の調節ができるようになる。Live Photosは撮影タイミングがなかなか難しいだけに、編集機能が充実してくれるのはありがたい。

初期設定でサイドバーが表示されるように。サイドバー内の分類アイコンも増えて、目的の写真を探し出すのが容易になる。

ウインドウに新たに設置された「セレクションカウンタ」。選択したファイルが一度ここにリストアップされ、選択状態が維持されたままになる。

顔認識機能の「ピープル」はサムネイルが大型化し、誰の写真かがわかりやすくなる。顔認識機能は機械学習によって強化されるので、どんどん写真を読み込ませて鍛えたい。

[Safari]表示速度、ユーザ体験ともに最高の環境を構築

基調講演で真っ先にその速度向上が大きなトピックとして紹介されたSafari。High Sierraに搭載されるサファリは、同一ハードウェア上で動作するMacとウィンドウズの主要ブラウザよりも、各種ベンチマークテストにおいて高速な結果を残しているという。

また、ブラウジングを妨げる広告を表示しないための仕組みが追加される。まず検索や閲覧履歴を追跡して広告内容を決める「クロスサイトトラッキング」に対しては、トラッキング禁止の信号をサイトに送るだけでなく、機械学習によって広告主を特定し、トラッキングデータそのものを削除する。また動画の自動再生についてもオフにできるので、不愉快な広告の動画がいきなり流れてしまう事態も起きにくくなるだろう。

JavaScriptの実行速度において、SafariはGoogle Chromeよりも80%高速であると紹介された。JavaScriptは動的なWEBページのコンテンツの原動力となるため、Safariを使っていればさまざまなWEBコンテンツが快適に動作すると考えられる。

広告のトラッキング防止と動画の自動再生停止は、ユーザ体験の向上に大きく貢献しそうな機能だ。トラッキングについては機械学習で広告主を特定するということで、ユーザが相手を指定したりリストを編集しなくても自動的に広告が消える仕組みになるとのこと。

「リーダー」表示は、対応するページでは自動でオンにできる設定が用意される。たまに途中で途切れてしまうことがあるため、WEBページ側での対応も徹底されるよう期待したい。

[Siri]認識率が高まり、命令できることも多くなった

音声入力によるアシスタント機能の先駆けとして登場した「Siri」も、High Sierraではさらなる発展を遂げる。登場してから6年の間に蓄積されてきた音声データをもとに、自然な音声で会話できるようになる。基調講演では英語のSiriが披露されたが、発音やイントネーション、抑揚は生身の人間が喋っているのと遜色なかった。現時点では日本語への対応は不明だが、期待したいところだ。もちろん音声自体の認識率も高まっており、実用性はさらに増すはずだ。

Apple Musicに加入していれば、Siriが音楽の好みを学習してリコメンドするという機能も楽しみなところだろう。プレイリストを自動で作成してくれるようになり、さらに曲の情報についても、ライナーノーツに書いてあるような詳細な情報まで教えてくれるという。

Siriの認識率が高まり、命令できることが多くなったこともあり、今後macOSの中でも音声による操作がさらに浸透していくことになりそうだ。

SiriがApple Musicの再生履歴を学習し、レコメンドを提案してくれるようになる。Siri自体の学習はクラウドを通じて共有されるので、今後「HomePod」などを購入しても、その学習結果は引き続き利用できるはずだ。

[iCloud]ビジネスユースなども視野に入れた洗練された連携を実現

iCloudは、現在でもさまざまなサービスのハブとして重要な役割を果たしているが、High Sierraではこれらの機能が強化・洗練され、複数のデバイスで同一データにアクセスできる環境が強化される。iMessageでは、チャット記録がiCloud側に保存されるようになる。これによりMacとiPhone、iPadなど複数のデバイスで同じチャットを続けることができ、過去の会話内容や添付ファイルにもアクセスできる。共同作業の連絡に利用すると効果的だろう。

また、オンラインストレージとしてiCloud Driveを使う際に、iCloud以外のユーザにもファイル共有のリンクを渡せるようになる。共有対象となった人は、リンクをクリックすればファイルをダウンロードできるシンプルさだ。さらに、同一のコンテンツなどを最大5名で共有できる「ファミリーユーザ」の場合、有償で容量を拡張できるストレージプランを選べばストレージ容量も共有できるようになる。標準の5GBではiOSのバックアップとメールですぐに埋まってしまうが、ストレージプランで拡張しておけば、家族で貴重な写真や書類などを保存する容量を有効活用できる。

Dropboxなどのオンラインストレージのように、iCloud Driveに保存したファイルの共有が容易になった。iCloudにファイルを保存するタイプのアプリであれば、わざわざファイルをiCloudにコピーしなくともそのまま共有を設定するだけで手軽さも抜群だ。

[文字入力]OSの付属ソフトとは思えない高いレベルでの変換効率

これまでmacOSの入力では、日本語にはかな漢字変換用の専門プログラムを利用し、英数字の場合は直接入力に切り替えるか、日本語入力の変換機能として入力した文字列を英数字に変換するかのどちらかを使い分けて来ていた。しかしHigh Sierraではこうした言語ごとに入力プログラムを用意して切り替えるスタイルをなるべく排除するよう、英語と日本語の「二言語入力」に対応。いちいちプログラムを切り替えなくても、日本語にならない文字列を入力した場合はその文字列を外国語と認識し、英字に変換してくれるようだ。

さらに日本語の変換でも、入力した単語が間違っていた場合、自動的に認識して修正してくれる。ATOKにも似た機能があるが、通常のスペルチェッカーと違って誤操作による過不足などもサポートしてくれるようなので、急いで入力しているときの効率がかなりよくなるだろう。また、変換用の辞書はネット等でよく使われる時事ネタやスラングまでサポートされており、OSの付属ソフトとは思えない高いレベルでの変換効率が期待できそうだ。

たとえば「cafe」と入力したい場合はそのまま文字列を入力して変換すると、英数字への変換例も候補に入ってくる。現在の日本語変換プログラムでいう「control+『:』」とは異なり、スペースバーを押しての変換として機能する模様。辞書に入っている単語であれば、英語以外の言語にも変換できるようだ。

[Spotlight]飛行機の便名、地図など検索範囲が拡大

macOSの検索機能「Spotlight」は、これまでも単純なファイルの検索機能だけでなく、簡易計算機能や通貨・度量衡の変換機能が提供されていた。High Sierraではこうしたファイル以外の検索機能がさらに充実。基調講演ではフライト便名から飛行機の出発/到着時刻や使用ターミナル、到着ゲート番号、遅延情報などを表示したり、地名や番地から地図を表示する機能が紹介されていたが、ほかにも複数回答のある質問に対してはそれぞれのWikipediaを表示したり、ファイル検索についてはローカルとiCloud Driveをまたいで検索したりできるようになる。

飛行機の便名を入れるだけでフライト情報の検索が可能に。インターネットからリアルタイムで運行情報を入手するため、遅延情報なども瞬時に手に入る。

[メモ]重要なメモはいつでもトップに「ピン留め」

昨今はシンプルなテキスト中心のメモから、リッチテキストや手書きメモ、リストなども作れるようになった「メモ」。High Sierraでは表現力がさらにアップして、メモの中に表(テーブル)を作成できるようになった。メモの中で項目を分類する際などに役立つはずだ。また、よく使うメモが常にメモのトップに表示されるよう「ピン留め」も可能に。通常メモの表示は更新した日付順のため、古いメモは下のほうに埋もれてしまっていたが、この機能を使えば重要なものをすぐに見つけられる。

よく使うメモを「ピン」で留めておくことでアクセスしやすくできる。一種のフラグのような扱いだが、フォルダによる分類などと組み合わせることで、重要なメモを見失わず、すぐにアクセスできる環境が作れる。

[メール]利用履歴を学習して検索精度がアップ

High Sierraの「メール」では、検索時にもっとも検索条件に近いと思われるものが最上位に表示される「トップヒット」が追加される。詳しい条件は定かではないが、「トップヒット」ではこれまでのメールの利用履歴を学習し、そのメールの相手がよくやりとりするかどうかや、検索語句の利用頻度などを複合的に判断して優先度を高めているようだ。これにより、たとえば同じ単語が使われていても広告メールなどは優先度を低く見積もってくれるものと予想される。なかなか使いどころが難しそうな機能だが、学習が進めば大量のメールから目的のものを素早く見つけだしてくれる、頼れる機能になりそうだ。

検索結果のリスト上位に、目的の可能性が高いメールがリストアップされる「トップヒット」が追加されている。トップヒットに選ばれるメールは必ずしも1つとは限らない。

[FaceTime]ビデオチャットの映像を保存しよう

iPhoneやiPad、Mac間でビデオチャットが楽しめる「Face

Time」は、これまでチャット中の映像を記録・保存できなかった。High Sierraではチャット全体の録画はできないものの、会話中の映像を一部切り取ってLive Photosとして保存できるようになる。Live Photos自体は「写真」ソフト内でループ設定やキー写真の変更、トリミングといった編集が可能になっており、チャット中の面白い行動などを写真にしてさらに楽しむこともできる。最近流行りのショートムービー的な扱いで楽しめそうだ。

Mac内蔵のFaceTimeカメラはインカメラ側のみで固定されているので、お世辞にも使いやすいとはいえない。iPhoneなどで会話している相手の映像を録画するような使い方が中心になりそうだ。

 

基調講演では語られなかった

High Sierraのココもすごい!

ここまで、基調講演で発表されたものをメインに紹介してきたが、開発者たちにとってのWWDCは、実は「基調講演が終わってからが本番」。午後から始まる「Platform State of the Union」を筆頭に、機能ごとに詳細に語られる。セッションやエンジニアと直接対話ができるラボなどが100種類以上のプログラムがセッティングされている。その中ではもちろん、基調講演では語りきれなかった数々の新機能が明かされる。ここでは、それらの中でも特に気になるポイントをピックアップした。

AirPlayが「AirPlay 2」に進化

iTunesで再生している音楽を、AirMac Expressに接続したスピーカやApple TV、対応スピーカでも再生することができるワイヤレス技術AirPlayが進化。今までは複数のスピーカで音楽を再生したい場合には、Mac本体+AirMac Express、もしくはApple TVとの接続に限られていたが、今回はHomePod、Apple TV(第4世代)そして対応するサードパーティ製スピーカであれば、さらに多くのスピーカを同期して再生できる「マルチルームプレイバック」が提供される。

Touch Barの使いやすさがさらに向上

MacBook Proで利用できる新インターフェイス「Touch Bar」も、さらに改善が図られる。たとえば色を選択するカラーピッカーをユーザ自身でカスタマイズしたり、スライダによる調整もスペクトラムスタイルだけでなく、RGBやHSBといったより細かなレベルに切り替えたりといった操作が可能に。ほかにもTouch Barに表示されるボタンを「アイコンとテキスト」「アイコンのみ」「テキストのみ」といったFinderのツールバーと同じ要領でカスタマイズできるオプションも用意される。

タブ表示もさらに見やすく

macOS Sierraから、Safari以外のソフトでも利用できるようになった「タブ」表示は、複数のウインドウをまとめるのに便利な機能だ。ここに、よりプレビューしやすくするために「すべてのタプを表示」メニューが加わった。これを選ぶとSafariと同様にウインドウ内にExposéスタイルですべてのタブの内容が表示されるようになる。目的のタブにより素早くアクセスできるようになるだろう。

Podcastがより使いやすく

この秋のOSアップデートに合わせて、iTunesで購読できる人気ジャンル「Podcast」もサービス内容がパワーアップ。従来は単に最新版を優先的に配信し、バックナンバーは視聴者が選んで視聴するスタイルだったが、新たに「おすすめのエピソード」など配信先が視聴順をカスタマイズしたり、予告編といったものを提供することが可能になった。さらに、番組の構成スタイルに合わせて一話完結型(Episodic)や連載型(Serial)といった属性を与えたり、シーズン制を導入することで、よりコンテンツが選びやすくなる工夫も盛り込まれている。

Podcastをビジネスに

Podcastというジャンルは、2005年に誕生してからわずか10年間で155カ国、40万を超える番組が作られる巨大な市場へと成長している。しかし、その一方で「誰が、どのくらい聞いているのか」といった分析を行う手段がなかったためビジネス活用が難しい側面があった。そこで今回Appleは「Podcast Analytics」というシステムを発表。コンテンツ制作者向けサービス「iTunes Connect」を通じてこの機能を提供するということだ。

今後は動作しないソフトが出てくるかも?

macOSのシステム環境はすでに64ビットへと移行が完了しているが、サードパーティ製ソフトの一部には提供時の32ビットのままで残っているものがあるのが現状だ。iOSではすでに先行しているが、macOSも今回リリースされるHigh Sierraが32ビットのソフトをサポートする最後のバージョンであることが発表された。バージョンアップされていないソフトは次期OSから動作しないリスクも出てくるので、これを機に早めにチェックしておくとよいだろう。