Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

業務ツールはWEBアプリがいいって本当?

著者: 牧野武文

業務ツールはWEBアプリがいいって本当?

皆さんはiOSデバイスで多くのアプリを使いこなしていると思うが、最近は企業で使われる業務用アプリの「WEBアプリ」化が進んでいる。WEBアプリとは、アプリのように使えるWEBサイトのこと。なぜ企業は業務ツールとしてWEBアプリを使うようになり始めたのだろうか。これが今回の疑問だ。

アプリ化していくWEBサイト

2007年に初代iPhoneが登場して、あっという間に定着した新語が「アプリ」だ。英語圏でも「App」という新語が急速に普及した。言うまでもなく「アプリケーションソフトウェア」の略語だが、アプリはまったく別物と考えられ、略語ではなく独立した言葉として定着した。

このアプリは主にモバイル端末向けとして捉えられることが多く、その内部の仕組みによって大きく3種類に分類できる。ネイティブアプリ、WEBアプリ、ハイブリッドアプリの3つだ。ネイティブとは私たちが普段アップストアからインストールして使っているアプリのことだ。オブジェクティブC(Objective-C)言語などで開発され、主要な処理が端末内で行われるため、動作が高速でオフライン利用もできるメリットがある。

WEBアプリは定義が曖昧な部分もあるが、主要な機能がサファリなどWEBブラウザ上で実行されるサービスのことだ。HTMLとCSS、ジャバスクリプト(JavaScript)で開発されるなど、WEBサイトとの共通性が多い。

そして最後のハイブリッドは、ネイティブアプリの形で配布されているが、中身はWEBページを表示している中間型だ。

WEBアプリのもっともわかりやすい例は「グーグル・マップ」だろう。サファリでアクセスすると、ネイティブアプリとほぼ同じ感覚で地図を操作できる。

「動作が鈍い」も用途次第で問題なし

だが、WEBアプリよりもネイティブアプリを好む人のほうが多いだろう。なぜなら、WEBアプリにはいくつかの欠点があるとされてきたからだ。1つは、WEBベースのためグラフィック系の操作が重くなりがちなこと。たとえば、グーグル・マップでは地図の拡大/縮小や移動などがネイティブアプリに比べるとぎこちない。

もう1つは、アカウントやパスワードなどの情報を記憶してくれない設計になっているものが多いこと。WEBでもクッキー(Cookie)などを利用すればブラウザに認証情報を保存できるが、マルウェアによりクッキーにアクセスされる危険性もあり、セキュリティ上の問題から記憶しない設計にしているところが多い。

そしてもう1つ言われることが、iPhoneの機能と連係しづらい点だ。だが、ここはアップルがiOSのAPIの公開を徐々に進め、WEBでも標準のHTML5でかなり改善された。たとえば、WEB上に電話発信ボタンを設置して、タップでそのまま電話をかけることは簡単に行える。

つまり「動作が遅い」ことが一番の問題だが、これも検索やニュースのように簡単な情報の表示や入力が主体のサービスであれば、大きな欠点にはならない。

また、WEBアプリであっても[ホーム画面に追加]を選ぶと、ホーム画面にアイコンが作成され、ネイティブアプリと同じ感覚で使える。グーグル・マップなどでは、出張や旅行のときに出先の地域を表示させた状態でホーム画面にアイコンを追加すれば、その地域の地図をワンタップだけで見られる。不要になったら、アイコンを削除してしまうだけでいい。

業務ツールとして利点の多いWEBアプリ

このWEBアプリやハイブリッドアプリが、業務用アプリとして注目され始めているのをご存知だろうか。その一番の理由はコストで、開発費がネイティブアプリよりも比較的小さいという事情がある。特に開発をアプリ制作会社に外注していた場合は、機能の追加や変更、iOSのバージョンアップ対応のたびに費用や日数がかかってしまう。その点、WEBアプリであれば汎用性の高いWEB技術が基本のため、社内で人的リソースを確保できれば開発を外注せずに済ますことも可能だ。

もちろんGPSで顧客の位置情報を取得したり、オフライン利用や動作速度が重要な場合などネイティブでないと実現できない機能もあるだろう。だが、すべての業種や業態においてこれらの機能が必須というわけではない。

たとえば、経理処理や在庫管理などのバックエンド業務はWEBアプリ化が特に進んでいる分野だ。スマートフォンやタブレットで使う業務アプリは、複雑な入力操作よりも表示された内容を確認する目的で使うことが多い。在庫管理であれば店内で接客中でも確認できるようにスマホを確認用の端末として使い、在庫数を入力するときは事務所のPCを使うといった使い分けで業務の効率性がアップする。

長く使えるWEBアプリ

そして業務アプリの世界でWEBアプリが注目されているもう1つの理由は、業務ツールを素早く改善していける点だ。ネイティブアプリの場合、開発や修正を行ったら動作確認をして外部にも公開する場合は審査を経て、全社員に配布して環境を揃えなければならない。通常はMDM(モバイル・デバイス・マネジメント)を通じて配布することになる。一方で、WEBアプリの場合はこの配布やアプリ審査の必要がない。基本はWEBサイトと同じなので、サーバにアップすれば更新は完了だ。iOSのバージョンアップによる影響も受けにくい。

さらに長期計画を考えた場合、WEBアプリは非常に効率がいい。なぜなら、スマートフォンやタブレットの平均使用期間は約3年と意外に短いからだ。一方で、業務アプリの背後にある基幹システムの平均使用期間は10年から15年程度。現在モバイル用途でiOSがベストの選択であることは疑いないが、買い替えが発生する3年後もそうであるとは限らない。そのときには、アンドロイドやサーフェス、あるいは未知のモバイルデバイスが正解になっているかもしれない。そのときにiOSに特化したネイティブアプリでは大規模な再開発が必要になってしまう。

これを考えると、社員が日常的に手元で使うインターフェイスはWEBがおおむね正解なのだ。WEBアプリであれば、将来ほかのプラットフォームを選択することになっても、ほぼ修正なしでそのまま使うことができる。現在でもWEBアプリならプラットフォームに依存しないので、社員は自分の業務の都合に合わせてプラットフォームを選べるCYOD(チューズ・ユア・オウン・デバイス)の環境が作れることになる。

基幹システムも専用端末でアクセスする時代は終わり、WEBインターフェイスを持つようになっている。

また、基幹システム自体のクラウド化も進んでいる。業務の分野では配布に手間がかかり開発費のかかるネイティブアプリよりも、汎用性が高くて素早く安く作れるWEBアプリを選択する企業が増えつつあるのは自然の流れと言えるだろう。

WEBアプリ

ネイティブアプリ

Yahoo! Japanとグーグル・マップのWEB(上)とネイティブアプリ(下)。構造はほぼ同じにデザインされている。グーグル・マップのWEBアプリは地図の表示に時間がかかるなど、使い勝手はネイティブのほうが優れている。文字情報の主体のYahoo! Japanでは、使い勝手はほとんど変わらない。

WEBアプリも[ホーム画面に追加]すれば、ネイティブアプリと同じようにアイコンで開ける。アプリ容量はほぼゼロに等しいので、ストレージ容量の節約にもつながる。

最近はフィンテック系サービスのWEBアプリ化がとても普及している。個人はもちろん業務システムでもクラウドを利用したサービスが増えていくことは間違いないだろう。

文●牧野武文

フリーライター。スマートフォンは小規模の業務端末にも向いている。格安スマホでは、iPhone 5sが初期費用100円、月々2000円程度というプランまである。通信はWi-Fi、電話はフェイスタイムという使い方が定着すれば、業務端末としての需要が広まっていくのではないだろうか。