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『経済指標のウソ 世界を動かす数字のデタラメな真実』書評

著者: 徳本昌大

『経済指標のウソ 世界を動かす数字のデタラメな真実』書評

第24回 統計は“真理”にあらず。間違いだらけの数字に振り回されるな!

統計数字における大きな「誤差」

私たちは経済指標にも歴史があり、考案された理由があることや長所や短所があることを忘れがちだ。(ザカリー・カラベル)

その国の経済状況を構成する要因を数値化したものを「経済指標」といいます。GDP(国内総生産)や失業率、物価指数などがそれに当たり、国の政策決定や企業の経済活動における1つの目安になっています。こうした大変重要な数値が、いまや実際の経済を反映しないものになっている、と本書の著者ザカリー・カラベルは指摘します。

たとえば、2013年にアメリカのGDPが一夜にして4000億ドルも拡大しました。これはもちろん経済成長によるものではなく、以前から存在していた「研究開発費」が設備投資として認められたことにより、アメリカのGDPを一気に押し上げたのです。研究開発費は現在においてもっとも重要であるはずの知的財産ですが、それまでは軽視されており、「投資」とみなされていませんでした。この4000億ドルという数字は、なんと約90カ国のGDPを上回るものです。経済指標にはこれほどの「誤差」があるのです。

過去の常識で設計された経済指標を、産業構造の変化した現代に用いるのは無理があるというものです。本書はそうした観点から、GDP、失業率、インフレ率や国民総幸福量など、さまざまな経済指標の歴史を振り返りながら、指標の問題をあぶり出しています。

実は、私たちが日頃使っているiPhoneの統計数字にも問題があります。研究開発費という名の知的財産が米国の国内経済に組み込まれる2013年まで、iPhone販売の中国に対する貿易赤字は毎年60億ドルに上ると試算されていました。これは、iPhoneが「中国製」であり、それを米国は中国から「輸入している」と見たときにはじき出された数字です。しかし、iPhoneの価値は組み立てられた本体のみにあるわけではありません。この発明をめぐるさまざまな知的財産こそが、この製品の本当の価値であるはずです。つまりここにも、大きな「誤差」が存在しているといえるでしょう。

このように、経済指標は多くの問題を抱えています。しかし、それに代わる公的な数値を現代社会が生み出せていないのも事実です。大事なのは、それが「正しい」という認識を捨てることです。発表された数字を参考にはしても、過信するのはよくありません。私たち現代人は、インターネットを少し検索するだけで多くの統計数字にアクセスできます。その特権をフル活用して(もちろん事の真偽はよく確かめて)、自分の判断基準を作るべきなのです。

経済指標のウソ

世界を動かす数字のデタラメな真実

ザカリー・カラベル著

ダイヤモンド社/1944円

2017年3月刊

徳本昌大

iPhoneやソーシャルメディアのビジネス活用を絶えず考える読書ブロガー。複数の広告会社勤務後、コミュニケーションコンサルタントとして独立。現在は、株式会社Ewil Japan、株式会社ビズライト・テクノロジー、GYAKUSAN株式会社の取締役としても活動中。 【URL】http://tokumoto.jp/