躍進を続けるAppleのビジネスを大きく支えているのが、直販ビジネスである「Apple Store(アップルストア)」だ。今回その立役者の一人であるApple上級副社長アンジェラ・アーレンツ氏が、成功のポイントをメディアに語った。その基本姿勢は長期的成長を視野に入れたもので、どの小売ビジネスにおいても有効な手段となるだろう。
成功の立役者
アップルは革新的な企業である。毎年新たな製品にユーザは心踊らされ、その成果は大きなセールスとなっている。その成長を堅実に支えているのが、直営店であるアップルストアだ。
この直販ビジネスは、当時アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズ氏と、米大手家電量販チェーン「ターゲット」からアップルに移籍したロン・ジョンソン氏によって、2001年にスタートした。世間が効率化を求め、オンラインショッピングへと軸足を向けようとしている中で、いわば「逆張り」のような戦略だった。当初このビジネスは成功しないとさまざまなメディアやアナリストたちによって批判されたが、結果は周知のとおり。彼らの予想に反して、めざましい成長を遂げている。現在では、店舗面積あたりの売り上げ平均は全米トップ。それも、2位のティファニーのブランドショップの倍以上の数字を叩き出しているというから驚きだ。
しかしアップルはそれに満足することなく、さらなるストアの強化に乗り出している。その1つが、「機会の提供」だ。さまざまな体験型の講座からなる「Today at Apple」プログラムなどを通じて、コミュニティスペースとしての価値を地域に提供するなど、「販売の場所」を超えた役割をストアに見出している。それはもちろん、同社のブランディング強化にもつながっていく。
この成功と躍進の秘訣はどこにあるのか。このたび米国の放送局CBSが、2013年からアップルの直販ビジネスを統括する上級副社長アンジェラ・アーレンツ氏に単独インタビューを行った。アパレルブランド「バーバリー」を劇的に業績回復させた手腕を見込まれ、現アップルCEOのティム・クック氏に直接口説き落とされたという来歴を持つ彼女が、アップルストアのポイントを4つにまとめて語っている。
無形の価値を高める
●コミュニティの形成
日本でも「ユーザグループミーティング」というアップル製品愛用者たちのイベントがあるが、こうしたユーザのコミュニティに対する帰属意識は企業にとって大きな力になるという。企業のブランドイメージを高め、顧客のロイヤリティを向上させるための鍵はここにあるのだそうだ。
●ストーリーを語る
アップルはMacやiPod、iPhoneを初めて世に出したとき、それぞれの市場のニーズをシンプルにまとめ、よりエレガントな体験ができるものにデザインして提供した。「偉大なブランド、そしてビジネスは優れたストーリーテラーであるべき」だとアーレンツ氏は語っている。そうして生み出される企業のコアバリュー(中心的価値)は、製品や市場の動向に左右されない安定した成長を維持し続けるのに欠かせない要素となっている。
●Z世代に合わせる
Z世代とは、2000年以降に生まれた世代を指す言葉だ。重要なのは、この世代をマーケティングやセールスに関する“データとして計測”するのではなく、彼らのライフスタイルに焦点を当てた戦略を立てることだという。ミレニアル世代(2000年以降に成人となった世代)とも異なる新しい価値観を持ち、次世代の中枢を担うこの層に注目することでブランドが成長し、副次的にセールスも伸びていくというのだ。
●エモーショナルな体験を創る
これはアーレンツ氏がバーバリー時代から徹底してきたポリシーだ。オンラインストアと実店舗をシームレスにつなげる取り組みなどは、この一環になる。先述のToday at Appleもこの取り組みの代表的なものであり、「いかに顧客の感動を生み出すか」という点にアップルが注力していることがわかるだろう。
これらのポイントは決してアップルだから成し得ることではない、というのが筆者の考えだ。氏の語る4つの方針は、企業と顧客の間に“人生におけるパートナーシップ”という不変の絆を構築しようとするすべてのビジネスにとって、非常に意義深い教訓となるに違いない。
旗艦店であるApple Union Squareの店内。イベントやワークショップを行うために、「フォーラム」と呼ばれるスペースが用意されている。オープン当時、アーレンツ氏は同店舗を「未来のAppleの購買体験」と称した。 photo●松村太郎
4月25日、CBSのニュース番組「This Morning」の中で紹介されたアンジェラ・アーレンツ氏のインタビューの様子。【URL】http://www.cbsnews.com/news/angela-ahrendts-apple-svp-of-retail-redesign-today-at-apple/