2017年5月2日、アップルは2017年第2四半期決算を発表した。iPhoneやiPadの数字が伸び悩む一方で、Macやサービス、その他のエリアは好調を続けている。決算数字を受けて、アップルは今後どのような舵取りをしていくのか。WWDC 2017を前に考えてみたい。
予想を上回る数字
アップルは5月2日に、2017年第2四半期決算(1~3月期)を発表した。売上高は529億ドルで前年同期比4.6%増となり、1株あたりの利益2ドル10セントはアナリストの予測を上回る結果となった。
注目を集めるのは主力ビジネスであるiPhoneの販売台数。5080万台という結果は前年同期比マイナス1%で、現状維持に落ちついた。しかし、平均販売価格は655ドルに上昇し、売上高は同プラス1%。新興市場での成長と成熟市場での高付加価値化のバランスを取ったアップルの戦略が読みどおり成功していることを窺わせる結果だ。
Macは420万台を販売し、前年同期から20万台増えた。販売台数5%増に対して、売上高は14%増。2016年10月に刷新したラインアップで、MacBookエア11インチの販売を終了したことから、こちらも平均価格が上昇している。
一方、iPadは冴えなかった。売上は890万台で前年同期の1020万台、アナリスト予測の960万台には届かない。決算発表に合わせたカンファレンスコールでは供給不足についての指摘があり、ニーズのある製品を思うように生産できなかった点が原因として考えられる。それを反映してか、アップルは3月21日にiPadラインアップの整理を行い、第5世代iPadの発表で9.7インチモデルを値下げした。
中国低迷の理由
地域別では米国、欧州が2桁成長となり、日本市場は5%増、アジア太平洋地域は20%増となった一方で、第2の巨大市場とされてきた中華圏の売上は14%減少している。中国市場ではMacなどの販売が好調だったと報告されており、主力のiPhone販売が伸びなかったことが下押しの原因となっている。
アップルのティム・クックCEOは米国のニュース番組のインタビューに答え、中国低迷の理由について「次の製品に関する噂やニュースが頻繁に流れることによる買い控え」を挙げた。中国市場では、最新のガジェットに対する注目度がより高く、デザインやテクノロジーを搭載すると噂される次のiPhoneの情報が流れることで、現行モデルであるiPhone 7の販売に影響しているというのだ。
実際のところ、iPhone 7は、中国市場を一気に押し上げたiPhone 6と同じデザインを採用しており、内部の技術的進歩はあるものの、製品として大きな変化はない。また、WeChatによるコミュニケーションから決済までの幅広いサービスが普及したことで、「WeChatさえ快適に動作すれば問題ない」というユーザが増えたことも影響しているだろう。つまり、中国市場では大きく形を変え、魅力的なデザインにならなければ、買い換えの動機にならないというのだ。
新型iPhone発売が近づく4~6月、6~9月は、中国に限らず、世界的にiPhone買い控えの傾向が続くことが予測できる。新型iPhone投入後となる2018年第1四半期決算までの間、もうしばらくはiPhoneの販売不振は続くことになりそうだ。
地域別売上高(単位:100万ドル)
2017年第2四半期の売上高は529億ドル、純利益は110億ドル、希薄化後の1株当り利益は2ドル10セント。前年同期の業績は売上高が506億ドル、純利益は105億ドル、希薄化後の1株当り利益は1ドル90セントだった。米国市場以外の売上比率は65%を占めている。
サービスは3年で2倍に
今回のアップルの決算に際して、現状維持や低迷というやや暗い表現が多く使われているが、堅調、そして勃興する分野があることも事実だ。
アップストア(App Store)やアップルミュージック(Apple Music)など、iPhoneユーザ向けのサービスは好調で、70億ドルの売上となり、米国の大企業の指標となるフォーチューン100企業と同等の規模に成長した。
特に、アップストアは前年同期比で4割増の売上高へと成長しており、1アカウントあたりの平均売上高や、支払いを行っているアカウント数も過去最高の伸び率を記録した。これは、iPhoneの新規ユーザが堅調に伸びていること、そして既存ユーザがより積極的にアプリに対して支出していることを表しており、今後の成長期待もより拡がっていくことになる。
サービス分野については、季節変動少なく成長している点も重要だ。新製品のリリースに左右される製品カテゴリとは異なる、安定的な収益源としてより期待が高まる。アップルは2020年までにサービス分野を2倍の規模にしたい考えだ。
アクセサリ分野も規模拡大へ
今回の決算でもっとも注目すべきなのは「その他の製品」のカテゴリだ。28億7000万ドルの売上高は、前年同期比31%増で、もっとも成長した分野となった。このカテゴリにはアップルウォッチ(Apple Watch)、アップルTV(Apple TV)、エアポッズ(AirPods)やビーツ(Beats)といったオーディオ製品、ケースやカバー、バンドなどのアクセサリ類が含まれる。
アップルウォッチは2016年9月に第2世代となるアップルウォッチシリーズ2がリリースされ、より操作性を整理しシンプル化したウォッチOS(watchOS)3を搭載している。その結果、前年同期比で2倍の売上高を記録し、市場が拡大していることがわかる。
また、アップルは、エアポッズの需要に供給がまだ追いついていないものの、顧客満足度98%を獲得し依然として好調である点を強調している。アップルウォッチ、ビーツ製品を含めて、カンファレンスコールでは「ウェアラブル」というくくり方をしていた点も印象的だった。これらの分野の売上は、フォーチューン500企業の規模に匹敵し、今後の成長にも期待がかかる。
製品別売上高(単位:100万ドル)
過去の同四半期と比較すると、Macの売上高は昨年同期と比べて14%伸びた。一方、iPhoneの売上高は昨年同期と比べて1%減、iPadの売上高は昨年同期よりも12%減少した。サービス事業は13週からなる四半期としては過去最高の売上高。また、その他製品(Other Products)も31%増と順調に伸びている。
Apple Watchは2016年9月に第2世代となるApple Watch Series 2をリリース。より操作性を整理しシンプル化したwatchOS 3を搭載するなどして改善を図ったことで、前年同期比で2倍の売上高を記録。市場が拡大していることがわかる。
アクセサリから見る未来
アップルのウェアラブルデバイスは、アップルウォッチにしてもエアポッズにしても、今後、声による操作をより強調していくことになるはずだ。つまり、シリ(Siri)によって情報を得たり、アプリを声と音声フィードバックによって操作する使い方を広げていったりすることで、こうした身につけるデバイスをiPhoneと組み合わせて使うことの重要性をアップルは高めていこうとするだろう。
2016年の開発者会議WWDCでは、シリに対して、メッセージング、通話、配車、送金、写真検索などの分野のアプリについて、声による操作を可能にするAPI「シリキット(SiriKit)」を公開している。しかし、すべての分野のアプリを声で操作するには至っておらず、声のアプリスキルを1万以上揃えたアマゾンの音声アシスタントデバイス「アマゾン・エコー(Amazon Echo)」とそのプラットホームに遅れを取っている。
2017年6月5日から開催される今年のWWDCでは、このシリキットの拡張がアナウンスされることは確実だと考えられる。シリを通じて、アプリの機能を対話型で利用できるようになり、エアポッズを通じて、あるいはカープレイ(CarPlay)で接続するクルマの中で、より多くのアプリを利用することができるようになるだろう。
また、アマゾン・エコーキラーと目されるアップルの音声アシスタントデバイスの可能性も、切り拓くことができる。iPhoneに追加したアプリが順次対応していくことで、多くのiPhoneユーザが導入を検討するデバイスに成長することが期待できる。
さらに、アップルは、拡張現実や自動運転といった未来への投資も強めている。アップル自身の買収や研究開発だけでなく、中国やインドへの投資や、ソフトバンクのファンドへの出資など、その手法も多彩さを増しているのだ。
足下のビジネスは引き続き、iPhone主体の状態が続き、次世代のiPhoneが登場した際には、再び、これまでにない大きな販売台数となって輝くことになるだろう。アップルはそうしたiPhoneの時代から、次の時代へいかに進んでいくのか、今後も数字と製品の面から世界中の注目を集めていくことになる