Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

ソニーのKOOVで生まれる無敵の“ロボットレシピ”!

著者: 朽木誠一郎

ソニーのKOOVで生まれる無敵の“ロボットレシピ”!

カラフルかつスタイリッシュなブロックで形作られたワニ。口の中に指を差し入れると、それが「ガコン、ガコン」と閉じ始めた。挟まれないように、慌てて指を抜く。往年の懐かしいおもちゃを思わせるその動きは、実はプログラムで制御されている。

これは、ブロックと電子パーツ、専用アプリで構成されるロボットプログラミング学習キット「クーブ(KOOV)」。ソニーの関連企業で、もともとはソニー社内の新規事業からスタートしたソニー・グローバルエデュケーションが開発した。クーブのリードエンジニアである池長慶彦氏は、ソニーが教育事業に進出した理由を次のように語る。

KOOV

【開発】株式会社ソニー・グローバルエデュケーション

【価格】KOOVスターターキット 3万6880円/KOOV拡張パーツセット 2万1880円/KOOVアドバンスキット 4万9880円 ※いずれも希望小売価格

【URL】https://www.koov.io

2017年2月に発売された、ロボット制作とプログラミングが学べる学習キット。対象年齢は8歳以上。ブロックと電子パーツを組み合わせたロボットを、専用アプリで作成したプログラムで動かす。かたちと動きで自由に行う工作は、子どもたちの創造性を育む。アプリはmacOS、iOS(iPad)、ウィンドウズに対応。成長に合わせて継続的に楽しめる、さまざまなコンテンツが用意されている。

「ソニーはもともと教育事業に関心のある会社です。設立趣意書にも、“国民科学知識の実際的啓蒙活動”という記載があるほどで、創業者の井深大の時代から強い志があったと聞いています。現在、世界の教育市場は400兆円以上の規模とする調査がある一方で、日本の教育現場にはテクノロジーの導入があまり進んでいません。そこで、代表の礒津(政明氏)がプロジェクトを起ち上げました」

同社の設立は2015年。2020年から小学校でプログラミングが必修化されることからも「今後はプログラミングが当たり前の素養になるはず」と、それを楽しく学べるクーブを開発した。同社の理念である“300年先の未来をつくる教育”を目標に、人工知能が得意とするような既存の問題の解決ではなく、人間にしかできない未知の問題への対応力を養えるサービスを提供したい、とその意気込みを語る。

特徴的な半透明のブロックは、学校教材の国内最大手であるアーテック社のライセンスを取得し、ソニーのクリエイティブセンターが開発した。会社ロゴや専用アプリのUIとも統一感のある洗練されたデザインには、ものづくりのソニーの強みが活かされている。

専用アプリで提供されるサービスの特徴は5つ。「ロボットレシピ」には、現在22作例(アドバンスキット使用時)のロボットの作り方が掲載されている。作ったロボットの写真やコメントを投稿できる点は、まさにレシピサイトのようだ。各レシピに搭載された「3D組立ガイド」を使えば、複雑な作例でも、角度を変えたり、拡大/縮小したりすることで直感的に構造を理解できる。

組み合わせは無限大 本格的な各種センサも同包

キットの内容は、上記電子パーツ(アドバンスキットの場合)と色とりどりのブロック。ブロックの種類はたった7つだが、組み合わせ次第で出来上がる作品はほぼ無限大だ。

組み立てガイドは3Dで表示 360度回転可能、拡大/縮小も自由自在

もともとは写真で組み立ての順番を説明する予定だったが、それでは子どもが一人で作れないということで、3Dに変更。「3D組立ガイド」では、どこに何をどのように取りつければいいのか、直感的に理解できる。

「ビジュアルプログラミング」は、クーブ最大の特徴だ。プログラミングといえば黒い画面に英字列が並ぶ様子を想像するが、ここではカラフルな画面で、日本語、それも小さな子どもでも読めるひらがなのブロックを組み合わせて行える。「学習コース」では、プログラミングについて基礎から学べる。随所でクイズが出題され、正解するとバッジがもらえるなど、子どもを飽きさせない工夫がなされている。「自由制作」として、オリジナル作品の制作もできる。

クーブの開発者たちがこだわったのは、子どもが一人でも学習を進められること。今後は学校への導入なども進めていく予定だが、教育現場より家庭でいつでも、自ら学ぶ意欲を持たせることが重要だという。

「目指すのはおもちゃのギットハブ(GitHub、開発者たちが情報を共有するWEBサービス)。自分のロボットレシピを公開し、それについて意見を交換するというような文化を育てたいですね」

同社代表の礒津氏は、2017年2月の製品発表時の会見で「(クーブの販売数)100万台を目指す」と語った。池長氏によれば「初速は予想以上で、手応えがある」とのこと。これまでさまざまなイノベーションを起こしてきたソニー発のクーブは、教育という日本の未来を担う領域で成功を収めることができるのか。子どもだけでなく、大人からも熱い視線が集まるだろう。

日本語対応・ふりがな付きでわかりやすいプログラミング環境を実現

「ビジュアルプログラミング」中の画面。初心者向けのプログラミング環境であるスクラッチ(Scratch)をベースにソニーが独自開発した。日本語で表記されており、子どもにもわかりやすい。一つ一つのプログラムを実行しながら動きを確かめられるので、トライ&エラーを繰り返しながらプログラムを作り上げられる。

学習のカギを握るのが 「見せる」「教え合う」シェア機能

一度作った作品は、スマートフォンで撮影し、写真をアップロードすることが推奨される。「人に見せる」「人と教え合う」ことで、高い学習効果を得られるからだ。小学生以上の子どもであれば、このくらいのフローは難なくこなせる。

「学習意欲向上」「モチベーション維持」のためのさまざまな工夫

「学習コース」(上)では、プログラミングの基礎を学べる。学習フローをロールプレイングゲームの地図のように表したり、随所でクイズを出題したりすることで子どもの学習意欲を向上させる。また、習熟度に応じてコレクションできるバッジ(左)は、子どものモチベーション維持につながる。

ロボット制作の豊富なレシピを用意 自分で一から作り上げる自由制作も可能

2種類あるモータを使って動くロボットから、人形のように動かないロボットまで、さまざまな作例がある。「学習コース」の中には「はじめてのロボットプラグラミング」と「ブロックアーティストになろう」の2つのコースがあり、前者ではプログラミングを使ったロボットの動かし方を、後者ではブロックのモデリングの方法を学べる。

株式会社ソニー・グローバルエデュケーション

プロダクトディベロップメント部 サービス事業統括

池長慶彦氏