ローカル新聞の編集長が手放せないiPhoneアプリ

主観は盛り込まない

東京・市ヶ谷には「市ケ谷経済新聞」というWEB上のローカル新聞が存在します。もしかしたら、神楽坂のお店を調べるときに目にしたことがある人もいるかもしれません。その市ケ谷経済新聞の編集長を務めるのが、今回のゲストである菅野夕霧さんです。

市ケ谷経済新聞の人気記事は、「Yahoo!ニュース」でも配信される仕組みになっています。菅野さんご自身も『ヤフートピックスを狙え』という本を書かれているわけですから、運営の極意について聞いてみました。

「共感され、記事がよく読まれるためには、ネタ、つまり素材が一番重要です。それをどうやって見つけてくるのかというのが、一番のコツですね。本業が広告制作のコピーライターなので、キャッチコピーを駆使しているかのように思われがちなのですが、コピーライターの仕事と市ケ谷経済新聞の編集長の仕事は真逆なんです」

「素材で勝負する」というのはどういうことなのでしょう？

「ニュース記事ですから、主観を入れてはいけないんです。たとえば、飲食店の記事を書く場合も、“おいしい”“うまい”とは書けない。それは主観ですから」

飲食店の記事の場合、味の感想を盛り込まないと何にも書けないように思えますが、実はそうではないようです。市ケ谷経済新聞では、メニューや食材、創業に至った背景などを記事にするのだそう。そして、記事になった飲食店は、その後雑誌やテレビに取り上げられることも多いのだとか。

市ケ谷経済新聞は、「みんなの経済新聞ネットワーク」という地域に根ざしたネット新聞として運営されています。たとえば、青森県なら八戸、九州なら鹿児島のようにエリアによって異なる事業体が運営しているユニークな組織の1つ。そういえば、私が経営している別府の「ことばハウス」を、大分経済新聞の記者さんが取材してくれたことがありました。

距離がわかるニュース

市ケ谷経済新聞のポリシーには、「街の変化を記録する」というものがあり、新しい店ができるというのもニュースの1つですし、何かがなくなるというのもニュースになるのだそうです。ただし、単なる「新メニューできました！」というのは、「街の変化」という尺度でいうと小さいので、記事にはしにくいとのこと。さらに、今年の東京の桜は開花から満開になるまでの期間が長かったそうで、菅野さんはそのような街の変化も記事にしています。

市ヶ谷にある市谷亀岡八幡宮は、ペットと一緒にお参りができるという珍しい神社で、市ケ谷経済新聞が繰り返し記事化したこともあり、全国に知られるようになりました。初詣の際は全国から大勢のペット連れの参拝客が来るそうですが、このきっかけになった菅野さんの着眼は素晴らしいですね。なるほど、ネットですから、ネタ自体が面白ければ、拡散されて読まれる数は変わります。紙の新聞の場合、いくら記事が面白くても、基本的には発行部数以上に読まれることはありません。ネット新聞だからこそ、より記事の素材が大事になるわけですね。

10年も前から毎日1記事を書き続けている菅野さん。よくネタが尽きないなぁ…。素材集めにもコツがありそうですが、紙面の制約で次の話題へ（ごめんなさい）。

経済新聞の編集長ですから、菅野さんのiPhoneにもニュースアプリがたくさん。「みんなの経済新聞ニュース」というアプリは、市ケ谷経済新聞の記事も読めますが、面白いのは記事に位置情報が付与されているということ。あ、“面白い”も主観ですね…。これはニュース記事ではないので、許してください（笑）。

本アプリを起動すると、GPS情報から現在の位置と、ニュースになった場所との距離が表示されます。これは新しい。これまでは「昨日のニュース」とか「今朝のニュース」のように時間の概念しか存在しなかったのに、距離の概念が出るとは。旅行や通勤中にアプリを起ち上げていると、記事の並びが距離の近い順になります。iPhone時代のニュースの変化を実感しました。