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高速充電規格「Quick Charge」がUSB-Cケーブルを破壊する!?

著者: 中村朝美

高速充電規格「Quick Charge」がUSB-Cケーブルを破壊する!?

一部のUSBアダプタやモバイルバッテリに搭載されている高速充電規格「Quick Charge」によってUSB-Cケーブルが破壊される可能性が指摘されている。アップルデバイスのみを使っていれば問題はないのだが、アンドロイドを併用している場合には注意が必要だ。USB-Cケーブルの現状の問題とともに、その原因を調べてみた。

USB-Cケーブルが壊れる?

USB-Cは、両面どちらでも挿せるリバーシブルな端子と、USBだけでなくディスプレイポートやサンダーボルト3との互換性、USB PD(パワーデリバリー)による電源供給までをこなすユニバーサルさがウリである。すでに12インチMacBookやMacBookプロにも採用されているが、アップル製品だけでなく、アンドロイドのスマートフォンでもUSB-Cコネクタを持つものが急速に増えている。

そうしたアンドロイドスマートフォンの一部モデルでは、独自の急速充電規格である「クイックチャージ(Quick Charge)」が採用されている。クイックチャージとは、対応するスマートフォンと充電器同士の電圧を9V~12Vに昇圧することで電力供給量を増やし、さらなる急速充電を実現する仕組みである。従来のUSBバスパワーでは、電圧は5Vに固定されており、1~2.4Aの電流を流すのが限界だったため、これ以上電流を増やすには、ケーブルを太くしなければならなかった。そうしたジレンマを解決してくれる高速充電規格だ。

なんと、これらUSB-Cとクイックチャージとの間で、問題が発生している。USB規格は本来の電圧が5Vなので、そこへクイックチャージが規格外の高電圧をかけてしまうと、大半のUSB-Cケーブルに内蔵されている「eMarker」と呼ばれるチップが破壊される可能性があるというのだ。

MacやiPhoneを使っている限りはクイックチャージ対応アダプタを使っても昇圧はされないので、ほとんどのアップルユーザは安心していいだろう。しかし、クイックチャージ対応アンドロイドスマートフォンを併用している場合、MacBookに付属するUSB-Cケーブルを使うと、eMarkerチップを壊してしまう条件が揃ってしまう。レアケースなのかもしれないが、ここでしっかりと注意を呼びかけたい。

USB-C充電ケーブル

【発売】アップル

【価格】2200円(税別)

純正ケーブルなのでフルスペックのUSB-Cケーブルのように思えるが、わざわざ「充電ケーブル」と名前が付いているように、実はUSB2.0にしか対応していない。

USB-Cにも種類がある

USB-Cケーブルの問題はこれだけではない。ひとくちにUSB-Cケーブルといっても、目に見えない「機能差」がある。

たとえば、MacBookに付属する「USB-C充電ケーブル」は、USB PDには対応しているが、データ転送はUSB2.0(480Mbps)にしか対応していない。コスト削減のためと推測するが、USB3.1に必要な導線がカットされているのだ。

また、USB3.1対応のUSB-CケーブルでMacBookの充電をしようとしたとき、USB PDで充電するにはeMarkerチップが必須となるため、このチップが内蔵されていないケーブルを使うと、充電ができなくなる。

そして、同様にeMarkerチップが入っていないケーブルでは「オルタネートモード」が使えず、USB3.1とディスプレイポートの同時使用ができなくなる。その理由は、USB-Cがリバーシブルであることに起因する。下記図にあるコネクタのピンアサインを見てもらえばわかるように、USB3.1対応のUSB-Cケーブルはデータパスが2本対称に配置されている。データパスは1本に見えて2本なのだ。一対のデータパスがUSB3.1の通信を行い、もう一方はオルタネートモードで利用できる仕組みである。ここにはディスプレイポートやサンダーボルト3の信号が通せるのだが、ここでeMarkerチップが必要になる。ちなみに、設定チャンネルのピンがeMarkerチップにつながっており、デバイスがどんなケーブルなのかを判断している。

つまり、USB-Cケーブルには、USB3.1に対応しないケーブル、USB PDに対応しないケーブル、オルタネートモードに対応しないケーブルが存在することになり、これらは見た目ではまったく区別が付かない。USB-C充電ケーブルでMacBookと外付けストレージを接続し、「速度が遅い」と思っている方もいるかもしれない。心当たりのある方は確認するべきだ。

このようにUSB-Cは、多くの機能を搭載しており、ユニバーサルなコネクタなのは間違いない。しかし、これにより多くの導線が必要になり、ケーブルを作るためにコストがかかる。そのため、機能を省いた製品が出てきてしまい、先述のような状況になっているのである。

サプライメーカー同士の価格競争があるので仕方がないとはいえ、ユーザにとってはわかりづらくて仕方がない今の現状は、USB-Cの普及に待ったをかけかねない問題ではないだろうか? 簡単にケーブルが見分けられるロゴ認証のような仕組みの導入を期待したい。

USB-Cコネクタのピンアサインの一覧。左右に用意された2つのデータパスを使って、USB3.1のデータ通信とオルタネートモードを実現している。中央にはUSB2.0のデータパスが用意されているので、下位互換が保たれているわけだ。アップルのUSB-C充電ケーブルは高速データパスに必要な8本の導線が省かれている。