現行のMacプロは、2013年のWWDC(世界開発者会議)で華々しいデビューを飾ったハイエンドマシンだが、現在に至るまでモデル更新が行われないという異常事態が続く。そんな中、ようやくアップルが出した回答が「新モデルは来年以降」というもの。そこには、プロ向けワークステーション市場への大きな読み違えが影響していた。
これは新製品ではない
2017年4月5日、アップルはMacプロの販売ハードウェア構成をアップデートした。従来のモデルから比較すると、最下位の4コアCPU/ファイアプロD300モデルがなくなり、CPU性能に若干の変更はあるものの、上位モデルがそのままスライドして降りて来ている。つまり、今回のアップデートは完全な更新ではなく、どちらかというと単なる「値下げ」と捉えても概ね間違いではないだろう。これは、製品が切り替わるときに変更されるはずのサポート名も「Mac Pro(Late 2013)」のままで据え置かれていることが証拠の一端だ。
約3年半越しの価格改定ということもあり、ローエンドでも10万、フルスペックでは24万という大幅値下げは、既存モデルの購入を検討していたユーザにとっては朗報だろう。しかし、3Dやビデオ編集といった最先端のハイエンドコンピュータを求めるプロユースにとっては、この構成ではすでに時代遅れ感が強い。購入層の多くは、値下げよりも、最新世代のCPU/GPUへのアップグレードを望んでいる。
そんな心情を察してか、アップルは数人のエバンジェリストを中心とした業界関係者を招いて、これから先のデスクトップ型Macのロードマップについて明らかにするというラウンドテーブルを行った。普段は徹底した秘密主義を貫き通し、未来に関してはコメントしないアップル。非公開での実施とはいえ、これは異例とも呼べる出来事だ。
そのの中で、アップルは現行のMacプロが高性能コンピュータのトレンドに追従したアップグレードを提供できていないことを認めた。そのうえで完全に新設計の新型モデルを準備中であること、次世代Macプロはアップグレード性を重視してパーツ単位で交換可能なモジュラー式を採用すること、アップル純正のプロ向けディスプレイも計画中であることと明らかにした。
ただし、これらの製品は年内には用意できない(発売の予定は「来年以降」とかなり曖昧に伝えられた)ため、今回Macプロのリフレッシュを行ったというのが主な経緯だ。また、Macプロには及ばないものの、一部のプロ向けユーザに対応できるだけのスペックを持った新型iMacを年内にリリースすることも合わせて告知している。
進化のジレンマ
そもそもMacプロの失敗とは何だったのだろうか。その答えを一言で表すのであれば、それは技術トレンドの「読み違え」だろう。2010年頃からCPUはクロック周波数の高速化が進まなくなった。その代わりに、集積回路の微細化によって発熱量を抑え、また小型化された複数のプロセッサを搭載するマルチコア化による並列処理を行うことで、性能向上を図るアプローチに切り替わっている。
アップルはこの流れがGPUにも来ると読み、発熱量をある程度抑えたデュアルGPU構成がプロフェッショル向けのスタンダードになるとしてMacプロの設計を行った。しかし、実際には大型でクロック周波数の高い(発熱量が多い)シングル構成のGPU、もしくは複数構成が主流である。本来は静音化を実現した革新的な冷却機構であるはずだった「サーマルコア」では排熱処理が間に合わなくなってしまったのだ。
また、Macプロは拡張性に関しても不満が多かった。昨今のワークステーションにおいて異質とも呼べるそのコンパクトな筐体は、その拡張もサンダーボルト2を筆頭とした高速な外部通信ポートがトレンドになると予測していたが、これも外してしまった。いずれも2012年当時の水準で考えれば、業界でもトップクラスの性能と合理性を誇っていたのは間違いなく、その完成度の高さは誰の目から見ても明らかだった。しかし、年単位の状況の変化の中で、結果的にすべてアップルの目論見が外れてしまったのは、不運だったとしか言いようがない。
とはいえ、アップルのハイエンド戦略は、初代Macプロの際にも時代遅れ設計のまま放置された前科があり、同じ轍を踏む姿を見るのはユーザとしても悲しいものだろう。デスクトップ製品の売り上げが20パーセントまで落ち込んでいたり、Macプロの需要そのものが決して高くない事実はある。しかし、アップルが顧客全体の約30パーセントを引き続き「プロユース」として定義するのであれば、Macプロが「至高の存在」としてハイエンドマシンのトップに返り咲くことを、筆者は願って止まない。(文/氷川りそな)