教育者のためのアップルの新しいプログラム「アップルティーチャー(Apple Teacher)」がスタートした。このプログラムはアップル製品を教育現場で最大限活用できるよう、教材やヒント、インスピレーションがまとまったものである。また、テストをクリアすることでバッジが獲得でき、すべてをクリアすると晴れてアップルティーチャーとして認定される。授業や学校生活の中でiPadをどのように活用できるか、また内蔵されているアップル製のアプリケーションを用い、教育者が想像していたような授業がどのように行えるのか、そういったコンテンツが満載である。
iPadを中心とした教育現場におけるICT導入は、教育の2020年問題として話題となっている大学入試改革に対応するためや、文部科学省が推進している一人一台のタブレット環境を実現するために年々加速している。そうしたニュースは度々報じられるが、実際の現場について語られることは少ない。現在の学校/教員側の対応状況を総じて語ると、一部のICTに詳しい教員がモチベーション高く導入を牽引していることがほとんどだ。つまり、すべての教員がiPadをはじめとするタブレット端末およびICTを使いこなせているわけではない。もちろん、中には学校/教員全体で問題意識を持ち、積極的に利活用しているところもあるが、たいていの場合「現場」はついていけていないのである。
教育機関へのICT導入の本来の目的は、学校や教員、生徒・児童へタブレットを配ることではなく、授業の中にいかに定着させるかだ。しかし、それは教員にとっては「授業における利活用の方法」を考える必要性が生じ、その難しさや手間、時間的制約等から、実際に授業に用いる前にタブレットやICT導入に対してネガティブな印象を持ってしまう人がいる。以前、ある大学教授に聞いた話である。教授は講義時間の90分間をほぼ話ながら板書を行って講義の時間を埋めていた。iPadなどデジタル教材が浸透すると90分の講義内の時間配分が変わってくるし、1年間の講義スケジュールも再検討しなければならない。よって、学生との講義時間のコミュニケーションが変化することを懸念し、iPad導入に否定的であると話していた。
これまでの講義スタイルを変更するのは大変なことであるし、それによる結果が伴うか不安になるのは理解できるが、個人的にはタブレットやICT導入によって講義や教育スタイルの「すべて」を変える必要はないと思う。特に「授業時間のすべてをiPadで行おう」とするのではなく、5分でもいいから特定の部分にiPadを用いることで導入の障壁は下がり、授業自体や生徒・児童の関心・理解度に変化が生じるようになる。iPadをはじめとするデバイスは、授業に「一味」を加えるものなのだ。
「教育」は受ける側にとっても、教える側にとっても最高の学びの機会となるものである。受ける側にとっては新たな知識や手法を知ることにより、さまざまな問題を解決するためのスキルが身につき、教える側にとっては生徒・児童の理解度やリアクションによって新たな気づきを得る機会となる。そうした双方向性を高めるツールとして、iOSをはじめとするデジタルツールを捉えてはどうか。これまでのアナログ的手法では実現できなかった、新しい学びの形がそこによって生まれ、結果として授業の質や業務効率化が可能になると思う。
教育現場でiOSが果たすべき役割は、教育者の考え方を具現化する支援なのである。教育は教員や指導者が一方的に詰め込むものではなく、教育を受ける側の学びの姿勢や創造力、問題解決能力など、自己の成長を育むことを第一に考えなければならない。教育現場へのiOS導入は授業形態に変化をもたらし、これからの教育のあり方を見直すきっかけにもなるはずだ。
Hironori Fukuda
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple