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公衆Wi-Fiはなぜイマイチ使いづらいの?

著者: 牧野武文

公衆Wi-Fiはなぜイマイチ使いづらいの?

皆さんは公衆Wi-Fiサービスを利用しているだろうか。Wi-Fiスポットは増えたものの、接続してみると速度が遅かったり、うまく動かないというトラブルも多い。それが嫌で、外ではWi-Fiをオフにしている人も多いと思う。ではなぜ、公衆Wi-Fiはイマイチなのだろうか。これが今回の疑問だ。

公衆Wi-Fiの品質が低い理由

皆さんはiPhoneを持って外出するとき、Wi-Fiをオンにしておくだろうか、それともオフにしておくだろうか。アクセスできない有料のWi-Fiサービスや面倒なユーザ登録が必要な公衆Wi-Fiの電波をつかんでしまい、モバイルデータ通信ができなくなってしまうという煩わしさからオフにしているのも多いのではないだろうか。

そういう人には「タウンWi-Fi」アプリをお試しいただきたい。これは無料の公衆Wi-Fiに自動接続してくれるアプリで、ユーザ登録が必要な場合でも、その登録すら自動で行ってくれる。Wi-Fiに接続するのにも操作は不要で、気がついたら勝手に接続してくれる感覚だ。しかも無料というのだからうれしい。

ところが、せっかく公衆Wi-Fiへのアクセスが楽になったのに、接続したあとにいろいろと問題が起こることがある。たとえば、サービスによってはゲームアプリやストリーミング系のアプリはうまく通信ができないことがある。ひどい場合は、グーグル検索やWEB表示すらできないこともある。

原因は2つ考えられる。1つは各公衆Wi-Fi業者のポリシーの問題。なるべく多くの人に使ってもらうために、サイズの大きなダウンロードやストリーミングができない設定にしていることが多いという。

そしてもう1つは、アクセスポイント同士の干渉の問題だ。ショッピングモールなどでは計画的に公衆Wi-Fiのアクセスポイントの配置を考えているので干渉が起こることは少ないが、商店街や商店の密集する地域では各店舗が個別にアクセスポイントを設置するため、電波が重なりあってしまって干渉が起き、速度の異常な低下や突然の切断が起きる。

特に2.4GHz帯を利用するWi-Fi規格では、実質3チャンネルまでしか利用できない。Wi-Fiの電波はけっこう届き、到達距離は100メートルにもなるという。つまり、半径100メートルの円内に4つのアクセスポイントがあった場合、どこかで干渉が起きる可能性があるのだ。一方で、新しい5GHz帯を利用するWi-Fi規格では19チャンネルまで利用できるので、相当密集していても電波干渉は起こらない。ただし、普及はこれからだし、低コストで運用したい公衆Wi-Fiが5GHzに置き換えられていくのは時間がかかるだろう。

利用率が上がらない公衆Wi-Fi

ICT総研が2016年9月に発表した「公衆無線LAN利用者動向調査」によると、月1回以上公衆Wi-Fiを利用するユーザ数は4309万人に達するという。しかし、そのうちの1024万人は訪日外国人で、ビジネス利用ユーザが371万人なので、純粋な個人利用者は2914万人にすぎない。

スマートフォンを契約するときに、多くのキャリアが実質無料の公衆Wi-Fiサービスへの加入を勧めてくる。LTE通信の回線負担を減らすために、利用者にできるだけ公衆Wi-Fiを使ってもらおうという意図があるからだ。キャリアの公衆Wi-Fi契約者数は7000万人程度という推測もあるので、実際に公衆Wi-Fiを利用するスマホユーザは意外に少ない。

同調査によると、スマートフォンユーザの57%が公衆Wi-Fiを利用している。しかし、この回答は「過去に利用したことがある」かどうかを尋ねているので、かなり低い数字だと言ってよい。

公衆Wi-Fiの多くが事前にユーザ登録を求めることも、利用率の低さにつながっている。使うかどうかよくわからないサービスにユーザ登録をしようと考える人はそうは多くないだろう。

しかし、ユーザ登録をさせない公衆Wi-Fiを運営することは難しい。もっとも怖いのは犯罪に利用されることだ。登録の必要のない公衆Wi-Fiを使って、犯罪者が詐欺犯罪をしたりシステムが攻撃されることも考えられる。

また、公衆Wi-Fiを乗っ取られてしまう事件も起きている。2016年5月、三重県の観光旅館が提供する公衆Wi-Fiの管理者アカウントが乗っ取られ、その公衆Wi-Fiに接続した人のデバイスにマルウェアが送信されるトラップが仕掛けられた。これは伊勢志摩サミット開催の直前だったために、関係者には緊張が走った。

このように課題の多い公衆Wi-Fiだが、前述のタウンWi-Fiアプリは徹底してユーザの目線で作られているため、ユーザ登録の手間が軽減されている。タウンWi-Fiに入力した情報に基づいて、初回のユーザ登録も自動で行ってくれるのだ。ところが、これが問題となり、セブン&アイグループが提供する公衆Wi-Fi「セブンスポット」が、タウンWi-Fiからの接続を遮断するという措置に出た。

この仕組みはユーザ登録時に表示される利用規約を読んだことにならないからという理由だ。タウンWi-Fi側は、タウンWi-Fiアプリ内から自動でユーザ登録するときにセブンスポットの利用規約を表示しているので問題ないと主張したが、これでセブンスポットの利用規約に同意したことになるかは微妙だ。結局、現在はセブンスポットのみ、手動でユーザ登録をする仕様に変更された。

格安SIMの普及でニーズが高まる

既存サービスへのフリーライド(ただ乗り)という批判もあるタウンWi-Fiだが、目のつけどころは素晴らしい。少なくとも、iPhoneユーザが面倒に感じていた公衆Wi-Fi接続問題を一気に解決してくれた点は評価できる。「勝手につながってくれる」「事前登録した公衆Wi-Fiにしか接続しない」「暗号化されているかどうかを教えてくれる」など、ユーザ側の視点に立った姿勢も窺える。

セブンスポットの遮断問題でタウンWi-Fiは怪しげなツールという印象を持った人もいるかもしれないが、「ユーザが面倒に感じている部分を自動化する」コンセプトは個人的には好ましく感じる。できればライバルアプリが登場して、互いに競いながらさらに進化をしていってほしい。

しかし、このような公衆Wi-Fi接続自動化アプリであっても、接続後の制限やアクセスポイント同士の干渉、セキュリティ上の問題などは解決できない。これらの公衆Wi-Fiの品質については、そろそろガイドラインを作るべきなのではないだろうか。民間企業が独自に運営しているものなので強制はできないが、政府や業界団体が一定のガイドラインを作り、それに適合しているかどうかを公表するだけでもいい。そうすればタウンWi-Fiのようなアプリも、適合している公衆Wi-Fiとそうでない公衆Wi-Fiを識別して、適合する公衆Wi-Fiのみに自動接続するモードが用意できると思う。

特に、iPhoneもMVNO(仮想移動体通信事業者)を利用して通信費を抑えようと考える人は増えてくるだろう。そのとき、出先で公衆Wi-Fiを手軽に利用できるかどうかは大きい。せっかく、都市部では公衆Wi-Fiが増えてきたのだから、より利用しやすくなってほしいものだ。

ICT総研「公衆無線LAN利用者動向調査」によると、公衆Wi-Fiの利用者は2016年度が4309万人。うち個人利用者1024万人というのは、キャリアの公衆Wi-Fiサービス加入者数が7000万人いるとも言われることを考えると、決して高い数字ではない。

同じく、ICT総研「公衆無線LAN利用者動向調査」のアンケート調査では、スマートフォン利用者の半数強しか公衆Wi-Fiを利用していない。スマートフォンを契約するときはキャリア運営の実質無料の公衆Wi-Fiに加入することが多いのだから、もっと利用されてもいいはずだ。

iOSデバイスでは、下からスワイプしてコントロールセンターを表示し、そこから簡単にWi-Fiをオン/オフできる。

無料のタウンWi-Fiアプリは、公衆Wi-Fiに自動接続してくれる。ユーザ登録もほぼ自動なので、入れておくだけで勝手につながる感覚だ。どの公衆Wi-Fiを利用するかは設定できるので、未知のWi-Fiに勝手に接続してしまう危険性も軽減できる。

【知恵の実の実】

「公衆」と名の付いたサービスなので無料のイメージがあるが、実際には有料のものと無料のものが混在している。民間サービスなのでそれはそれで構わないとしても、同じ事業者でも場所によって有料な場合があるのは困り者。事前に自動識別できる仕組みは欲しいところだ。

【知恵の実の実】

同様の公衆Wi-Fi接続アプリに「Japan Connected-free Wi-Fi」があるが、こちらは手動で接続ボタンをタップする必要がある。ただし、本来は訪日外国人向けのサービスなので、Wi-Fi iPadなどで観光情報をじっくり見たいなどのニーズが大きいだろうから、手動接続でもいいのかもしれない。