これまでの議論に変化
「なぜウィンドウズではなくMacのほうが優れているのか」という20年以上繰り返されてきた昔ながらの問いには、さまざまな答え方がなされてきました。プロダクトデザインとしての優劣、マウスやトラックパッドなどインターフェイスの違い、GUIのユーザビリティなど細かいことを言い出せばきりがありません。もちろん「趣味」として使う分にはユーザ体験の細かな違いこそが重要なのですが、果たしてそれは本質的な違いなのでしょうか。
もしかしたら「Mac対ウィンドウズ」というお馴染みの対立構図は、すでに過去のものなのではないでしょうか。具体的にいえば、アップルが2006年から3年にわたって実施した「Get a Mac」キャンペーンの頃にはすでに変化が起き始めていたのではないかと思います。
特に、iPhoneやiPadが登場した「モバイル革命」以降は、主戦場はハードウェアからソフトウェアに、そしてクラウドプラットフォームへと移行しつつあります。もはやアップルにとってのライバルはグーグルでありアマゾンであって、マイクロソフトとPCの覇権を争っているわけではありません。Macとウィンドウズの違いを考えるのであれば、まずこの前提を踏まえないと問題を見誤ってしまいます。
では、Macの設計思想の最大の特徴とは何でしょうか。古い話ですが、「The Computer for the Rest of Us(=普通の人々のためのコンピュータ)」というMac発売当時のキャッチコピーは、現在のアップル製品にも引き継がれています。ただし、この「誰でも使える」という部分は、むしろiOSデバイスのほうに鮮明に現れていて、タッチ操作、アプリ単位での機能提供、クラウドを利用したデータ管理の簡略化といった特徴が、それを如実に示しています。
最近のMacは、このiOSデバイスで得られたノウハウをユーザインターフェイスにフィードバックしつつ、データレベルではアイクラウド経由で一体的に管理できるようになっています。むしろ役割としては、iOSデバイスでは現状カバーしきれない「アプリ開発」や厳密なカラーマネジメントが必要な一部の「デザイン」など専門性の高い業務に適したものへとシフトしつつあります。
ウィンドウズの強みと欠点
一方のウィンドウズは、これまでOSを各ハードウェアメーカーが利用できるようなオープン戦略を採って市場シェアを拡大し、競争原理によって低価格化や豊富なバリエーションを実現してきました。そして、これがさらに大小さまざまなサードパーティ製ソフトを呼び込むというエコシステムを形成してきました。しかし、アップルのように中央集権的にコントロールしてきたわけではないので、ハードやソフトごとの操作性の違いなどユーザ体験に混乱をきたしやすく、生産性を上げるには個々のユーザがカスタマイズして「使いこなす」ことが必要という側面がありました。これは「PCスキル」と呼び換えてもいいのですが、このスキルのありなしでウィンドウズに対するユーザの評価は大きく分かれます。
そうした反省やアップルの動向を踏まえたのか、マイクロソフト自らタブレットPCである「サーフェスプロ4(Surface Pro 4)」のような製品も生み出しました。しかし、ユーザ側で自由度の高い環境を使いやすくカスタマイズするという本質的な部分においては、今のところ大きな違いはなさそうです。時代の要請を受けてタッチ操作に対応したりクラウド連係を強化しても、どこまでもPCのレガシーを継承しているのがウィンドウズの強みでもあり、同時に欠点でもあるでしょう。
こうしたMacとウィンドウズ違いやこれまでの歩みを振り返ると、自分が求めるものや得たい成果に合わせて何を選ぶべきかは自ずと見えてくるでしょう。それでもまだ迷っているのであれば、少なくとも(ハードウェアの制約を除けば)ウィンドウズでできることはMacでもできますが、 Macでしかできないことはウィンドウズにはできないという点は見落とすべきではありません。
ビジネス向けマシンとしてのイメージが強かったウィンドウズですが、「サーフェス・スタジオ(Surface Studio)」は、液晶ペンタブレットのように絵を描いたり、ダイヤルによる3Dモデリングの操作に対応しています。【URL】https://www.microsoft.com/en-us/surface/devices/surface-studio/overview