ティム・クックのビジネス手腕が優れているのは、彼がCEOになってからの業績を見れば明らかだ。先代のスティーブ・ジョブズが逝去した際にさまざまなメディアが「アップルは長くはもたないだろう」と悲観的な予測をしていたのを見事に吹き飛ばすほどの快進撃を続けている。
アップルは世界を代表する革新的な企業の1つだが、その原動力の中心にいつも存在していたのがジョブズであったのは間違いないだろう。しかし、優れたタレントを持つ人材は彼だけではなく、そもそも社内にはIT業界内の「スーパーエース級」と呼ばれるようなエンジニアたちが当たり前のようにひしめき合っているような集団だ。
CEOが強烈なビジョンを持ち、トップダウンで指示をしなくても、社内には15年以上に渡ってジョブズが育ててきた「アップル文化」が定着している。素晴らしいアイデアや技術を生み出す基礎が出来上がってきた今となっては、彼らの持つ技術やアイデアをうまく取りまとめて舵取りができる「オペレーションスキル」に長けているクックの強みが存分に活かされている。
また、クックは働き方に対しても積極的にアプローチして改革を進めていることでも有名だ。自身も規律正しい生活を送っているが、のみならず社員のより豊かな生活を支援するべく健康や福利厚生、差別の廃絶といったさまざまなサポートを次々提供している。
さらには会社を挙げてのボランティアや寄付活動支援、大規模なリサイクルへの投資など地域・社会に対する貢献が目立つようになってきたのも、クックの時代になってからだ。こういった新しい働き甲斐、働きやすさを作り出すことで、アップルの企業活動に新しい付加価値をもたらしている。
ジョブズは会長職へと退く際に「スティーブならどうしただろうか?と考えるな」とクックにアドバイスを送ったという。他人の模倣ではなく、自分自身の持っているスキルをフル活用することがアップルのCEOに求められる絶対の条件なのだ。時代に応じて企業に求められる価値も変わる。それに気づいていたからこそジョブズは自分の後継者としてクックを選んだ。その選択が間違いでなかったことが、今の業績が明確に証明している。
【ティム・クックの流儀】
規則正しい「超健康志向」 ライフスタイルを守る
①起床時間は3時45分
ティム・クックは超朝型人間で有名。起床するとまずメールをチェックし、部下たちに指示を出すためのメッセージを返信。アップルへの出勤は午前6時。誰もいないオフィスで邪魔されない「ゴールデンタイム」中にデスクワークを片づけるのは、日中はミーティングが集中するエクゼクティブならではの仕事術といえる。
②出勤前にジムで汗を流す
起床後のメールチェックが終わった後は、ティータイムを過ごす。5時にはジムに行き、出勤前にトレーニングするのを日課として欠かさない。髪型を真似るほどランス・アームストロングと自転車を愛するティム・クックは、今年56歳とは思えないほど胸板が厚くシェイプアップされた体を持つ健康マニアでもある。
③睡眠は7時間を確保
健康な体を維持するためには、睡眠時間も欠かせない要素だ。起床時間が早いぶん、就寝時間も早くすることで1日7時間の睡眠を心がけているという。以前は夜遅くまでミーティングを行う仕事の鬼として有名だったが、最近では「残業はせずに勤務時間内で仕事を終わらせる」を社内でのルールにしているようだ。
ちなみにジョブズは?
クリエイティブ気質だったジョブズは、ルーティンワークは大の苦手。ただし一度スイッチが入ると圧倒的な集中力とタフさで物事を進めていった。仕事の追い込みの時期には会社に泊り込んでいたのを目撃した社員も少なくない。オンとオフの差が激しく、スケジュール調整担当者の苦労が絶えなかったとか。
【ティム・クックの流儀】
トップダウンではなく、チームワークを重視する
ミーティングで何かを決めたり、問題解決をするときには、トップダウン方式で一方的に伝えるのではなく、必ず「全員で考える」ことを重視するルールをとっている。オペレーションのプロであるティム・クックは問題点を見つけることに長けているが、その解決を部下にまかせることでプロジェクトへのオーナーシップ(責任感)を持たせたり、タレント(能力)を引き伸ばすことで、より良い成果を引き出すことができるようになるからだ。
クックは「自分が優れた才能を持つ人々が集うチームの一員であることを誇りに思う」と自分の立場について答えている。豊富なタレントをどう推進力に変えていくかが、彼の日々の課題だ。【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/471781084753981441
ちなみにジョブズは?
絶対的なトップだった先代のミーティングのスタイルは「スティーブが正しい」が絶対的ルール。飛び抜けたカリスマとビジョン(先見性)を持った彼の理想をどう実現するかが、至上の命題。どんなプロジェクトでも「OK」が出るまでとにかく何度もやり直しが続くのが当たり前だったという。
【ティム・クックの流儀】
より多くの触れ合いを大切にする
メディア記事だけでなく本人のツイッターアカウントなどでも頻繁に報告されているが、ティム・クックはよくアップル本社以外の場所にも顔を出す。それは世界各国の直営店だったり、小学校などの教育機関、福祉施設、デベロッパーやパートナー企業、イベントなどそのジャンルも多種多様だ。アップルが単なるテクノロジーカンパニーではなく、有機的に社会全体と繋がりながら貢献していることをアピールする「広告塔」としての役割も積極的に買って出いている。
パートナー企業への訪問が、定期的に報じられるようになったのもクックの時代から。深?の労働問題など、COO時代から続くサプライチェーンとの関係の強化はCEOになった今でも重要な業務の1つ。【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/525094685593722880
ちなみにジョブズは?
「革新的なプロダクト作り」こそがアップルの至宝であると信じ、クリエイティビティを愛した先代は社内を歩き回りさまざまな部署に顔を出して進捗をチェックするのが日課だった。このため一番お気に入りのチームは、彼がアクセスしやすいように常にCEO執務室の近くに「席替え」されるのが恒例の行事だったという。
【ティム・クックの流儀】
利益は会社以外にも還元する
ティム・クックは福祉や社会活動にも積極的だ。アップル製品のリサイクルプログラムの積極推進は有名だが、のみならず社員が寄付、もしくはボランティア活動を行った場合に会社からも同等の金額を支払って支援する「ドネーション・マッチ」制度を導入したり、社員が養子縁組を行う場合にはその費用を負担する仕組みも作られた。また、株価に対しても配当が支払われることで株主に対しても利益を還元する「投資としての価値」を高めるなど、さまざまな形で社会貢献を打ち出している。
社員とともにボランティア活動に参加するシーンを見かけることは、決して珍しくないのもクックの特徴。情熱を持って取り組む姿は決して対外向けのポーズではなく本心からの奉仕活動なのだろう。【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/821103545067806720
ちなみにジョブズは?
リサイクル活動こそアップル初期の頃から勧められていたものの、以前はあまり「社会貢献」を打ち出してこなかったのは、先代が「あまり興味がなかったし、好きでもなかった」というのが一番の理由だ。また利益は研究や開発に大きく注ぎ込まれており、彼が気に入ったプロジェクトの予算は青天井だったともいう。