インテルは、これまで開発のロードマップとして掲げて来た2年サイクルの成長戦略を採用できなくなっている。それを象徴するのが昨年リリースされた「カービーレイク(Kaby Lake)」の存在だ。前世代の改良にとどまるこの最新CPUについて、スペックからその役割を紐解きつつ、Macに搭載される時期を予想する。
崩壊したCPU開発サイクル
インテルのプロセッサがMacに採用されるようになって10年あまりになるが、同社のプロセッサは長い間「チックタック(Tick-Tock)」戦略と呼ばれるスタイルで開発が進められてきた。およそ2年ごとの工場設備の更新による製造プロセスの微細化(チック)と、同じく2年ごとのプロセッサアーキテクチャの見直しによる性能向上(タック)の2ステージを交互に実現することで、毎年新しいプロセッサを誕生させる戦略だ。しかし近年の市場では、スマートフォンやタブレットの急成長の陰でPCの販売台数が伸び悩み、さらに新しい製造プロセスの歩留まり向上に時間を要するようになったことから、インテルは従来のペースで工場設備の更新ができない状況になっている。
カービーレイクは、そんな状況の中で登場した3世代目の14nmプロセス採用プロセッサで、昨年リリースされるはずだった「キャノンレイク(Cannonlake)」向けの10nmプロセスの立ち上げの遅れから、昨年夏に急遽リリースされたものだ。
第6世代Coreプロセッサ「スカイレイク(Skylake)」の後継で、製造プロセスは同じ14nmながら若干改良され、より高クロック動作へとシフトされている。アーキテクチャは基本的にスカイレイクと同じだが、統合グラフィックスが改良されており、ビデオ再生支援機能のHDR(10ビット)対応やHDCP2.2のサポートなど、主に4Kビデオ処理を中心に機能強化が行われているのが特徴だ。
カービーレイクは昨年8月にファンレス機器向けのYプロセッサと、2in1などモバイル機器向けの低消費電力版Uプロセッサが先行リリースされており、今年1月にメインストリームのノート機器向けにIRISグラフィックスを内蔵したUプロセッサと、高性能ノート向けのHプロセッサ、デスクトップPC向けのSプロセッサが追加リリースされた。
インテルプロセッサのチックタックモデル。MacがインテルCoreプロセッサを搭載した2006年頃から振り子が揺れ始めたが、2014年のハスウェル・リフレッシュ(Haswell Refresh)で歯車が狂って以降、同社のチックタックモデルは急速に崩壊しつつある。
今年の早い時期に搭載か
MacBook12インチモデルは、昨年4月にスカイレイク-Yプロセッサを搭載した2016年モデルがリリースされており、今年の春から夏に2017年モデルが出ればカービーレイク-Yが採用されるだろう。昨年10月にリリースされたMacBookプロシリーズは、13インチモデルがIRISグラフィックス内蔵スカイレイク-U、15インチモデルがスカイレイク-Hを搭載しており、いずれも2017年秋にモデルチェンジすればIRISグラフィックス内蔵カービーレイク-Uおよびカービーレイク-Hを搭載することになるはずだ。
一方iMacに関しては、今年の早い時期に21インチモデルがIRISグラフィックス内蔵カービーレイク-U、27インチモデルがカービーレイク-Sプラス外部GPUの組み合わせでリリースされると予想する。
インテルのチックタックモデルの破綻は、カービーレイクだけでは終わらないかもしれない。本来ならカービーレイクは14nmプロセス最後のプロセッサとなるはずだが、2017年末に予定されている10nmプロセスのキャノンレイクでは、Yプロセッサと低消費電力版Uプロセッサのみのリリースとなり、それ以外の高性能ラインアップは14nmプロセスの「コーヒーレイク(Coffee Lake)」で2018年のリリースとなるという。
急速に進化速度が鈍っていくインテルに対し、アップルAプロセッサをはじめとするARMプロセッサSoCは現在も急成長を続けている。こうしたライバル企業が迫り来る中、インテルの牙城が切り崩される日も近いのかもしれない。
IRISグラフィックス搭載Uプロセッサ。中央の大きいダイがデュアルコアCPU+GT3グラフィックスで、左側がeDRAM、右側がチップセットPCH。MacBookプロ13インチモデルにはこのタイプのプロセッサが搭載されている。【URL】https://newsroom.intel.com/press-kits/7th-gen- intel-core/