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法整備前の最新技術を利用する際の注意点

著者: 山田井ユウキ

法整備前の最新技術を利用する際の注意点

加速する技術革新 ビジネス導入も急ピッチ

─今回のテーマは「最新技術」です。IoTやAI、ドローンといったテクノロジーが注目されており、さまざまな業界でビジネスへの導入が進んでいます。

徳本●IoT、AIなんかは本当に最近増えてきたよね。僕のところにも、IoTを活用したビジネスを考えたんだけどどうですか?なんて相談が頻繁にくるよ。

中野●実は私のところにも、そうした相談が増えています。こんなプロダクトを考案したのですが、法律的に問題はないでしょうかといった内容が多いです。

徳本●まずは言葉の説明からしておこうか。IoTとは「モノのインターネット(Internet of Things)」の略称で、すべてのモノがインターネットにつながるということ。そういうと難しい感じがするけど、なんのことはない、もう身近にネットワークにつながったプロダクトはあふれているんだ。

中野●たとえば、これまでだったら監視カメラで撮影した映像はただの映像にすぎませんでした。しかし、監視カメラがネットワークにつながることで、映像を集めてより正確なデータ分析ができる、といった具合ですね。

徳本●僕が知っているプロダクトだと、「サウンドテーブル(SOUND TABLE)」というものがあるよ。その名のとおり、テーブルがスピーカの役割を果たすようになっていて、音楽を奏でてくれるというものなんだ。操作はスマートフォンから行えるんだけど、これも「テーブル+ネットワーク」というIoTプロダクトだよね。

中野●AIはそのまま人工知能のことで、ドローンは無人航空機のことですね。身も蓋もない言い方をするとラジコンですが、大きさや利用方法はさまざま。軍用から商用、個人で楽しむものまでいろいろな製品が発売されています。

徳本●一般的にはドローンというと空撮を思い浮かべることが多いけど、それだけじゃなく将来はモノを運んだりする用途に使われることも期待されているよね。

「法整備前」だからこそ押さえておきたい2つの制度

─ベンチャー企業も含めて、こうした最新技術によるプロダクトが今後多数出てくるでしょう。一方で、新しい技術だからこそ起こりうる問題も指摘されつつあります。もし、自社でこうした最新技術の導入に携わることになったら、どういったことを知っておくべきなのでしょうか。法律上で気にしなくてはならないのはどんなことでしょう。

中野●IoTに関して注意すべきは、法律のジャンルです。というのも、IoTに取り組む少人数のベンチャー企業はIT系であることが多く、ソフトウェアに関する法律は知っていても、ハードウェアに関する法律に詳しくないことが多いのです。

徳本●そうか、協業ならともかく、一社でIoTプロダクトを出そうとすれば、ハードウェアについても自社で製造しないといけないんだ。

中野●ええ。その際、たとえば家庭用品にあたるものであれば「家庭用品品質表示法」という法律があります。洗濯機でしたら、「水槽を有し、その中で被洗物を洗濯する構造であるもの」と定義づけられており、標準使用水量や外形寸法などを表示する義務があるのです。これを知らずにネットワークにつながる洗濯機を開発してそのまま販売すると、消費者庁から差し止められる可能性があります。

徳本●なるほど。よく問題になるのは技適(技術基準適合証明等)だよね。Wi-Fiやブルートゥース通信を行うデバイスは、総務省が制定している電波の利用ルールに則っていなければならない。それを証明するものとして、技適マークを申請しプロダクトにつけないといけないんだ。

中野●そうなんです。要は、IoTプロダクト自体に関する法律がまだ定まっていないので、「それは何に分類されるのか」というところから慎重に考える必要があるのです。インテリアなのか、家電なのか、衣服なのか。仮にインテリアだったとしても、ネットワークに接続した時点で家電にあたるのではないか…といった具合です。

徳本●少人数でイケイケでやっているベンチャーとしては、そこに時間を割かれたくはないだろうけどね。

中野●そのために僕たちがいるわけですよ(笑)。

徳本●そのとおりだね。宣伝になっちゃうけど(笑)。ところで、中野くんのところに相談すれば、そのプロダクトが法律に違反していないかどうかを教えてもらえるの?

中野●はい。もちろんですよ。場合によってはグレーゾーン解消制度の申請も行います。

徳本●グレーゾーン解消制度?

中野●今話していたように、最新技術の進化に法律が追いついていない面が少なからずあるんです。すると、そもそもプロダクトが法律に違反しているかどうか、弁護士であっても明確に答えられないというケースも発生してくるのです。違反といえば違反のような気もするけど、大丈夫かも…というような。

徳本●ぴったりの法律がないから既存の法律に当てはめて考えると、どうしても「わからない」部分が出てくるってことか。

中野●そうです。つまり、グレーゾーンです。そういう場合、結局は行政にお伺いを立てるしかありません。これを制度化したものがグレーゾーン解消制度です。制度自体は昔からあるのですが、知らない方も多いですね。

徳本●そうだね。行政もちゃんと仕事をしてくれるんだね。

中野●とはいえ、グレーゾーン解消制度では、対象となる法律自体は申請するこちら側で指定してやる必要があります。プロダクトを持っていってポンッと出して調べてください、ではダメなんです。

徳本●「このプロダクトの仕様はこうなんですが、これは○○という法律の○条○項に違反していますか?」といちいち聞かないといけないわけだ。

中野●そういうことです。

徳本●それはちょっと、小さい企業には荷が重い気がするね。

中野●ええ。ただ、ハードウェアはソフトウェアと違って、作ってしまうと在庫を抱えてしまいます。そのうえであとから行政の指導が入り販売中止になったら損害は莫大です。気になるところはしっかりチェックしておくべきでしょうね。

徳本●うーん、ただこの手の最新技術を使ったプロダクトやサービスは、早い者勝ちってところもあるから、もたもたしていたらビジネスで勝てないかもね。

中野●はい。そこで1つの考え方なのですが、リスクを承知でリリースしてしまうという手もあります。

徳本●つまり、リスクより先行者利益をとるってこと?

中野●ええ。グレーの場合、確かにあとからツッコミが入る可能性はありますが、それならそのとき対処すればいいということです。それよりも先に出すことのメリットが大きい場合は、リスクを見越したうえであえて出してしまう企業もあるようですね。

徳本●なるほど。そういう駆け引きもあるわけか。たしかに行政といっても幅広いから、どこにお伺いを立てればいいのかも難しいよね。たとえば「おむつセンサー」っていう製品があるんだけど、あれなんてどこの管轄になるんだろう。厚生労働省なのか、総務省なのか…。

中野●そういうことですね。省庁によっても雰囲気が違いますから。

徳本●というと?

中野●新技術に関して推進したい省庁もあれば、規制したい省庁もあるってことです。

徳本●うーん、面倒だ(笑)。それで「違反してるのでダメです」なんて言われた日には…。

中野●もし法律に抵触すると判断しても、まだあきらめるには早いですよ。「企業実証特例制度」というものがあります。

徳本●それは?

中野●法律に違反していても、技術により安全性が確保できるということをアピールすれば、特例として認めてもらえるという制度です。

徳本●それはすばらしいね! これも知らないともったいない制度だね。

中野●本当にそのビジネスが当たるのかは、法律をクリアしたさらにその先にあるわけですが、法律でつまずいてしまってはスタートも切れませんからね。ご相談いただければ各種制度をご紹介できますので、最新技術を用いたビジネスが法律面で不安だという場合はぜひお声がけいただきたいですね。

徳本●どうしたってテクノロジーのほうが法律よりも先をいくのは仕方ないわけだから、将来的に法整備が進むまでは、うまく現在の法律と付き合いながらビジネスのスピードを上げていきたいね。

[みらいチャレンジ] 長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com