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Swift Playgroundsで学ぶ実世界に活きる画期的な授業

著者: 神谷加代

Swift Playgroundsで学ぶ実世界に活きる画期的な授業

英語の授業でプログラミング

2020年を目標に初等中等教育におけるプログラミング教育の必修化が決まり、同分野への関心は高まっている。子ども向けのプログラミングツールも増え、どの学年に、どのようなツールを使えばよいのか、頭を悩ます教育関係者は多いだろう。

山梨県甲府市にある山梨英和中学校・高等学校(以下、山梨英和)は、同中学校のプログラミング学習ツールとして、アップルが2016年9月にリリースした子ども向けプログラミングツール「スウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)」を選び、実践を開始している。スウィフト・プレイグラウンズは現在英語版のみで、授業で使うにはハードルが高いと思われがちだが、山梨英和では逆にそれを利用して英語の授業に取り入れているのだ。導入を進めた英語科の近藤美和教諭は「生徒たちには今のうちにプログラミングを経験してほしいと思っています。プログラマーになる、ならないに関係なく、プログラミングは1つの言語であり、将来的にも生徒のコミュニケーションや思考力、表現力を豊かにしてくれると考えています」とプログラミングにかける想いを語る。

近藤教諭がこのような新しいチャレンジを試みた背景には、山梨英和ではこれまでにも積極的にICT教育を進めてきた経緯がある。最初のきっかけは2011年。まだタブレットを学習用途として活用する教育機関が少ない中、同校はすでにオーストラリアにある姉妹校と無料テレビ電話アプリ「フェイスタイム(FaceTime)」を用いた国際交流を実施していた。姉妹校にiPadが整備されているのを見て、iPadが学習に活かせることを実感したというのだ。翌2012年からは段階的に1人1台体制を導入し、現在は山梨英和の中学2年~高校3年の生徒がiPadを持って学習する環境が整っている。

山梨英和では2011年からICT教育を進めているだけあって、さまざまな教科でiPadが活用されている。音楽の授業では「ガレージバンド(GarageBand)」を使ったり、理科では動画や写真を用いたプレゼンや解説動画の作成、角度や図形のアプリを使って数学の知識を理解したり、体育では自分の動きを動画に記録したりもする。英語の授業では、背景と動画や写真を合成できるアプリ「グリーン・スクリーン・バイ・ドゥ・インク(Green Screen by Do Ink)」と、プレゼンテーションアプリ「ロイロノート」を組み合わせて“英語デジタル絵本”の作成も行われた。生徒自身が絵本に演者として登場し、英会話を繰り広げるというデジタル絵本について、「生徒たちは“もっとやりたい”と放課後も残って制作に取り組んでいました。音読の宿題を出すよりも、演技のほうが英語の台詞を一生懸命練習していましたね」と近藤教諭は語る。

創立127年を迎えた山梨英和中学校・高等学校は、キリスト教教育を実践する私立の女子校。校訓である「敬神・愛人・自修」の理念を根底にしつつ、英語教育や国際教育、ICT教育など時代に即した新しい教育も積極的に取り入れている。

山梨英和におけるICT教育・プログラミング教育を推進する近藤美和教諭。アップルストアのイベントでスウィフト・プレイグラウンズの存在を知り、「生徒の将来につながるかも」という想いからプログラミング教育を導入した。

論理的な思考を培う

スウィフト・プレイグラウンズを使った英語の授業とは、どのようなものか。近藤教諭が実践した中学2年生の授業を紹介しよう。

生徒たちはこの日、スウィフト・プレイグラウンズを使って「条件分岐」のプログラムに挑戦した。ちょうど生徒たちは接続詞_if_の使い方を学習したばかりで、命令文と_if_を使いながらコードを組み立てる。学習のテーマは「Think Logically(論理的に考えよう)」。スウィフト・プレイグラウンズを使ってコーディングそのものの習得を目指すのではなく、筋道を立てて考えることや、物事を整理して考える思考を英語で学ぶことが狙いだ。

授業の最初は、毎朝の着替えを分析するところから始まった。「制服を取り出す」「ファスナーを下げる」「ボタンをつける」など、1つ1つの行動を分解して順番を並び変えることで、順次実行の考え方を復習した。その後、「もし体育の授業が2時間目にあったら、いつ制服に着替えるか」という具合に、とある条件に対する行動パターンを考察する条件分岐について考えた。生徒たちはこの日がスウィフト・プレイグラウンズを使った2回目の授業ということもあり、近藤教諭は丁寧にプログラミングの考え方を説明していった。

続いて生徒たちは、スウィフト・プレイグラウンズの中に用意された「Conditional Code(条件分岐)」のパズルに挑戦した。キャラクターを指示どおりにゴールまで動かすプログラムを考え、スウィフトコードで書く。1つの課題をクリアすれば次に進むシステムで、ステップアップしながら自分のペースでプログラミングの学習が進められるのが、スウィフト・プレイグラウンズの特徴だ。

今回は、キャラクターをゴールまで動かしつつも、途中のマス目上に何があるかによって、行動を変えるプログラムを書くことが課題だ。たとえば、「マス目上にスイッチがあったら開ける」や「マス目上で宝石を見つけたら集める」など _if_と_else_を使ってプログラムを組み立てる。生徒たちはコードを書いては実行し、間違いを見つけては訂正するといった試行錯誤を繰り返えし、わからないところは友だち同士で教え合い熱心に取り組んだ。スウィフト・プレイグラウンズでは間違ったコードの行には赤丸が表示されるので、生徒はそれを見ながらデバッグ(修正)ができる。

授業の最後は、「もし事故にあったら?」「もし雨が降ったら?」など、日常生活の中の「もし~?」という状況を考えるというもの。「身の回りにあるさまざまなシステムは、我々の生活を便利にするために、こうした状況も考慮して作られている」と近藤教諭は授業を締めくくった。「生徒たちには、コンピュータの中のプログラミングだけに終わらず、現実の世界につなげてほしい」と同教諭は思い語る。

英語の授業では、生徒自身が登場する英語のデジタル絵本を作成した。背景と生徒を合成し、状況に合わせた英会話を繰り広げる。「単に知っている英語を話せば良いというわけではなく、このような活動は場面や状況に合わせて文章の意味を理解しなければ話せない」と近藤教諭は語る。実践的な英語学習の環境をiPadで築いている。

生徒がiPadを用いて作成した資料。「キーノート(Keynote)」や「ページズ(Pages)」アプリを使うことで、iPad上だけでも簡単にクオリティの高いものを作っている。

英語を使う感覚が楽しい

山梨英和の生徒たちは、スウィフト・プレイグラウンズを使ったプログラミングの授業や同校におけるiPadの活用について、どのように思っているのか。情報委員会の生徒たちに話を聞いた。

プログラミングの授業を受けた中学2年生からは「英語を習うだけじゃなく、英語を使える楽しさがある」「(プログラミングは)専門的な職業の人が難しいことをやっているイメージだったけど、スウィフト・プレイグラウンズではゲーム感覚で学べて楽しい」「将来に役立つことを学んでいる気がする」「プログラミングの授業をやって、“先を読む”ことを自分でもするようになった」「わからないことをみんなで考えるのが楽しい」など、さまざまな意見が述べられた。生徒それぞれ、プログラミングの授業に対して感じ方が違うことが面白い。

また山梨英和におけるiPad活用について、情報委員会の高校2年生に意見を聞いた。生徒たちは「(iPadを導入していない)他校と比べて、山梨英和ではプレゼンをする機会が多く、自分も人前で話す力がついたと感じる。将来に必要な力なので貴重なことを学んでいると思う」や「iPadは図や表、グラフ、写真などを使ってポスターや資料を簡単に作ることができる。プレゼン力がアップしていると感じる」と話している。両生徒ともに表現は異なるものの、iPad活用を通して、“伝える力”が身についたという実感を得ているようだ。

プログラミングやiPadを活用する授業では、教科内容を学ぶことも大切だが、未来を生きる生徒たちにどのような気づきを与えられるかも重要だ。山梨英和ではICT教育を通して、生徒たちが将来に必要な価値ある気づきを得られる場を築いているといえる。

山梨英和では生徒が個人購入したiPadで1人1台体制を導入しており、生徒たちは自分のペースでプログラミングの学習を進めることができる。チュートリアルの動画やわからない部分のヒントもすべて英語だが、生徒たちが面白がってチャレンジしているのが印象的だ。

情報委員会では『Eiwa Times』というニュースレターを発行している。iPadをどのように活用しているか、おすすめアプリの紹介、海外研修に使えるアプリ、スマートフォンの使い方など、生徒たちの間でITリテラシーが高まるような情報共有を行っている。

情報委員会所属の高2と中2の生徒たち。同委員会ではiPadのルール設定や周知、啓蒙活動を行う。学園祭ではデジタルアートやARなどが楽しめるデジタルスタジオを出展。ほかにも、地域の小学生に対して「スフィロ(Sphero)」を使ったプログラミングのワークショップなどを開催し、デジタルの面白さを伝える活動をしている。