2年周期を崩した製品戦略
2016年度のiPhoneの販売台数は前年度比8%減の2億 1190万台。iPhone初の前年度割れになったが、深刻な問題ではない。2015年度は画面の大型化と中国市場での発売が重なって特需と呼べるような状況だったからだ。その反動を含む落ち込みであり、重要なのは特需が過ぎ去ったあとを見据えた施策が講じられているかどうかだ。
iPhone 7シリーズで、アップルはiPhoneを「変えずに変えた」。デザイン刷新とマイナーチェンジを1年ごとに繰り返すパターンを崩し、フルモデルチェンジが期待される年にデザインを変更しなかった。iPhone10周年の今年に新デザインを投入するために昨年のフルモデルチェンジを見送ったと見る向きもあるが、現実的には買い替えサイクルの長期化への対応と見るのが妥当だ。買い替えサイクルの長さにデザイン刷新の周期を合わせることで、誰もが最新デザインのiPhoneを使っているという状況を作り出しやすくなる。
問題はデザインを変えずに、それ以外の要素で新しさをアピールできるかだ。iPhone 7は外観こそ変わっていないが、A10フュージョンを搭載し、ロジックボードにも大きな変更が加えられた。7プラスはデュアルカメラを備える。3年目を迎えたデザインのままでも、そうした変化を訴求できるかにかかっている。
今秋にはデザインを刷新した新モデルと、7シリーズを改良した7Sシリーズを同時にリリースするのではないかと噂されている。それが事実なら近年iPhoneが抱える成長のジレンマが打ち破れるかもしれない。年間2億台以上の出荷規模だと、可能性を秘めていても、安定して大量生産できないテクノロジーは採用できない。テクノロジーの選択肢が狭まれば、思い描いたような変化を起こしにくくなる。成長のジレンマだ。
そこでプロまたはプレミアと呼べるような新モデルを用意して、新しいテクノロジーを積極的に採り入れる。価格は上がるが、同時に成熟した改良モデルも提供すれば、プレミアなiPhoneが欲しい層と、手頃な価格で最新のiPhoneの体験を得たい層に需要を分散できる。
今年採用が有力視されているテクノロジーの1つが有機ELディスプレイ(OLED)だ。薄くて軽く、曲面ディスプレイも可能などデザインの自由度が広く、液晶に比べて消費電力を削減できる。ただし、現時点で小型OLEDパネルを安定供給できるベンダーはサムスンのみという状態で、液晶よりもコストが上がる。それでも、OLEDの長所はいずれもiPhoneの進化に貢献するものばかりであり、アップルとしては欠点を克服して早く採用したい。
また、モバイルCPUが10nmプロセスへの移行の時期を迎える。順調に起ち上がれば、製造技術の面からCPUやグラフィックスの大きな飛躍が期待できる。A10と同程度の性能で消費電力を削減するも良し、また同じ電力枠で性能を引き上げられる。
イヤフォンジャックの廃止で空いたスペース、デザインの幅が広がるOLED、高効率でパワフルに動作するプロセッサと、変化を生み出す可能性は広大だ。昨年ティム・クック氏がAR(拡張現実)への関心を明らかにしたが、そうした新たな分野への展開も現実味が帯びる。
iPhoneの販売台数の推移
過去4年間のiPhone販売台数の推移。2015年度が爆発的な伸びだったため昨年度は下落したが、2013年度、2014年度の延長として見たら2016年度も順調な伸びの範囲である(Apple決算データより)。