2016年は、数々のスタートアップやサービスとの出会いに恵まれた一年でした。今回は、その中でも特に印象に残った4つのサービスをご紹介します。これらは、2017年以降も注目したい「分野」だと言い換えることもできるかもしれません。
VR(バーチャルリアリティ)は、人間の感覚器官に働きかけることで限りなく現実に近い仮想世界を生み出す技術のこと。応用領域としてすぐに連想するのはゲームなどのエンタメ分野ですが、それを医療に役立てようとするのが、ロサンゼルスのスタートアップ「アプライドVR(AppliedVR)」です。治療を受ける患者のために開発されたこのサービスは、たとえば身動きがとれない術後、ヘッドセットを装着して専用のVRコンテンツを見ることでリラクゼーションや痛み軽減などの効果が期待できます。病院との共同検証実験では、患者の痛みが24%軽減されたそうです。
活動量計ウェアラブルの代表格「フィットビット(Fitbit)」の創業は2007年。今年で丸10年を迎えるサービスですが、昨年11月に初めて実際に使ってみてその虜になりました。歩く、階段を上がる、自転車に乗る、寝る。いつもどおり生活するだけでそれを計測し、健康への意識を高めてくれます。初期設定にかかる時間は3~5分、トリセツなんて不要な手軽さも魅力。日々使っていて、ユーザへの負担が最小限にとどめられていることを強く感じます。
仕事でシカゴを訪れた際に取材した「タンジブリー(Tangiblee)」は、ECサイト向けのフィッティングソリューション。手持ちの服とサイズ比較させるサービスが多い中、タンジブリーはほかのモノと比較することでアイテムの大きさを視覚的に教えてくれます。たとえば、購入を検討しているバッグの大きさを知りたい場合、MacBookや人気雑誌などをドラッグ&ドロップしてそのサイズを把握できるのです。北米やヨーロッパを中心に、ファッションだけでなくインテリアを扱うサイトなどにも導入されています。
その言葉を耳にしない日はないほど話題を呼ぶAI(人工知能)。単純作業だけでなく、最近では映画のトレーラー製作などクリエイティブな領域でも応用され始めました。「エックスドットエーアイ(x.ai)」は、日時設定に特化したバーチャルアシスタント。相手とのやりとりに、エイミーと名づけられたアシスタント(男性版はアンドリュー)のメールアドレスをCCするだけで、「午前中」、「最長1時間」といった希望に沿って予定をセッティング。平均15分はかかる、といわれているスケジュール設定の時間を節約できます。
さて、年末の大掃除とおせち作りが一段落すると、本棚の整理整頓で再発見した本を読み漁るのが習慣の私。20代の頃一度読んだ『妹たちへ』というエッセイ集を改めて読んでみたところ、以前より言葉がすーっと入ってきました。著者である女性たちの年齢に近づいたからかもしれません。特に響いたのが、漫画家の柴門ふみさんの「専門得意ジャンルを持つ漫画家にとっての大敵は飽きで、それをどう乗り切るのかが課題だ」というメッセージ。自ら創作する漫画家さんの場合、飽きは自分の力で打破するしかないのでしょう。
私は、大学在学中にIT企業でアルバイトを始めてそのまま就職し、フリーライターになってからの5年間も、数々の国内外のITスタートアップを取材してきました。要は、IT業界にどっぷり。正直、同じアイデアのうわべだけを少しひねったようなサービスが乱立していて、飽きを感じたことも何度かあります。でも漫画家さんに比べると、取材対象がある私はラッキーです。何これ!と感動させてくれるサービスとの出会いが、飽きを上回るから。それを探しさえすればいい。2017年がどんな出会いを運んでくるのか、乞うご期待。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp