アップル好きな会長の鶴の一声で、デスクトップPCを廃止して80名を超える社員全員にMacBookが支給された舞安商事。しかし、Macに慣れない現場からは不満や疑問が続出した。そこで、社内の情報部内にモバイルビジネスソリューション推進室、通称「MBカイゼン課」が登場。今日の依頼内容はテザリングのコストを安くしたいという依頼のようだ。
格安SIMに乗り換えるメリット
タカハシ●以前テザリングの相談をしてきたタケザワ次長から、新しい質問が来ています。どうやらiPhoneを「格安SIM」にしてMacからテザリングしたいようですね。
ハヤシバラ●ふむ。会社支給のiPhoneがあれば仕事とプライベートきっちり分けられるんでしょうけど、今のところうち(舞安商事)ではその辺ルールが曖昧ですからね。自分のiPhoneを使いつつ、仕事とプライベートでSIMを使い分けるというのもひとつのアイデアかもしれません。
タカハシ●なるほど~単に安いSIMカードのプランに乗り換えて通信料を下げるのではなくて、そういう意図だったんですね。僕も近頃格安SIMが結構気になっているんでこれを機に調べてみたいと思います!
ハヤシバラ●よい意味の公私混同なので、まあいいでしょう。テザリング以前に格安SIMの導入や乗り換えは結構ややこしい話なので整理しておく意味はあるかもしれません。
何を基準に格安SIMを選べばいい?
タカハシ●確かに、家電量販店とかに行くとさまざまなプランが出ていますね。格安SIMの業者のことを何と言いましたっけ? エムブイピー?
ハヤシバラ●それをいうなら「MVNO(仮想移動体通信事業者)」ですよ。その事業者に通信回線を提供しているNTTドコモ、au、ソフトバンクなどのいわゆる「キャリア」のことを「MNO(移動体通信事業者)」と呼びます。こうした仕組みのおかげで、参入障壁が下がり多くの事業者が参加してサービスを競っているのが現状ですね。
タカハシ●うひゃ~すでにややこしいです。最近話題のLINEモバイルとかは、通信キャリアの回線を利用しているMVNOという理解でいいんですね?
ハヤシバラ●キャリアとの相互接続なのか、通信回線を卸してもらっているのか、ほかにもMNOのプランを量販店やプロバイダの別ブランドで再販する事業者もあったりしますが、LINEモバイルであればOCN系列なので通信エリアや速度はNTTドコモとほぼ同等と考えてよいですね。それに加えてLINEでの通信はカウントしないなど独自のサービスを展開しているわけです。目を引くような「安い」料金そのものよりも、そうしたMVNOごとの施策や使用している通信回線について知ることが理解の近道です。
タカハシ●そうですね。タケザワさんがどんな用途で使っているのかを事前に訊いておかなければならない理由も見えてきました。まずは、格安SIM導入に必要な条件からリサーチ開始します!
格安SIMを使うのに必要なものって?
タカハシ●さて、ハヤシバラ課長はああいったものの、どのくらい「格安」なのかは気になるところだよな。初期費用とかは置いておくとして、大手キャリアの最低限のプランと似た条件のプランで月額を比較してみるか。
なになに? 格安SIMには「データ通信専用SIM」と「音声通話込みのSIM」で大きくプランが分かれるのか。あとは月のデータ通信の容量で細かくプランが分かれるのね。月に2~3GBしか使わないようなプランだと、音声通話込みでもキャリアの2分の1から3分の1以下というところもあるのか。タケザワ次長はテザリングの7GB制限に引っかかることがあると言ってたから、もっと大容量のプランを使うのだろうけど、それでも月に数千円以上の節約になるのはありがたいな。音声通話が格安SIMだと20円/30秒かかってくるところが多いけど、電話をそこまで使わないなら問題ないかな。あ、でもタケザワ次長は営業畑の人だからかなり音声通話を利用してるんじゃないかな?
さて、この格安SIMカードをiPhoneで使うにはだいたい3つのパターンがあると。一番確実なのは(1)アップルストアで販売されているSIMフリーモデルのiPhoneだけど、本体価格の初期コストがかかってくるのがネックだろうか。まあ、キャリアで買っても一括払いの人も多いようなのでいいのかな。
次に、(2)ドコモとau限定だけど同じ系列のMVNOであればSIMロック解除なしで使えるパターン。iPhone 6/6プラスのような旧モデルでも使えるのがメリットだけど、auの回線を使う格安SIMはテザリングができない場合があるようだから今回は除外だな。
そして(3)買ってから約180日でキャリアのSIMロックを解除できるパターン。これはiPhone 6s/6sプラス/SE/7/7プラス限定の話だけど、格安SIMとキャリアのSIMが併用できるので一番のやりやすい選択だな。
ただし、もし7/7プラスを使っていると新しすぎて、2017年の3月中頃くらいまではSIMロック解除が利用できないのか。どうやら、タケザワ次長のiPhoneのモデルを確かめる必要があるね。
大手キャリアとMVNOの料金比較
そもそも格安SIMがどのくらいお得なのか、例としてNTTドコモの通話無料(2年間の定期契約あり)+もっとも小容量なデータ通信プランと、IIJmioの音声通話機能付きSIMのミニマムスタートプランを比較しました(初期費用3240円は含まず)。その差額は月額4772円にもなります。
オンラインのアップルストアやアップルストア直営店で販売されているiPhoneはSIMフリーモデルです。キャリアのSIMはもちろん、格安SIMもそのまますぐ利用できるのがメリットです。
各キャリアのiPhone 6s/6sプラス以降のモデルで購入から半年(おおむね180日前後)以降経過していれば、SIMロック解除をWEBまたはキャリアショップで行えます。ただし、ショップでは3000円前後の手数料が発生してしまいます。
ドコモとauのiPhone 6/6プラス以降のモデルでは、SIMロック解除をしなくても対応するMVNOの格安SIMプランが利用できます。ただし、auの回線を使うMVNOではiPhoneでテザリングが利用できないという致命的な問題がありました。
格安SIMへの乗り換えは簡単だが戻るのは面倒?
【依頼内容ピックアップ】
タカハシ●タケザワ次長から問い合わせの返事が来たぞ。ソフトバンクのiPhone SEを発売直後に買ったのであれば180日ルールはOKだな。だけど、やはり普段はキャリアのSIMも使いつつ、格安SIMも使ってテザリングがしたいという要望のようだ。そうするとSIMを毎回抜き差ししなくちゃいけないのかな? それは面倒かも…。
ハヤシバラ課長からテスト用に預かったデータ通信専用のSIMがあるので、とりあえずこれで試してみよう。おや? メモが何か書いてある。えっと「iPhoneのSIMは『ナノSIM』で一般的な格安SIMの『マイクロSIM』ではないので注意が必要です(byハヤシバラ)」ですか。確かに一回り小さいサイズなんだな、これは買うときには気をつけないと。
で、キャリアのWEBサイトに行くとSIMロック解除の手続きが求められるのね。「IMEIを入力してください」って何だこれ? あ~製造番号のことか。なんだか、わざと手続きがわかりにくく面倒になってるような気がしてきた。キャリアからすればなんの得もないから仕方ないかもね…。
次にMVNOのSIMカードに取り替えてっと。SIMカードを交換するならこの取り出しピンも常に持ち歩く必要があるな。それとWi-Fi環境がないとMVNOの設定(APN構成プロファイル)もインストールできないのか。思ったよりは簡単にSIMロック解除できたけど、SIMカード差し替えるたびにWi-Fi環境で作業しなければならないのはちょっと仕事で使うには現実でない気も。出張中だとWi-Fi確保できるとは限らないものね。何かもっとよい方法はないものか…?
キャリアのSIMロック解除の手続きはオンラインで行えます。あらかじめ「設定」アプリの[一般]→[情報]から[IMEI](製造番号)を控えておき、解除手続きを済ませておきます。
SIMカードトレイをiPhoneから付属のピンで取り出し、MVNOのSIMカードと差し替えてからトレイを戻します。ICチップの表面には素手で触れないようにしましょう。
キャリアのSIMに戻すには、SIMカードを差し替えたうえでインストールしたMVNOのAPN構成プロファイルを削除する必要があります。
Wi-Fiなどに接続し、MVNOが提供する「APN構成プロファイル」をダウンロードしてインストールします。iPhone側のネットワーク設定をリセットする必要があるのでWi-Fiのパスワードなどは控えておきましょう。
iPhoneじゃなくてもいいんじゃない?
ハヤシバラ●おやおや浮かない顔ですね、うまくいっていないんですか?
タカハシ●いえ、格安SIM自体は思っていたより簡単に使えたのですが、今回のタケザワ次長のケースではあまりよろしくないかなあという気がしています。SIMカードの差し替えなんか苦にならないガジェット好きだというのならいいんですけど。
ハヤシバラ●そうですね。あくまでも格安SIMでテザリングができればいいってご相談ですからね。つまり、別にモバイルルータを用意したほうが手っ取り早いかもしれませんね。なんなら不本意ですがアンドロイド端末でテザリングしたって構いませんし。
タカハシ●ああっ、やっぱりそうですよね。これ、いつもの「本当に依頼者が求めていたことは別にあった」ってパターンです! 無理してiPhoneでやる必要はないんですよ…。
ハヤシバラ●ほっほっほ。そういうこともあろうかと思いましてね、別のアイテムを用意しておきましたよ。
タカハシ●なんですか、これ?
ハヤシバラ●格安SIMなどを挿入して使えるUSBドングルです。これをMacのUSBポートに挿し込むか、USB充電器やモバイルバッテリから給電すればWi−Fiアクセスポイントとして利用できます。
タカハシ●おお…そんな便利なアイテムがあるんですね。モバイル派のMacBookユーザにはよさそうです。複数枚のSIMカードを入れ替えて使うのであればこちらのほうが確実ですね。
ハヤシバラ●多少持ち運ぶものが増えてしまいますけどね。とはいえ出発前に設定だけ済ませておけばこのドングルだけ持ち運べばOKというのは楽だと思います。あと、こちらは基本的にマイクロSIMを使うタイプなので(ナノSIMにアダプタ使うのはメーカー保証対象外)、SIMカードの入手性もよいのではないでしょうか。
タカハシ●最後においしいところを全部ハヤシバラ課長に持っていかれましたが、タケザワ次長にはこちらを案内しておきますね。
PIX-MT100
【発売】ピクセラ
【価格】オープンプライス
【実売価格】約1万5000円前後
LTE対応のUSBドングル「PIX-MT100」は、MacのUSBポートに直結すればUSBモードで動作し、直接LTE網につながります。また、USBバッテリなどにつなげば即席のWi-Fiルータとして動作します。
格安SIMで使う場合、事前に対応するMVNOのAPN設定を調べておいて、認証タイプやユーザ名などを登録しておきます。基本的にはデータ専用SIMを使います。