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選んでいるのは利便性かはたまた孤独か

著者: 三橋ゆか里

選んでいるのは利便性かはたまた孤独か

©Rawpixel.com

11月2日、米サンディエゴで開催されたクリエイターのためのカンファレンス「アドビ・マックス(Adobe MAX)」に参加してきました。アドビというと、フォトショップやイラストレータなどPC向けツールのイメージがありますが、「ライトルーム(Lightroom)」や「フォトショップ・フィックス(Photoshop Fix)」といったアプリを使えば、iPhoneでも写真をプロ並みにさくっと加工できてしまうことにびっくり。暗すぎる写真を自動補正したり、写真に入り込んでしまった指をなぞって消したり…。私も早速活用しています。

「身近なクリエイティブ」のインスピレーションを得ると同時に、改めてタップの先から広がる世界について考えさせられました。ネット上の買い物はとうの昔からタップ先の世界ですが、最近ではマッサージやスーパーへのお遣いなど、必要なときに必要なサービスを受けられるオンデマンドサービスも、まさにタップ先。タップからさらに進んで、アマゾンの「ダッシュボタン(Amazon Dash Button)」のような“プッシュ先”もありますね。

ついこの12月に、日本でも提供開始されたダッシュボタン。ハンドソープや食器、洗濯洗剤といった日用品を、ボタンを押すだけでアマゾンに再注文できるという便利な小型デバイスです。ボタンは、アイテムごとに存在します。我が家では、愛用するトイレットペーパーが届くダッシュボタンをストック棚に設置。数カ月に一度のペースで“プッシュ”して活用しています。

楽で便利なのでタップやプッシュについつい頼ってしまいますが、“代わりにやってもらう”系サービスは、人をズボラにします。どんなニッチなものにもサービスがあって、家を一歩も出ずに難なく生活できてしまうほど。買い物代行の「グーグル・エクスプレス(Google Express)」で届いた食材で朝ご飯を作って、ランチは最寄りのレストランの宅配サービスを「アマゾン・レストラン(Amazon Restaurants)」で注文。郵便物を出したければ梱包と配送を一気にやってくれる「シップ(Shyp)」の出番。ちょっと凝った料理が食べたければ、料理キットサービスの「ブルーエプロン(Blue Apron)」を使えばOKです。

ウーバー(Uber)やエアビーアンドビー(Airbnb)など、インターネットを通じて、人の時間やモノといった「空いた」ものを有効活用する、いわゆるシェアリングエコノミーが流行り、広義の「資源」の共有化が進んでいるように思える現在。こうした他者とのインタラクションを生み出すサービスが注目される一方で、多くの人の生活には前述のようなオンデマンドサービスが浸透しています。それによって、社会はむしろ個人完結型の様相を呈してきている気がします。これらオンデマンドサービスの多くでは、相手と顔を合わせる時間はものの5秒。それ以外の場面では、誰にも会わず生活できてしまうからです。

先日、「ルカ(Luka)」というチャットボットを開発するスタートアップの創業者の話を聞きました。チャットボットとはAI(人工知能)を使ったサービス領域で、チャット上の話言葉による対話からタスクを認識・実行してくれるもの。ルカはチャットの内容からユーザを分析し、おすすめのレストランを教えてくれるなど賢いコンシェルジュのように機能します。

創業者は、人間は将来、自分の最大の理解者であるデジタルな友人(チャットボット)を持つと予測しています。SF映画の話のように感じてしまいますが、生活の隅々にまでテクノロジーが侵入し、外界との接点が断たれた社会では、さほど突拍子もない想像ではないのかもしれない。現に私たちは、一つ、また一つとテクノロジーにタスクを肩代わりしてもらっています。決して強いられるではなく、気づかぬうちに私たちはそれを自ら選んでしまっているのかもしれません。

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp