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新MacBook Pro全方位検証!?アーキテクチャー/ディスプレイ

新MacBook Pro全方位検証!?アーキテクチャー/ディスプレイ

広範囲に刷新された内部テクノロジー

新MacBookプロ(Late 2016)では、CPUやメモリなどの内部テクノロジーにも着実な進化が確認できる。フラグシップの名に恥じないそのアーキテクチャを、トピックごとに解説しよう。

【CPU】第6世代Core iプロセッサ「SkyLake」を搭載

CPUは従来のMacBookプロに採用されていた第5世代コアiプロセッサ「ブロードウェル」に代わって、第6世代コアiプロセッサ「スカイレイク」を搭載。15インチモデルにはクアッドコアの「スカイレイク-H」と外部PCHチップセットが、13インチモデルにはデュアルコアの「スカイレイク-U」が採用されている。

13インチモデルのうち、タッチバー非搭載モデルはMacBookエアの後継機種として位置づけられているようで、低消費電力のスカイレイク-Uが搭載されている。その分動作速度も若干低めとなっているものの、MacBookエアからは大幅な性能アップとなる。

一方、タッチバー搭載の13インチモデルにはスカイレイク-Uの高速版が搭載されており、従来のMacBookプロレティナディスプレイモデルの後継的な性能に設定されている。15インチモデルにはさらに高性能なスカイレイク-Hが採用されており、iMacに匹敵するほどのCPU性能だ。

このように、タッチバー非搭載モデルは従来のMacBookエアの後継として、15インチおよび13インチのタッチバー搭載モデルはMacBookプロレティナディスプレイモデルの後継機種として位置づけた4つのラインナップで構成されている。

新モデルと過去のモデルのCPU比較。新モデルは単にCPUの動作速度が引き上げられているだけでなく、アーキティクチャの更新によってクロックあたりの処理能力も向上している。特にMacBookエアからの乗り換えではその性能向上は大きく、MacBookプロらしい速さを実感できる仕上がりだ。

【GPU】15インチモデルに最新のPolaris GPUを搭載

新MacBookプロのグラフィックスは、13インチモデルがコアiプロセッサに内蔵のインテルIrisグラフィックス540および550となっており、Mac

BookエアのGT3とはEU(GPUコア)数こそ同じ48基だが、外部にeDRAMを64MBを持つ「GT3e」が搭載されている。

一方、15インチモデルには、プロセッサ内蔵のインテルHDグラフィックス 530に加えて、外部GPUとしてAMD「Radeon Pro 450」および「Radeon Pro 455」が搭載されている。

15インチモデルでは、この2つのグラフィックスが負荷の状況に応じて自動的に切り替わるように設計されている。3D処理などの重いグラフィック処理では膨大なGPUコアと専用ビデオメモリ(2GBまたは4GB)を備えた外部GPUがその威力を発揮し、一般的な用途ではプロセッサ内蔵のHDグラフィックスに切り替えて外部GPUをオフロードし、システム全体の消費電力を減らすことができる。

なお、外部GPUには他社に先駆けてAMDの新アーキティクチャ「Polaris」を採用する「Radeon Pro」シリーズモバイルGPUが搭載されており、従来のMacBookプロを凌駕する高いグラフィック性能を獲得している。

【メモリ】増設不可能なメモリその容量選定は慎重に

新MacBookプロのメインメモリには、13インチモデルに8GBのLPDDR3 SDRAMが、15インチモデルに16GBのLP

DDR3 SDRAMが搭載されて出荷される。LPDDR3 SDRAMは、iOSデバイスにも採用されているもっとも低消費電力タイプのメモリで、その動作速度はタッチバー非搭載モデルが1866MHz、タッチバー搭載モデルは2133MHzとなる。

メモリチップは従来のMac Bookプロレティナディスプレイモデルなどと同じくロジックボードに直接実装されており、ユーザがあとから増設したりすることはできない。購入の際には将来を見越して充分な量のメモリを搭載したモデルを購入したいところだ。

また、OSの要求するメモリ容量は年々増大している。現在macOSシエラの要求仕様は2GB以上とされているものの、現実には2GBのメインメモリではほとんど使いものにならず、最低でも4GB、一般的な用途でストレスなく使うには8GB欲しいのが実状だ。また、今後のOSのアップデートに対応して数年間使うには、余裕があるに越したことはない。さらに、動画編集などデータ量の大きい処理を行うなら16GBモデルが欲しいところだ。

もう1つ気をつけなければいけないポイントは、MacBookシリーズはいずれもメインメモリの一部をビデオメモリとして使用するという点だ。外部GPUと専用ビデオメモリを持つ15インチモデルでも、低負荷時にはプロセッサ内蔵グラフィックに切り替わり、その際にはメインメモリの一部がグラフィック用に使われる。最近のGPUはレティナディスプレイの採用もあって、1~2GBと大きなビデオメモリを必要とするため、その分CPUが使えるメインメモリが減る。メモリ容量を決める際には、その分をあらかじめ差し引いて考慮すべきだろう。

インテルプロセッサになってからのMac OSのメインメモリに対する要求仕様。ここに記載されているのはOSが起動するのに必要最小限のメモリサイズであり、実際にはアプリや作業用データを扱うためのメモリが余分に必要になる。少し前まではメモリ4GBのモデルもあったが、現在ではかなり厳しい状況になってきている。

【ストレージ】ノート型Mac過去最高のアクセス速度を実現

新MacBookプロのSSDには、新しいPCIエキスプレス(PCI Express)接続のSSDが搭載されており、そのアクセス速度は過去のどのMacBookシリーズよりも高速だ。2015年リリースされたMacBookプロのSSDもPCIエキスプレス3.0の4レーン接続だったが、SSDにアクセスするためのプロトコルがAHCIからNVMへと変更。これをNVMエキスプレス(NVM Express、略してNVMe)と呼ぶ。

AHCIはSATAインターフェイス時代のコマンドプロトコルで、もともとはハードディスク向けのアクセスコマンド体系をベースとしたものだ。SSDは半導体メモリ(NANDフラッシュメモリ)を記録媒体とするストレージデバイスだが、当時のOSは起動ディスクにHDDを用いることを前提に設計されていたため、SSDはこれをエミュレーションする形でAHCIプロトコルを実装して登場した経緯がある。しかし、ランダムアクセスに強くディスク回転待ち時間の不要なSSDは、AHCIプロトコルではその優れた特性を発揮できない。そこで半導体メモリに最適化したコマンド体系を持つ「NVM(Non-Volatile Memory)」プロトコルが考え出された。

MacのOSではバージョン10・10・3(ヨセミテ)からNVMのサポートが実装され、これに対応した最初のモデルがMacBook(Early 2015)だ。新MacBookプロはこれに次いでNVMエキスプレスのSSDを搭載し、過去最高のアクセス速度を実現した。

なお、新モデルのSSDモジュールはその形状やインターフェイスが従来のどのモデルとも互換性がない。従って現状では交換や増設ができないので、その容量選定に慎重な判断が必要な点は、メインメモリと同じだ。容量は256GBと512GBが用意され、オプションで1TBまたは2TBを選ぶことも可能だ。

新MacBookプロのSSDは、従来とは異なる形状でインターフェイスコネクタも変更されており、従来モデルとの互換性がない。新モデルは分解そのものが難しいこともあり、あとからサードパーティ製の大容量SSDと交換することは困難だと思われる。従って自分の用途に照らして充分な容量のモデルをチョイスする必要がある。

歴代のMacBookシリーズに搭載されたストレージデバイスの変遷。SATAインターフェイスからPCIエキスプレス接続へ、そしてAHCIプロトコルからNVMプロトコルへと進化してきた。また接続インターフェイスであるPCIエキスプレスもプロセッサの更新に合わせて高速化が行われており、同時に大容量化と低価格化も急速に進んでいる。

 

ノート型Mac史上もっとも美しく、表現力が豊かになったディスプレイ

新MacBookプロのディスプレイは、明るさやコントラスト比などが改善されているだけでなく、薄型化や軽量化にも成功した。これまで以上に美しいディスプレイの秘密を紐解いてみよう。

明るい場所でも視認性◎

新MacBookプロに搭載されたレティナディスプレイは、15インチモデルが対角寸法15・4インチで解像度が2880×1800ピクセル、13インチモデルが対角寸法13・3インチで2560×1600ピクセル。いずれも従来のMacBookプロレティナディスプレイモデルと同じ対角寸法および解像度のパネルを搭載している。

また、パネルのアスペクト比はいずれも16対10で、ピクセル密度は15インチモデルが220ppi、13インチモデルが227ppiだ。

さらに、従来のレティナディスプレイモデルと比べて明るさが67%、コントラスト比が67%、色表現力(色域)は25%改善されている。さらに、12インチMac

Bookなどと同じく、液晶パネルガラスとカバーガラスを一体化するパネル構造とすることで、ディスプレイ部分のさらなる薄型化と軽量化を実現している。

バックライトは白色LEDだが、さらなる広色域化と高輝度化のために新しいLEDを採用。バックライトシステム全体の改善と液晶パネルの透過率改善などで最大輝度500ニトに向上、屋外などのより明るいシチュエーションでの利用でも画面の視認性が向上している。同じくコントラスト比も旧モデルの900対1から1500対1へと向上し、輝くような白と深く沈み込んだ黒の表現が可能になった。

●ディスプレイの解像度

新MacBookプロのレティナディスプレイは、15インチモデルが解像度2880×1800ピクセル、13インチモデルが2560×1600ピクセル。いずれも従来のMacBookプロレティナディスプレイモデルと同じ解像度のパネルを搭載している。

●色鮮やかな表現が可能

新MacBookプロは従来モデルと比べて、明るさが67%、コントラスト比が67%、色域が25%改善されている。実際に見比べてみるとその違いは歴然で、より明るくより色鮮やかな表現が可能となっていることがわかる。それだけに27インチiMacのようにHDR(30ビットカラー)に対応しなかった点が唯一残念だ。

●約25%広い色域

バックライトシステム全体の改善とカラーフィルタの最適化により、従来のMacBookプロレティナディスプレイモデルより約25%広い色域を表現できるようになった。旧モデルではsRGBの色域だったが、新MacBookプロはより広いDCI-P3の色域を表現できる。これによりデジタルシネマの編集作業などでより正確な色表現が可能になった。

●薄型化と軽量化

12インチMacBookと同様に、液晶パネルガラスとカバーガラスを一体化するパネル構造とし、バックライトユニットを構成する拡散シートや反射板、導光板の材質や構造を工夫することにより、従来のMacBookプロレティナディスプレイモデルよりさらに約0.7ミリ薄いディスプレイを実現している。

新MacBook Proのディスプレイはなぜこれほどまでに美しいのか?

新MacBookプロでは、iMac 27インチ5Kモデルに引き続いて、MacBookシリーズではじめて可変リフレッシュレートが採用された。リフレッシュとは、ディスプレイ画面の表示内容を更新(書き換え)する処理のことで、MacBookシリーズでは60Hz前後のリフレッシュレートで固定されているものが多い。リフレッシュレートは主にビデオ再生時や3Dゲームなど、表示内容がリアルタイムで変更されるような処理で重要になる。ビデオ再生には映画コンテンツで24Hz、テレビやビデオカメラの動画で30Hzまたは60Hzのフレームレートが設定されており、3DゲームなどのFPS処理では120Hzなど速いほうが好まれる。

グラフィック表示のフレームレートとディスプレイのリフレッシュレートが不一致だと、スタッタリングと呼ばれるフレームのカクつきや、画面の上下のデータがずれるティアリングと呼ばれる現象が起きる。

また、ゲームやビデオなどの動画表示を行っていない状態では、画面表示はほとんど更新されないため、リフレッシュレートを低くすることができれば大幅に消費電力を低減することができる。そこで、ディスプレイの表示内容に応じて画面のリフレッシュレートをダイナミックに変更するのが「可変リフレッシュレート」だ。

また、MacBookエアや非レティナのMacBookプロに搭載されているディスプレイには「TN液晶パネル(Twisted Nematic LCD)」と呼ばれる方式のパネルが使用されている。これは、パネルの光透過率を変化させる液晶分子を奥行き方向に回転させる方式だ。ちょうど窓に取り付けられたブラインドのシャッターの傾きを変えることで、光の入射率を変化させるのに非常によく似ている。

しかし、この方式では液晶パネルを正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで、光の透過率が大きく変化してしまう欠点がある。そこでレティナディスプレイには「IPS液晶パネル(In Plane Switching)」と呼ばれる方式のパネルが使用されており、パネルの光透過率を変化させる液晶分子を同一平面上で回転させる。液晶分子が奥行き方向に回転しないので、見る角度の違いによる透過率の変化が極めて小さく、左右上下178度という高い視野角のディスプレイを実現できる。

その一方で駆動電圧の高さや構造の複雑さなどから、TN液晶パネルに比べて製造コストが高いというデメリットを持つが、クオリティを最優先するアップルのポリシーから考えれば、レティナディスプレイにIPS方式を採用するのは当然の選択だったといえるだろう。

さらに、新MacBookプロのレティナディスプレイには、従来より25%多くの色が表示できるIPS液晶パネルが使用されている。それを支えているのが、新しいLEDバックライト光源だ。

液晶パネルの光源には白色LEDが使われており、そこから発生した光の透過量を液晶層で調整し、最後にカラーフィルタでRGB(赤・緑・青)の三原色を取り出す。現在普及している液晶ディスプレイは、その光源に白色LEDを使用しているが、従来の白色LEDは青色LEDに黄色(青の補色)の蛍光体を埋め込み、これを励起して同時に発光させることで白色の合成光を発生させる仕組みだ。

しかし、黄色蛍光体を採用する白色LEDの発光スペクトラムを見てみると、青と黄色にピークがある特性を持っており、ディスプレイのバックライトに求められる赤や緑の成分が比較的少ない。

そこで、新MacBookプロでは、従来の黄色蛍光体に代わって新規に開発された赤色と緑色の蛍光体を採用し、緑と赤の波長にピークを持つLEDを新たに採用した。これによって従来より明るいカラーフィルタを採用できるようになり、ディスプレイの明るさを高めることができたことに加えて、従来の25%の色域拡大をも実現している。

また、レティナディスプレイが採用するIPS方式の液晶パネルは、TN方式に比べて同一面上での構成部品が多いために開口率が低い。開口率とは1ピクセルあたりの光を通す面積の比率のことで、スイッチングトランジスタ、そこへのマトリックス配線、カラーフィルタ間の光を遮るブラックマスク、ピクセル内の電極などが光を遮ることで開口率を下げる原因となる。

特に、従来のディスプレイよりピクセルピッチの細かいレティナディスプレイでは、パネルの開口率を向上させるのは難しい。しかし、新しいMacBookプロでは、酸化物半導体バックプレーンの採用によるTFTトランジスタの小型化、マトリックス配線をスイッチングトランジスタに重ねる、ブラックマスクそのものをより細くするなど細かい改良の積み上げにより開口率を約30%改善している。

開口率が向上すると液晶ディスプレイはより明るくなり、同じ明るさであればバックライトの消費電力を抑えることができる。さらに、バックライトのLEDの高輝度化・広色域化とカラーフィルタの最適化による透過率の向上も加わり、トータルで従来の66%アップに相当する500ミルもの明るさと高いコントラスト比を実現している。

MacBookエアと新MacBookプロの視野角の違い。IPS液晶パネルのMacBookプロは見る角度が変わっても色合いやコントラストに大きな変化がないが、TN液晶パネルのMacBookエアは特に上下方向の視野角が狭く、コントラストや色合いも大きく変化し、白飛びや黒浮きも発生するなど画質へのダメージが大きくなることがわかる。

従来の白色LEDでは、原発光であるLEDの青色とそれに励起されて発光する黄色の蛍光体を用いるが、緑や赤の光量が小さい欠点があった。新LEDは蛍光体を緑と赤の二色構成とすることで赤と緑の光量を増強し、カラーフィルタを変更して光源の利用効率を上げるとともに、色純度が高まることで広い色域を確保している。

開口率を上げるための工夫の1つとして、新しいレティナディスプレイではピクセル内の配線をスイッチングトランジスタ上に重ねている。またスイッチングトランジスタにIGZOでも使われている酸化物半導体を採用し、トランジスタサイズの大幅な小型化による開口率の向上と、静止画表示時の大幅な消費電力の低減を実現した。