首都アディスアベバを出発して、3日が過ぎていた。いよいよ舗装された道はなくなり、酷いデコボコ道に入る。延々と揺れ続けるクルマを「エチオピアンマッサージだ」とガイドは笑う。だが、すでに車酔いでグロッキーなヨメは、そんなギャグじゃピクリともしない。
エチオピア南部、南スーダンとの国境近くに住むスリ族に会うツアーに、僕らは参加していた。彼らのエリアは“南部諸民族州”という不思議な名を持つ州の奥の奥。デコボコ道を丸1日走り、山をいくつも越えて目的地に着いた頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。灯りはどこにもないが、どうやらここが村らしい。
翌日、村はずれのキャンプサイトで朝を迎えた。テントを出ると、なにやら入り口のほうに人だかりができている。近づいてみてビクッとした。そこにいたのは、顔や体を白や黄色にペイントした数十人の子どもたち。各々バッチリとポーズをキメて、「俺を撮れ」と熱くしつこく目配せしてくる。この押しの強さとインパクトは強烈だ。それに負けた僕は、カメラを取り出し、写真を撮り始めた。
彼らのペイントや飾り付けた植物も素晴らしいが、なによりポージングに感心する。なにも指示していないのに、まるでモデルかのように勝手にポーズをとる。そして撮影が終わると、ギャラを受け取り静かに去って行く。この姿勢はプロだ。この辺境滞在の5日間は、プロたちとの撮影大会でほぼ過ぎていった。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。 【URL】http://ryoseisuzuki.com