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Siri vs Google Assistant

著者: 山下洋一

Siri vs Google Assistant

ジャーナリストの厳しい指摘

ITジャーナリストのウォルト・モスバーグ氏が書いた「とても愚かに感じられるSiriの不思議」というコラムが大きな議論を引き起こした。大統領選候補者の名前を挙げられない、クレタの天気を聞いたらクレタ島ではなくイリノイ州の小さな街の天気を表示する、次の予定すらわからないなど、アシスタントとして力不足。アップルには優秀なエンジニアが揃っているのに、なぜSiriの成長はこんなにも遅いのかと嘆く内容だ。

Siriを実際に試してみたところ、そのふるまいは氏の指摘どおりだった。だが、筆者は普段Siriを便利に活用している。使う側が付き合い方のコツを覚える必要はあるものの、Siriの反応を「愚か」とは感じていない。

そこで、氏が褒めるグーグルの最新デジタルアシスタント「グーグル・アシスタント(以下、GA)」とアシスタント力を使い比べてみた。

賢いGA、できるSiri

「今日の天気は?」「米国大統領は誰?」「インスタグラムを開いて」「明日7時に起こして」「○○にメッセージを送って」という基本的な質問や依頼にはどちらもしっかり対応する。

GAはAIの活用が強化されており、会話型のユーザインターフェイスになっている。AIがユーザの言葉の意味をよく理解し、「米国大統領は誰?」「年齢は?」というような自然なやりとりが可能だ。Siriも質問の意味を汲みとってくれるが、GAほど会話は続かない。「オバマ大統領の年齢は?」というように、1つの質問として聞き直さなければならないことが多い。

「アップルのCEOは誰?」にSiriはアップルのWEBサイトを案内するのみ、GAはティム・クックに関する情報へのリンクを表示。

また、GAのほうが答えを追求する。たとえば「トランプは優れた大統領になれるか?」という質問に、厳選した1つの記事を紹介する。Siriは1つの答えを導き出さずに、検索の結果を表示するだけだ。Siriの応対には曖昧さを覚えるが、場合によってはグーグルの絞り込んだ答えが誤解を生む恐れもある。

プラットフォーム統合はアップルが一日の長だ。iOSの細かな設定までSiriに頼め、「リフト(Lyft)を呼んで」というようなアプリとの連係もスムースである。逆にGAは同社のオンラインサービスとの連係が強みであり、検索力が非常に高い。

まとめると、検索機能に優れて答えをしっかり導き出そうとするGAは賢いアシスタントという印象だ。Siriはデバイスの操作をきちんとサポートする一方で、調べものは自分で判断せずに情報をユーザに見せる。仕事ができるアシスタントという感じだ。ただ「賢い」「できる」は特徴の違いの表現であって、どちらもまだ頼れるアシスタントと呼べるほどではない。成長途上である。

音楽を聴かせて曲の情報を質問すると、Siriはシャザーム(Shazam)の機能で答えてくれる。GAは同アプリに非対応。

翻訳を頼むと、SiriはシンプルにBing検索した結果を表示するのみ。GAはグーグル翻訳による翻訳結果を表示してくれた。

大きな違いとして挙げられるのがプライバシーだ。グーグルの場合、ロケーションなど個人データの提供を許可する必要があり、それを認めなかったらアシスタント力は大きく減退する。一方、アップルはなるべくデバイスで処理し、サーバとのやりとりは暗号化する。プライバシー保護を前提とした判断になると、どちらに軍配が上がるかは明らかだ。

Siriの課題はユーザとの関わりの改善だろう。モスバーグ氏が指摘したSiriの問題の多くは数日後には解決した。多くのユーザが実際に試してみたからだ。近年AIの成長はエンジニアが教える段階から自ら学ぶ段階へと移行している。

デジタルアシスタントが対応できないと私たちは失望して使わなくなってしまうが、失敗の積み重ねからAIはできることを増やしていく。ユーザがSiriの成長が遅く感じるなら、それは悪循環に陥っているからだ。Siriの成長は、まだユーザの理解と我慢が必要な段階である。ユーザが利用し続け、Siriが失敗から学ぶことで、その成長のペースを加速できる。