アプリやiTunesで視聴できる映画やテレビ番組を一カ所でチェックし、視聴中のコンテンツにアクセスできるようにした「TV」アプリ。TVアプリはiOS版も用意され、同じiTunesアカウントでサインインしているデバイスでデータが同期される。アプリならiPhoneやiPadでもアップルTVと同じように、統一された視聴体験でさまざまなビデオサービスのコンテンツを楽しめる。まずは米国で12月に提供開始になる。
順調に増加するtvOSアプリ
「テレビの未来はアプリ」というビジョンを示してアップルが第4世代の「アップルTV」を投入してから10カ月。tvOS向けアプリは8000本を超えた。カテゴリー別のトップは約2000本のゲーム、ビデオコンテンツを提供するアプリも多く1600本に達する。アップルTVを通じて楽しめるコンテンツが質・量ともに充実し始めた。その一方で、かつてiOSアプリが直面した問題も。ホーム画面にたくさんのアプリが並び、アプリを切り替える手間が煩雑になり始めた。このままではたくさんのアプリにコンテンツが埋もれてしまい、見始めたドラマの続きを見逃すということも起こりやすくなる。そこでアップルは、アップルTVユーザが豊富なアプリをシンプルに使いこなせるように「TV」という新アプリを用意、またSiri(シリ)を強化した。
TVアプリは、一言で言い表すと「テレビとビデオコンテンツのポータル」だ。ユーザが使用している対応アプリで視聴できるビデオコンテンツ、iTunesで購入またはレンタルしたテレビ番組や映画に一カ所からアクセスできるアプリであり、また新しいコンテンツを発見できる場になる。
TVアプリは3つのセクションから成る。それらの中でメインセクションとなるのが、視聴可能なビデオコンテンツの中から次に見るべきコンテンツにユーザを導く「Watch Now」だ。トップに置かれた「次はこちら」に視聴中のコンテンツや新たに購入またはレンタルした映画やテレビ番組が並び、すぐに視聴を再開または開始できる。さらにアップルのキュレーターが選んだコレクション、話題のテレビ番組や映画、カテゴリー別のおすすめなどが続く。残る2つのセクションのうち「ライブラリ」にはiTunesでレンタル・購入した映画やテレビ番組が並ぶ。「ストア」はダウンロードされていないビデオ配信アプリからのおすすめやiTunesの最新リリース、つまりユーザにとってまったく新しいものをチェックする場になる。
TVアプリとビデオ配信アプリのコンテンツはディープリンクで直接結ばれている。「次はこちら」に並ぶコンテンツを再生するためにアプリを切り替える必要はない。「次はこちら」から選ぶだけで、そのコンテンツを提供しているアプリで再生が始まる。リモコンのTVボタンを押すと、元のTVアプリの画面に戻る。TVアプリを中心に、ユーザがアプリを切り替えることなく、さまざまなコンテンツにアクセスできる。
アップルは、たくさんのアプリが扱うコンテンツを統一するTVアプリの体験を「ユニファイドTVエクスペリエンス」と表現している。統一はデバイスにも及ぶ。TVアプリはiOS版も用意され、iPhoneやiPadでも同じように一カ所から、対応するアプリが扱うビデオコンテンツにアクセスし、新しいコンテンツを発見できる。同じアカウントで使用するTVアプリの情報は自動的に同期され、アップルTVで視聴を開始したビデオの続きをiOSデバイスのTVアプリの「次はこちら」から再開したり、その逆も可能だ。
アップルの10月のイベントで、ツイッターはアップルTVアプリのデモを披露した。フルスクリーンでNFLの試合中継を観戦でき、Siriリモートで左にスワイプすると関連するツイートをチェックできる。同社は2016~17年シーズンに10試合の中継を行う。
Siriが番組ガイドに
アップルTVで楽しめるビデオストリーミングは2つに大別できる。1つは見たいときに楽しめる「ビデオオンデマンド(VOD)」方式。映画やドラマ、バラエティ番組など、時間があるときにゆっくり楽しみたいコンテンツはVODのほうが適している。もう1つは「テレビ放送のライブ配信」だ。日本ではまだこれからだが、米国ではアプリを通じてテレビと同じように番組をライブ配信するテレビ局が増えている。また、スリングTVやプレイステーション・ビューなど、主要なテレビ放送チャンネルをパッケージにしたサブスクリプション型サービスも現れ始めた。
テレビ放送は数チャンネルならともかく、二桁を超えると番組表ではすべての放送中の番組をチェックしきれない。そこでアップルは、従来のVODコンテンツの検索に加えて、Siriに番組ガイドの役割を与えた。「今やっているプレミアリーグの試合は?」や「CBSニュースを見せて」というように頼むと、ユーザが視聴できるテレビ放送から該当番組を見つけてチャンネルを合わせてくれる。
多様化するテレビの楽しみ方
昨年前半にアップルが間もなくテレビ放送サービスを提供するという噂で持ちきりになったが、後半に入って延期の報道に変わった。今年7月にアップルのオリジナルコンテンツ製作が明らかになった。そのときもネットフリックスやアマゾンとの競争が指摘されたが、サービス関連事業を率いるエディ・キュー氏はビデオコンテンツ製作の事業化を否定した。テレビに関してアップルは変化や競争を急がず、すべてを慎重に進めている。同社は、コンテンツを届けるプラットフォームとして機能することを何よりも重んじている。
米国でも若い世代の「テレビ離れ」が指摘されている。それにも関わらず今、かつてないほど多くのビデオコンテンツが製作・提供されている。テレビ離れというと人々がコンテンツを見なくなったような印象を受けるが、実際には逆である。人々はたくさんのコンテンツを消費している。ただ、その方法が多様化・細分化しているのだ。
お茶間の中心にテレビを置いて点けっぱなしにしていた世代にとって、テレビはテレビ放送である。ゲームやDVDを楽しむ時間のほうが長いという人もいる。それがネット世代になると、オンラインのVODサービスが当たり前だ。彼らは放送スケジュールに縛られるのを嫌い、広告で中断されるのを嫌う。テレビ世代は大画面を好むが、モバイル世代にとってテレビはコンテンツを楽しむモニタの1つでしかない。スマートフォンやタブレットも使って、いつでもどこでも好きなときに楽しみたいと考える。
テレビ離れはたしかに進行している。米国で高視聴率を維持し続けてきたNFL(米アメフトプロリーグ)が今年は視聴率を落とした。だが、一方で今年からツイッターがNFL中継に乗り出した。モバイルデバイスでも観戦でき、試合中継とともに関連するツイートもチェックできるなど娯楽性が高い。また、熱心なNFLファンならテレビ放送ではなく、NFLが提供するサブスクリプション型サービスをシーズン契約して観戦している。テレビ世代からすれば、スマートフォンでツイッターを開いてNFL中継を観ている若い世代はテレビから離れているように見えるだろう。でも、人々がNFLから離れているわけではない。楽しみ方が多様化しているのだ。
世界的にテレビは過渡期を迎えている。テレビ世代が最大勢力だった状況が、Z世代やミレニアルズの拡大によって、ゆっくりと若い世代に視聴者の主流が移ろうとしている。アプリは、さまざまな価値観が入り交じる多様化・細分化の時代に対応できる。テレビ放送をストリーミングするアプリがあり、VODサービスのアプリがあり、ゲームやコミュニケーションなどのニーズにも応える。テレビとモバイルの融合も実現する。それらをユーザは自由に選択し、組み合わせられる。
多様化するテレビを1つの体験として機能させるのが、アップルのようなプラットフォーマーの役割である。私たちがWEBをブラウズするときにポータルサイトや検索サービスの助けを必要とするように、ビデオコンテンツの大海を案内するTVアプリやSiriのようなアシスタントが必要になる。
「Watch Now」からドラマを視聴
(1)「Watch Now」をスクロールして各カテゴリのおすすめをブラウズ、「政治好き」から「ゲーム・オブ・スローンズ」を選択。
(2)TVアプリから直接、HBO Nowアプリのゲーム・オブ・スローンズ第一話に移動し、自動的に再生が始まる。
(3)Siriリモートでメニューボタンを押すと、HBO Nowアプリの情報画面で作品やシリーズの説明などを確認できる。
(4)SiriリモートでTVボタンを押すとTVアプリへ。「次はこちらに」に視聴中のゲーム・オブ・スローンズが追加されている。