Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

日本のEnterprise ITに足りないもの

著者: 福田弘徳

日本のEnterprise ITに足りないもの

世界最大のアップルITコミュニティの「ジャムフ・ネイション(Jamf Nation)」をご存知だろうか? 本誌でも何度か掲載されたことがあるジャムフ社は、アップル製品管理に特化したソリューションである「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」(旧キャスパースイート:Casper Suite)を提供する企業である。そのジャムフ社が年に一回開催するユーザカンファレンスが「Jamf Nation User Conference」である。昨年はIBMが登壇し、Macを導入することでコスト削減を実現したというプレゼンテーションを行った。今年のカンファレンスは私も参加できたので、現場の空気感を含め、日本とアメリカのエンタープライズITの違いについて共有したい。

まず始めに、デバイスの管理ソリューションのユーザが集まるということで、セキュリティ対策や運用管理の話が多いのかと想像していたのだが、実際にはまったくそんな雰囲気はなかった。セミナーセッションではセキュリティ対策の手法や運用管理のノウハウ、効率化のための新機能などの紹介が行われていたが、日本のITベンダーのイベントやセミナーと大きく違いを感じた点は、イベントを作り上げる雰囲気に主催者と参加者の一体感があるところだ。

会場内での質疑応答も多く、セミナー中にツイッターを介して質問を受けつけるなど、インタラクティブなやりとりが印象的だった。メーカーも製品の新機能を押しつけるわけでもなく、コミュニティからの機能リクエストを積極的に採用し、ユーザも使い方や管理手法について、コミュニティを通じて共有することを積極的に行っている。

では、なぜこのようなコミュニティが醸成され、これほどまでにユーザの熱気が高いのか? それは、メーカーもIT管理者もそれぞれが常に、「ユーザがより良くデバイスを使える環境」をいかに作り上げるかを考えているからだ。日常生活で使い慣れたアップルデバイスのほうが生産性向上にもつながるし、アップルデバイスを選択できることが従業員の満足度にも大きく影響する。最終的には、組織も人も幸せになれるからである。

日本のエンタープライズITに足りないのは、ユーザの参加意識が低く、ベンダー依存の体質であることだと思う。導入したクラウドサービスやモバイルデバイスに対し、独自のカスタマイズ要件や機能追加を求め、自社の運用に製品を合わせようとする。また、導入後のサポートについてもベンダーに任せきりで、運用時のリスクテイクがないケースもある。ベンダー側もサービスの特徴やデバイスの機能の説明のみで、顧客の業務に踏み込んだ提案ができていないことも問題だ。それにより、本来ITを導入することで実現する業務の効率化に対し、本質的なビジネスプロセスを見直すこともなく、クラウドサービスやモバイルデバイスがただの業務の置き換えになってしまっているのである。もっとも検討しなければならないことは、サービスやデバイスの選定ではなく、ITの力で今のビジネスプロセスをいかに変えることができるかだ。

メーカーの姿勢もユーザからの機能リクエストを積極的に採用し、より良い製品にするための投資を継続し、ユーザもベンダー依存ではなく、コミュニティを通してユーザ同士の課題解決を促進するプラットフォームが存在していることが、これからの日本のエンタープライズITに必要な姿勢なのではないか。私はモビリティを活用した働き方変革も、このエコシステムが機能することで実現できると確信している。モバイルデバイスを利用するユーザ、それを管理するIT管理者、経営者、システムを提供するベンダー、メーカーのそれぞれの距離感が近くなり、それぞれの間にある壁がなくなることが、これからの日本のエンタープライズITの発展に必要なのかもしれない。

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple