著作権者の許可なく作品を使える「私的利用」
─今回のテーマは前回に引き続き「著作権」です。前回は、著作権とはどういったもので、誰の権利なのか、侵害した場合はどのような罰則があるのかということを確認しました。ようは「こういうコンテンツの利用はNG」というポイントを見てきたわけですが、逆に「こんな利用方法ならOK」となるのはどんな場合なんでしょう?
徳本●そうだねぇ。たとえば喫茶店とか居酒屋とかで、BGMをかけているお店って多いよね。最近はアップルミュージックのようにサブスクリプションで聴き放題のサービスも増えてきているわけだけど、そういうものをお店で流すのはまずいんだろうか。
中野●うーん、基本的にはダメですね。アプリの規約で商用利用はNGだと記載されていると思いますが、そもそも「音楽を大衆に聴かせること」は著作権者にしかできないことなんですよ。例外として、個人で楽しむ分には「私的利用」ということで認められています。私的利用の範囲であれば、著作権者の許可はいりません。
徳本●どこまでが私的利用になるんだろう?
中野●それでお金をとっていない、商売していないというのが条件になりますね。ビジネス目的で音楽を勝手に流すのは、CDだろうとサブスクリプションサービスだろうとまずいです。
徳本●それでJASRAC(日本音楽著作権協会)から使用料金を請求されたっていうケースもあったよね。
中野●ありましたね。ジャズ喫茶なんかの音楽を売りにしたお店をJASRACが取り立てに回ったことがありました。それこそ地方の場末のバーまで全国津々浦々です。
徳本●数年分で数百万円とか請求されたら、潰れちゃうお店も出ただろうね。
中野●実際、多かったみたいですよ。
徳本●中野くんのところには、そういう相談はくるの?
中野●サブスクリプションサービスで問題になったという相談はまだきていませんが、ジャズ喫茶でCDをかけていたらJASRACが来たんですけど…という相談は受けたことがあります。
徳本●そうなんだ。実は僕も高校生の頃、バンドをやっていたときに使用料金を請求されたことがあるよ。
中野●えっ、本当ですか。
徳本●洋楽をカバーしてライブをやっていたら、ある日JASRACから請求書が届いたんだよね。有名なバンドと一緒にライブに出たりしていたから、目をつけられたのかもしれない。そこで社会の仕組みを学んだね(笑)。
中野●まぁ、でも仕方ないですね。
徳本●しかし、どうして音楽をかけていることがわかったんだろうね。
中野●ジャズ喫茶を名乗っている時点で、音楽を売りにしているのは間違いないですからね。音楽をかけることがお店の売りである以上、それでお金儲けをしているわけですから、明確に権利侵害になるわけです。
徳本●じゃあさ、音楽を売りにしていないお店ならどうなるのかな。ジャズ喫茶じゃなくて、居酒屋とか普通のカフェとか。
中野●それもダメですね。お客さんがいる空間を演出する一部として使っているわけですから、私的利用ではなく商用利用になります。
徳本●お客さんがいなければいいのかな。それならバックヤードでかけるのは?
中野●それは問題ないと思いますね。
徳本●じゃあオフィスでかけても大丈夫?
中野●大丈夫でしょう。
徳本●社員が何千人もいる会社でも?
中野●ううーん…それはたしかに私的利用の範囲を超えている感がありますね。
徳本●でもきっとあると思うよ。個人のアップルミュージックの楽曲をBGMにしている会社。
中野●厳密にいうと著作権法違反になりえますね。…ですが実際に訴えられるかというと、正直ないと思います。だって、外の人間からすると、かけているかどうかなんてわからないわけですからね。
徳本●たしかにね。
トラブルの起こりやすい「引用」について理解しよう
─では次のテーマにいきましょう。これも著作権を扱ううえで避けて通れない「引用」の問題です。
徳本●そもそも引用とはなんだっけ?
中野●引用とは、自分が書く文章などを補強するために、他人の著作物を掲載することをいいます。たとえばMac Fanの記事の感想をブログに書く場合、該当の記事を載せないと何のことについて話しているのか読んでいる人に伝わりにくいですよね。その場合、Mac Fanに載っていた文章を自分のブログに書き写しても構わないわけです。
徳本●だけど、全文をそのままコピー&ペーストするのはまずいんじゃない?
中野●もちろんです。「引用とみなされるための要件」があり、それを満たしていなければ引用とは認められません。引用にならない文章の複製は著作権法違反に当たります。
徳本●引用の要件というと…?
中野●まず、「引用であること」が明確でなければなりません。どこからどこまでが引用した範囲なのか。はっきりわかるように表記する必要があります。そのうえで、たとえば本の内容を引用するなら、タイトルと著者の名前などを記載します。
徳本●読んでいる人にわかりやすくするという意味でも、これは当然だよね。
中野●さらに、引用はあくまでも主従関係でいう「従」でなければなりません。「主」は自分の文章です。ですから、長々と引用しておきながら自分の意見を一言添えるだけというのでは、引用とは認められないこともあります。
徳本●具体的にどれくらいの割合ならいいのかな?
中野●はっきりと決まっているわけではないのですが、少なくとも引用の割合のほうが多いのはダメでしょうね。
徳本●これも納得だね。
中野●最後に、そもそも「引用する必要があるのか」も重要です。引用は必要なときのみ行うものですから。
徳本●引用の要件、聞いてみるとどれも当然のことばかりだね。引用したことは著者に確認をとらなくてもいいんだっけ?
中野●引用の場合は許可をとる必要はありませんね。
徳本●だけど最近、引用のルールを守らないことで問題になっているサイトもあるじゃない。しかも個人ブログじゃなくて、企業が運営しているまとめサイトなんかで。
中野●たしかに目につきますね。たとえば別のサイトから持ってきた画像を並べて、「引用元」としてURLを小さく表記しているだけ、みたいな記事もよく見かけます。
徳本●あるある(笑)。で、最初と最後に少しだけ文章をつけ足しているだけっていう感じの記事ね。
中野●それは明らかに引用の要件を満たしていないですね。ただ、現在のところそういったサイトが訴えられたという話は聞きません。
徳本●これから出てくるかもしれないね。いずれにしろ、企業としては少しでもそうした訴訟リスクのあるやり方は避けるべきだろうね。
中野●引用するときは、しっかり要件を理解して守りましょうというだけの話ですね。
─ちなみに、引用の要件は基本的に文章に対して適用されるものだと思いますが、現在はネットのおかげで、イラストや写真も簡単にコピー&ペーストできます。この場合の引用の要件も同じなのでしょうか。
中野●同じですね。たしかに引用に関する法律は論文や雑誌、書籍など文章コンテンツを対象に作られたものですが、画像やイラストについても当てはめて考えれば大丈夫です。
徳本●もう1つ気になることがあるんだけど、僕は書評ブログもやっているから、よく書籍から引用するんだ。そのとき、文章の途中で「(中略)」を入れることがあるんだけど、これは引用としては大丈夫なのかな? それから、引用した文章の一部を強調するためにボールド(太字)にしたりするのも、「注:強調は筆者による」というような注意書きを添えればOK?
中野●うーん…、著作者人格権というものがあって、その中に同一性保持権、つまり「改変してはいけない」という決まりがあるんですね。ですから、厳密にいうとそれらは抵触するかもしれません。ただ、それで何かがあったという判例もないですし、法律上問題があることと、実際はどうなのかという実情には隔たりがあるのも事実です。
徳本●そうだね。もちろん法律は守らなければならないけど、どうしてもグレーな部分があるのが著作権の難しいところ。親告罪(被害者からの告訴がなければ起訴することができない犯罪の種類)ということもあるし、最後は著作者がどう思うのかという気持ちの面も大きいのかも。
中野●ええ。たとえば書評ブログに好意的に紹介されることで、本の売上が伸びることもありますよね。そういう場合はお互いにWin│Winですから、問題になることもないでしょう。
徳本●結局、最後は人の気持ちを考えましょうという当たり前の話になってしまうのかもしれないね。
中野●オウンドメディアなどを運用していると、何かを引用することもあると思います。そうした場合にトラブルを招かないよう、今日話した内容を覚えておいてほしいですね。
[みらいチャレンジ] 長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com