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vol.4 ビジネスパーソンも避けて通れない!著作権問題の基礎知識

著者: 山田井ユウキ

vol.4 ビジネスパーソンも避けて通れない!著作権問題の基礎知識

解釈の仕方が異なる「表現物のオリジナリティ」

─今回のテーマは「著作権」です。企業活動を行ううえでは絶対に知っておくべき知識ですが、正確に把握している人は意外と少ないのではないでしょうか。

中野●たしかに著作権に関しては、企業からご相談を受けることが多いですね。

徳本●インターネット前後で著作権に関するトラブルが増えた印象があるけど、どうなのかな?

中野●著作権に詳しくない個人がブログやSNSで情報発信できるようになったことで、やはり著作権がらみのトラブルはとても増えていますよ。

徳本●よくあるのは個人が企業の著作権を侵害してしまうケースだよね。テレビや雑誌を写真に撮って気軽にSNSに投稿してしまうことも、著作権侵害だしね。

中野●そうですね。ただ、個人相手だと黙認されるケースも多くあります。

徳本●それに最近は、逆のパターンも増えているよね。つまり、企業が個人の著作権を侵害してしまうこと。具体的にいうと、企業が運営するまとめサイトやキュレーションメディアが個人のブログやSNSから写真を無断で持ってきて掲載してしまうんだ。これに気づいたブロガーなどが指摘して企業が炎上する…なんてことも増えてきた。

中野●企業といっても、必ずしも担当者が著作権に明るいわけではないですし、これまで情報発信していなかった企業がオウンドメディアを始めたりすると、気づかずに著作権を侵害するケースが多いですね。

徳本●中野くんのところには具体的にどんな相談がくるの?

中野●「ネットにある情報はどこまで使っていいものなのか」とか、「そもそも使っていいものなのか」とか、基本的なことが多いですね。著作権は形のないものなので、多くの人が悩まれるようです。

徳本●今回はそうした基本的な部分から話していきたいね。そもそも著作権とは何だろうか?

中野●著作権とは表現物を保護するための権利です。ポイントは表現物が生まれた瞬間に自然発生する権利だということ。どこかに登録することで生まれる権利ではないのです。

徳本●その意味で登録が必要な特許や商標とははっきり違うよね。

中野●ええ。逆にいうと「登録されているか」を調べればいいわけではないので、侵害しているかどうかの判断が難しいともいえます。

徳本●イラストや写真、音楽、文章などに著作権があるのは当然だけど、逆に著作権が発生しないケースはあるのかな。

中野●著作権がないのは、まず「アイデア」ですね。著作権で保護されるのは表現物なので、頭の中にあるだけでは保護されません。

徳本●「その企画は俺が昔、考えたものなんだ!」という言い分は通用しないということだね。じゃあちょっと難しいところで、プログラミングのコードはどうだろう? プログラミングは表現物だといえると思うんだけど。

中野●それはきわめて判断が難しいですね。というのも、著作権が発生する条件の1つとして「オリジナリティがあるかどうか」が問われるからです。プログラミングでも独創性があれば表現として認められるかもしれませんが、一方で汎用的なプログラミングもありますよね。そういったものには独創性がないので、真似されたとしても著作権の侵害にはならないでしょう。

徳本●表現物にオリジナリティがあるかがポイントになるわけだね。

中野●同じ理由で、歌のタイトルや書籍のタイトルは基本的に著作権の対象になりません。理由は短すぎて汎用性が高いからです。たとえば「I love you」というタイトルの歌はたくさんありますが、一般的なワードで汎用性が高いため保護されないのです。もちろん、長いタイトルでオリジナリティがあれば認められることもあります。

徳本●なるほどね。それじゃあ、細かい話になるけど、たとえばオウンドメディアやパンフレットで使う写真を自分たちで撮影したとして、その構図が有名写真家の作品と酷似していたとしたらどうなるのかな。

中野●それはもちろん、著作権侵害にあたる可能性があります。写真に関しては構図もオリジナリティを決める要素ですから。

徳本●でも、仮にその撮影スポットが有名な場所だったとする。そうなると世の中には同じ構図の写真があふれかえっているわけで、オリジナリティが主張しにくいケースもあるんじゃない? たとえば富士山なんて、有名な撮影スポットはある程度決まっているわけだし。

中野●これも判断が難しいところですね。結局はケースバイケースということになるんですよ。たとえば富士山を同じ場所で同じ構図で撮っても、季節が違えば咲いている花も変わります。こっちの写真は桜だけど、そっちは紅葉なんだから著作権侵害ではないという主張もできるかもしれません。

徳本●泥沼だね(笑)。

中野●そうなんです。解釈の仕方によって大きく変わってしまうのが、著作権の難しさなんです。

徳本●もう1つ、企業の立場で気になる点としては、ローンチしたサービスの「利用規約」を真似したら著作権侵害なのかということ。同じようなサービスの規約をコピーして、単語だけ書き換えている企業はありそうだけど。

中野●その相談はよく受けます。真似してもいいんですか、と。たしかによく似たサービスを参考にして利用規約を作るケースは多いでしょうね。その場合も、元の文章にオリジナリティがあるかどうかがポイントになります。定型文には著作権は発生しないといわれているので、一般的な書き方や流れが存在する場合は真似をしても侵害にあたらないことが多いでしょう。ただし、「デッドコピー」(完全なコピー)は問題になるケースが多いです。実際に裁判に発展したケースもありますので、気をつけるべきです。

徳本●ここまでをまとめると、基本知識として覚えておくべきは「著作権は表現物に自然に生まれる」「オリジナリティがなければ保護されない」「短い言葉や汎用性の高い言葉は保護されない」といったところだね。

─ところで、企業の制作物には多くの人が関わりますよね。ライターやフォトグラファー、デザイナー…そうなると、出来上がった制作物の著作権は誰のものになるのでしょうか。

中野●これもすごく聞かれることの多い質問ですね。基本的には手を動かした人が著作権者ということになります。つまり、文章ならライター、写真ならフォトグラファーが著作権を持ちます。1つの制作物の中に、複数の著作権者が存在することになるのです。

徳本●ということはたとえ企業が発注して納品されたものであっても、企業は勝手にはできないってこと?

中野●そうです。コピーや改変などはその都度、著作権者の許可を取る必要があります。

徳本●それ、企業としてはすごく大変だよね。

中野●ええ。ですから、著作権も含めて企業が持ちたい場合は、「著作権を譲渡する」という契約書を著作権者と結ぶ必要がありますね。そうなれば二次利用などは許可をとらずとも自由に行うことができます。

徳本●なるほど。でも著作権を譲渡するっていうのは、著作権者にとっては不利な契約だよね。

中野●そうですね。ですから、その分を制作料金に上乗せして支払うというケースが多いですね。

─万が一、著作権を侵害してしまうと、どんな罰則があるのでしょうか。

中野●著作権侵害には刑事と民事の両方で罰則規定があります。まず刑事罰ですが、「10年以下の懲役」または「1000万円以下の罰金」となります。侵害した者が法人の場合は代表者又は違反行為をした従業員に課せられる可能性があります。さらに法人自体にも、これらと別に「3億円以下の罰金」が課せられる可能性があります。

徳本●厳しい罰則だね。

中野●ただし、刑事罰については親告罪であることがポイントです。親告罪とは被害を受けた者しか訴えを起こせないということ。第三者が訴えることはできません。

徳本●つまり、パクったから即逮捕! 訴訟!ということにはならないわけだね。

中野●そうです。ただし、これは刑事罰の場合です。民事の場合は親告罪ではありませんから、当事者でなくても著作権侵害した側に差し止め請求や損害賠償請求を行うことができます。謝罪文の掲示を求めることもできますが、これをやる企業は少ないですね。

徳本●いずれにしろ、著作権は企業活動において避けては通れない問題だし、法務部に任せきりにするのではなく、担当者もしっかりと学んでおく必要があるだろうね。正しく理解していれば、恐れず行動することができるわけだからね。

[みらいチャレンジ] 長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com