よりよい安心感が得られる
米国時間9月7日といえば、毎年恒例となりつつある、アップルのスペシャルイベントが行われた日だ。iPhone 7をはじめとした新製品が発表されたと同時に、既存のiPadやiPod、アップルTVの値下げが行われるなど、かなり大掛かりな製品価格の見直しが行われる特別なシーズンとなった。
だが、今年はそれだけで終わりではなかった。アップルは製品だけでなくサービス、しかも修理価格の見直しも行ったのである。もっとも衝撃的なのは、純正の延長保証サービス「アップルケア・プラス(AppleCare+ 以下AC+)」加入時におけるiPhoneのディスプレイ破損時の修理価格が、3400円(税別、以下同)へと値下げされたことだろう。この価格は従来の最安値だったiPhone 6シリーズ(7222円)の半分以下であり、iPhone 6sシリーズ(1万1800円)では、8000円以上の値下げになっている。
AC+は有料の延長保証サービス(かつ、2インシデントの制限付き)とはいえ、これに加えてバッテリの消耗時無償交換(1回まで)や、2年間の製品保証(アクセサリを含む自然故障への無制限の修理対応)と電話やチャットによる年中無休のサポートまで付いてくる。毎年買い換えるようなヘビーユーザはともかく、一般的な「2年縛り」で買い替えサイクルを行っている大多数のユーザにとってAC+は「入らないと損」と言っても過言ではないバリューを持つサービスになったのは間違いない。
変更になったのはこれだけではない。アップルのWEBサイトから「iPhoneの修理」ページをチェックしてみると、ディスプレイの保証外修理も4.7インチまでのものが1万2800円、5.5インチでは1万4800円と、バラつきのあった修理価格が底値に統一されている。またバッテリ交換の金額も一律7800円となり、全モデルで値下げとなった。
本体交換の金額も最大で4000円程度値下げされているが、一方でAC+加入時の過失や事故による交換修理の金額が1万1800円に値上げされているのには注意が必要だ。ただし、本稿執筆時では9月7日以前にAC+に加入したデバイスに関しては引き続き旧価格の7800円で交換修理が実施され、既存のユーザには値上げの負担はかかっておらず、大勢に影響はないようだ。
iPhoneの修理価格
iOSデバイス向けのAC+は、iPhoneに限らず、落下や水没などの破損修理価格の割引額が大きい。また保証期間内のバッテリ(7800円)やライトニングケーブル(2200円)の経年劣化時の修理(交換)費用もカバーされることを考えると、持ち腐れしないように配慮されている点でも優良なサービスだ。
Macの修理は値上げ?
モバイル向け修理価格がリーズナブルになる一方で、大規模な「実質値上げ」が実施された製品群がMacだ。10月中旬、アップルはMacにかかる修理価格を料金体系も含む形で大きく見直しを図り、サービスを開始している。
具体的に見てみよう。たとえばMacBookプロの13インチモデルを保証外修理に出したとする。仮に故障箇所がメインロジックボード(MLB)だった場合、直営店や正規サービスプロバイダ(ASP)に持ち込んで修理を行おうとすると、パーツ代と作業工賃で8万円程度の実費が必要になる。原価とはいえ、このままではユーザに高い負担が強いられるため、アップルは「一括修理価格(Flat Rate Repair)」という、もう1つの修理体系を用意した。この場合、修理自体も集中修理拠点に集荷されるため、日数も1週間程度かかるが、金額が3万3000円に割引され、また自然故障であれば複数の部品を使用しても金額は上がらないという割安なサービスだった。
これが今回改定され、修理で使用された部品の種類によってグループ1が3万3000円、グループ2が5万3000円という2段階制に切り替わった。請求もグループ2に設定されているMLBやディスプレイ、フラッシュドライブの修理がなかった場合のみ、グループ1の金額で清算される(見積もりの段階では必ずグループ2で算出)。「電源が入らない」「ストレージを認識しない」「画面の色味がおかしい」といったトラブルが発生した場合には、いままでよりも高価な修理価格を覚悟しなければならない。
最近のMacは世代ごとの性能差も大きく出にくくなってきているため、買い換えのサイクルが伸びているといっていいだろう。そう考えると、相対的に価格も安く、3年間回数に上限なく修理を受けることができる「アップルケア・プロテクション・プラン(AppleCare Protection Plan)」はモバイル版とは違う意味で「入らないと損」というサービスになってしまった。
Macの一括修理価格
デスクトップ製品の修理価格には大きな変動はないが、ノートブックの保証外修理価格が2万円以上値上がりしているのはショックが大きい。製品のライフサイクルも伸びてきていることを考えると、Mac向けのアップルケア・プロテクション・プランは3年ではなく、もう少し長い設定がほしいところだ。
※1 グループ2はMLB、ディスプレイ、SSDが修理箇所に含まれた場合に適用。デスクトップにはグループ分類なし。
※2 事故による損傷修理は算定条件が組み合わせによって異なる。このため調査結果はあくまで参考価格としての提示。
※3 MacBook Pro 15インチはレティナモデルも含む。 ※4 iMacは4K/5Kモデルも含む。
歴史は繰り返す
モバイル機器には喜ばしい変更だったが、Macに関していえばこれは「実質値上げなのでは?」という疑念も湧く。だが、これはさまざまな事情を考えれば、ある程度説明のつく変更といえるかもしれない。以前はアップル製品の修理といえば、預けられる拠点数も少なく、コールセンター経由の引き取り修理(=一括修理価格)で行われることがほとんどだった。実は10年ほど前にもアップルは今回同様の2段階設定による修理サービスを実施していたが、やはり「ティア2」での修理が大半だった。「価格が高すぎる」という意見も多く、その結果両方の価格の中間あたりに一本化した経緯がある。
だが、現在はビックカメラやカメラのキタムラといった全国に大規模の店舗を持つ法人がASPに加わり、アップル製品を持ち込み、修理できる拠点が爆発的に増えた。これによって「預けて拠点修理を行う」という選択肢が実用的になり、グループ1よりも安価に提供できる部品の修理であればユーザの負担はより少なくなる可能性が高くなった。MLBやディスプレイ修理などに関しては割高感は否めないが、非常に高価なパーツであることを考えるといままでの一括修理価格があまりも安価だったわけで、アップルとしてもかなりの差額負担になっていたのは想像に難くない。修理もボランティアサービスではなく人件費もかかるれっきとしたビジネスであることを忘れてはならないだろう。
もう1つの問題として、アップル製品が抱えるものに「町の修理屋さん問題」とも呼ぶべき悩みのタネがある。正規サービスよりも安価に修理を提供する業者が存在しており、こうした業者が利用しているパーツは、品質が約束されたものではなくトラブルが多いのも現状だ。メーカーとしてもより安全で確実な正規サービスの修理を選んでもらうためには、戦略的な囲い込みも必要だ。
こういった視点で考えると、ユーザに正しい修理を選んでもらう方法として、トラブルの多いiPhone(特にディスプレイとバッテリ)の修理を競争力の強い価格に設定して、今回の価格変更を実施したのは合点がいく。同時にMacの修理に関してはASP法人の拡大で非正規修理業者のシェアが劇的に少なくなったこともあり、今回、適正価格への調整に踏み切ったものと考えられる。
iPhoneも5以降のモデルはディスプレイやバッテリだけでなくカメラやバイブレータ、スピーカなど、かなり細かいモジュール単位での修理可能範囲も増えており、純正のパーツを使っても6000円程度で直せる部分もある。数年後にはiPhoneもMac同様に、よりフレキシブルな価格設定に変更される、そんな日が来るのかもしれない。