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米国ロサンゼルスに越してきて、1年半以上が経ちました。早かったような、遅かったような…。日本国内で引っ越すならまだしも、海を越えての大移動。新しい環境に慣れるまでに時間がかかるだろうと予想はしていたものの、仕事の面でも精神的な面でも、思った以上に長かった。旅行から帰ってきてLAX(ロサンゼルス国際空港)に降りたったとき、今やっと「ただいま」と言うことができます。
ロサンゼルスで生活をしていて感じる日本との違いを挙げれば、きりがありません。まず、完全な車社会であること。「ウーバー(Uber)」を筆頭に、日本でもオンラインニュースで耳にするテクノロジー関連の最新サービスが生活に浸透していること。こちらのお寿司が、日本のお寿司とは違うこと。サービス業者の大半が、迷わず土足で家に上がってくること。郷に入れば郷に従えといいますし、諦めるところはさっさと諦めました。
一般的に、日本はグループ内の協調性や和を重んじる傾向が強いのに対して、アメリカは個が立ち、自分は自分というスタンスの文化だといわれます。これは確かにそのとおり。こちらで生活してみて、自分の意見を持ち、それを相手に伝えることがいかに当たり前であるかを、日常生活のあるゆるシーンで実感しています。
たとえば、レストランで何かを注文する場合。初めて行くお店では何を頼むべきなのか決め兼ねるので、基本的に「あなたはここの何が好き?」とお店の店員さんに聞くことにしています。そうすると自分のイチオシ料理を教えてくれて、80%の確率でやっぱり店員さんに聞いてよかったとなります。日本でも、同じ方法を試してみたことがあるのですが、「あなたは何が好きですか?」と意見を求めると躊躇する人が多くいます。「それはお客さんの気分や好みによります」と。でも、「この店では何が人気ですか?」と聞くと、すらすら答えてくれます。
自宅から20分ほどのところに、ジャパン・タウンの1つとして知られるソーテル(Sawtelle)という地域があります。私はそこの美容院に通っているのですが、自分の意見を持つことの大切さは、美容師さんの職業でも同じだそうです。この美容師さんは、日本でも都内に自分の店舗を構えていらして、7年ほど前にロサンゼルスに越してきたそうです。当初お客さんは日本人だけだったのが、今ではアジア人はもちろんのこと、白人から黒人までさまざまな人種が利用するお店になっています。通ってくるお客さんは、それぞれ髪質や好みが違うため、ある意味日本にいたとき以上にテクニックが必要なのだとか。
でも、それ以上に、こちらで美容師を始めた当初彼を戸惑わせたことがありました。日本のお客さんは、雑誌の切り抜きなどを持ってきて「こんな感じにしてください」とその時々の流行りのスタイルを選ぶ傾向があるそうです。一方のアメリカでは、流行りなどはさておいて、「あなたは、私にどんな髪型が似合うと思う?」とまず担当者に意見を求めます。雑誌を見ればわかる流行りではなく、あくまで重要視するのは美容師の意見。レストランにしても美容院にしても、一見些細なようで、実は先述の文化的な違いを物語っている気がします。
日本語ではあまり使われない「あなた」や「君」といった二人称ですが、英語では“YOU” を使わずには会話が成り立たないこと(“What do you think?”)で、自然と「自分の意見」を意識するのかもしれません。はたまた、ただおせっかいさんが多いのかもしれません。昨今は、インターネットによって、世の中の多くのものが集合知に取って代わられているように錯覚します。でも、自分の意見を持つことが当たり前であるがゆえに、こちらでは古き良き時代の三河屋さん的な“人力”レコメンデーションを日々体験できています。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp