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Apple Pay、日々の経験と日本上陸への期待

著者: 松村太郎

Apple Pay、日々の経験と日本上陸への期待

筆者は米国において、アップルペイが導入された2014年10月から、iPhoneでの決済サービスを利用してきました。2016年10月、いよいよ日本でも、アップルペイが導入されます。これによって、生活はどのように変わるのでしょうか。筆者の経験を振り返りながら、日本での導入について考えていきます。

アップルペイがある生活

アップルペイの仕組みは、クレジットカードや銀行のデビットカードをiPhoneのカメラを使って読み込み、iPhone内にカード会社から発行されたトークンを持たせることで実現します。店頭にある非接触決済端末(米国では「コンタクトレスリーダー」と呼ばれる)でのクレジットカード決済、デビットカード決済が可能になります。同時に、アプリ内、ブラウザ内での商品の購買についても、アップルペイを利用することができます。

アップルペイは、決済時に、iPhoneのタッチIDによる指紋認証が必要です。またアップルウォッチでは、ロックが解除された状態で腕に装着されている状態でなければなりません。いずれの場合でも、本人がデバイスを持っている状態とみなされて初めて決済が完了するのです。

筆者の米国生活の中で、もっともストレスだったのは、クレジットカードのスキミング被害でした。クレジットカードの場合、不正利用分は全額補償されますが、カード再発行までの10営業日ほどは非常に不便な現金生活を強いられます。アップルペイでは、スキミングの被害を受けにくく、もし不正利用された場合もトークンだけを使用停止にするだけで良いため、カード再発行の必要がありません。カード決済に対するストレスを軽減してくれる点は、スマートな決済以上に感じる、アップルペイ最大の魅力です。

便利なアプリ決済

アップルのお膝元、カリフォルニア州サンフランシスコ周辺であっても、アップルペイを店頭で利用する店舗は少ないままです。筆者の生活圏でよく行く店舗については、高級スーパー・ホールフーズマーケット、日本食スーパーのニジヤ、ドラッグストアのウォルグリーンズあたりで利用できる程度です。ただ、幸いなことに、iPhoneやiPadを決済端末に変える「スクエア(Square)」がアップルペイをサポートするリーダーをリリースしたので、小規模店舗や個人商店でスクエアを導入している店舗でも、急速にアップルペイのサポートが広がり始めました。

また、米国ではようやくクレジットカードのICカードへの移行が始まり、多くの新しい端末はアップルペイをサポートしていることから、今後、アップルペイ利用可能店舗の拡大に弾みがつくのではないか、と期待しています。

一方、すでに便利に利用できるのは、アプリ内決済です。「ウーバー(Uber)」や「リフト(Lyft)」といった配車アプリや、店頭ではアップルペイをサポートしない米スターバックスのアプリのチャージなどで、アップルペイを利用することができます。新たなアプリを入れても、iPhoneにアップルペイが設定されていれば、アプリにカード情報を入力する必要がなく、安心と手軽な決済を実現でき、開発者からも好評です。

加えて、筆者が利用するバンク・オブ・アメリカのATMでも、アップルペイが利用できるようになりました。キャッシュカードがないときでも、iPhoneだけで現金を引き出すことができます。

アップルウォッチでのアップルペイ利用は、このウェアラブルデバイスを持つ有力な理由の1つとなりました。iPhoneすら持たずに出かけられるようになったからです。ウォーキングやジョギングなどのワークアウトに出かけるとき、あるいは荷物をいっぱい持っていてiPhoneすら取り出すのが面倒なとき、手首だけでの決済できるのは便利です。また、アップルウォッチに音楽を入れてブルートゥースヘッドフォンを利用すれば、ワークアウト計測から音楽再生までをこなす完璧なワークアウト環境が出来上がり、途中で水を買ったり、バスや鉄道に乗ることもできます。もちろん通信はできませんが、iPhoneの通知から離れることができる時間も提供してくれます。

日本は世界一便利な国に

日本では、スイカとiD、クイックペイのインフラを利用してアップルペイの店頭サービスを実現します。そのため日本全国の4000を超える駅をはじめ、バスやコンビニ、タクシーなどもアップルペイ対応となります。

サービス開始から一気にこの店舗数をサポートする国は、日本以外にありませんでした。これまでICカードによる支払いに親しんできた経験が、アップルペイに引き継がれる。それはすなわち我々の日常にiPhoneが対応することを意味し、結果的に世界最高のアップルペイ環境の恩恵を受けることができるのです。

アップルペイの日本導入の目玉は、スイカ(Suica)への対応です。スイカはJR東日本のエリアだけでなく、同様の交通系ICカードが利用できる鉄道や全国のコンビニなどでも利用できます。そのため、たとえば九州にいても、iPhoneにスイカアプリを設定すれば、鉄道への乗車やコンビニ決済をiPhoneで利用できるようになります。

JR旅客鉄道株式会社で取締役副会長を務める小縣方樹氏は、「非常に高いスタンダードを設定するアップルとJR東日本で、iPhoneでのスイカ体験をiPhoneユーザのためにゼロから作り上げた」と語ります。

「現在スイカの顧客は1700万人。日本ではiPhoneは大変人気があります。アップルと我々は、安全、セキュリティ、クオリティを追求する点で、お互いに厳しい基準を持つ者同士です。また、お客様の期待も非常に大きいものがありました。フェリカをサポートする日本向けiPhone 7/7プラス、アップルウォッチ・シリーズ2と、我々の日本全国に張り巡らせたインフラで、10月下旬から、非常に質の高いサービスを提供できると期待しています」

小縣氏はスイカのインフラに磨きをかけ、iPhoneとスイカの出会いをこれまでのケータイやスマホで実現してきた「モバイルスイカ」とは別のものとして提供しようと考えているのです。

プラスティックのスイカカードをiPhoneに重ねてアップルペイに情報を登録すると、元のカードは使えなくなり、チャージ残高にデポジットを加えた金額と定期券などの情報がiPhoneに移ります。すると、スイカアプリから、iPhone内のスイカ機能を設定することができます。

「スイカアプリでは、クレジットカードを登録しておけば、アップルペイで瞬時にチャージができます。また、定期券や特急券、新幹線特急券の購入も可能になります。iPhone 7で新幹線に乗る、楽しみな体験も実現することができるようになります」

セキュリティと決済速度

アップルペイでのスイカ利用では、高いセキュリティ機能にメリットがあります。

「無記名式であっても、記名式であっても、iPhoneに読み込ませてスイカアプリで管理することで、従来以上のセキュリティを確保しました。iPhoneを探すアプリやiCloud.comを通じて、遠隔で利用を停止することができるだけでなく、チャージ残高を保証し、新たなiPhoneに読み込ませることも可能です」

また、セキュリティとともにこだわったのは通勤に耐えるスピードだと話します。

「スイカは0.2秒で改札での決済処理を済ませます。iPhoneでもこのスピードを実現するためにフェリカチップを内蔵し、アップルペイで必要だった指紋認証を改札では省きました。電車内などで他人がiPhoneを使って、スイカカードのスキミングを行うこともできないようにしています」

メトロポリスの姿を世界に

アップルペイは、米国において、非接触決済の9割を占めるサービスに成長しています。日本では、鉄道、銀行、コンビニなどのエコシステムがあり、短時間での普及について「非常に楽観的に見ている」と小縣氏は指摘します。

「他の人がiPhoneでスイカを使い始めている様子を駅で見かけたら、きっと自分も使いたくなるのではないか、と思います。マイクロペイメントは交通系が要です。その点で、アップルとJR東日本のパートナーシップは最良だと考えています」

また、iPhoneとスイカの組み合わせは「未来の年の姿を体現したもの」とも考えているそうです。

iPhoneでのスイカ利用は、未来の年での新たなスタンダードとして、世界から注目を集めることになると期待しています。

松村太郎 Taro Matsumura

1980年東京生まれ。現在、米国カリフォルニア州バークレー在住。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。テクノロジーを活用した新しい学びを研究・ビジネス化するキャスタリア株式会社取締役。