Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

第43話 Super Humanが活躍する時代

著者: 林信行

第43話 Super Humanが活躍する時代

We're the super humans

【URL】https://www.youtube.com/watch?v=IocLkk3aYlk

「We're the super humans」という動画をご存知だろうか。イギリスのチャンネル4が製作したパラリンピックを応援するための映像だ。まだ見ていないという人は、英語がわからなくても楽しめるのでダマされたと思って見てほしい。

同様にリオ・パラリンピック閉会式から次の開催地・東京へのフラグハンドオーバーのセレモニーも必見だ。義足だからこそ普通の人にできない表現に挑戦するモデルのGIMICOや、切断され短くなった足だからこそできるダンスに挑むダンサーの大前光市、目が見えないからこその東京を表現する対話ファシリテーターの檜山晃らが登場したパフォーマンスも見所溢れる。

パラリンピックの競技そのものは、やはりオリンピックの盛り上がりと比べると注目度が下がっていた感は否めないが、パラリンピアンの成績がオリンピアンを抜くと言われる4年後の東京オリンピック・パラリンピックでは変えていきたい所だ。

パラリンピック開催直前、興味深い話題が巻き起こった。番組開始以来、障がいと闘う人を取り上げ募金を呼びかけてきた日本テレビ「24時間テレビ」の生放送の裏で、NHK教育放送がそのパロディーを流したのだ。障がい者バラエティを謳う「バリバラ」番組の特別版だ。同番組は、社会から同情の目を集めることの多かった障がい者が、自らの障がいをネタに笑いを取る画期的な内容である。

インターネットでは「お笑い」色が強すぎるバリパラと一緒にされたくないと憤る障がい者の声もあったが、それもそのはず、障がいを持つ人も健常者と同じで、障がいの種類にしても考え方にしても多種多様なのだ。おそらく障がい者への差別がない社会というのは障がいの有無に関わらず、人と違うことをちゃんとお互いリスペクトし合える社会なのではないかと思う。

アップル好きな本誌の方々風にしてみれば、「Think different.」を尊重し合える社会と言えるかもしれない。

MacやiPhoneで「しょうがいしゃ」と入力して変換すると真っ先に「障害者」という字が出てきて、たまにこの文字のままツイートをするとすごい勢いで「その字は差別的ではないか」と噛みついてくる人がいる。そのあたりに配慮して「障がい者」や「障碍者」と書く人は多いが(この原稿もそうしているが)、そういうことに注意している人ほどプロフィールなどを見てみると大抵は健常者だ。自身にも知り合いにも障がい者のいない私(その代わり、そうした人に関わる仕事はたくさんしている)がこんなことを言うと再び「差別」と批判されそうだが、そうしたことを意識することのほうが健常者と障がい者の間に線を引きたがる差別の心の表れではないかとも思う。

さて、ちょっと話の角度を変えよう。

障がい者の人生においては、社会の仕組みに仕込まれた彼らに不利な構造が障害になることがしばしばある。たとえば、かっちりと教え方が決められすぎた現在の日本の教育指導のシステムだ。エジソンやダ・ヴィンチ、アインシュタイン、スピルバーグ、トム・クルーズ、そしてヴァージン・グループをつくったリチャード・ブランソンやゴールドマン・サックスの社長のゲリー・コーン、さらにはアップルのチーフデザインオフィサーのジョナサン・アイヴの共通点を知っているだろうか。

皆、文字の読み書き学習に困難を抱えるディスレクシアという学習障がいを持っている。ディスレクシア以外にも、現在の教育システムに馴染めない学習障がいはあるが、実はそうした障がいを持つ子どもたちにこそ、それぞれの個性にあった教育プログラムを確立することが将来の日本にとってとても大切であると考えている。

人口減少の悲観論も多い日本だが、私は2020年と前後して、これまで活躍できていなかった人材が大きく増えていく日本になることに期待したい。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/IT、モバイル、デザイン、アートなど幅広くカバーするフリージャーナリスト&コンサルタント。語学好き。最新の技術が我々の生活や仕事、社会をどう変えつつあるのかについて取材、執筆、講演している。主な著書に『iPhoneショック』『iPadショック』ほか多数。