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なぜビジネスにおけるイノベーションが今求められるのか?●IBM × Appleのビジネス大変革

著者: Mac Fan編集部

なぜビジネスにおけるイノベーションが今求められるのか?●IBM × Appleのビジネス大変革

進むモバイル導入

“The computer for the rest of us”。1984年に初代Macintoshを発表したときのアップルのスローガンは、当時一部の専門家向けだったパーソナルコンピュータ(PC)を、(広く一般の)“残りの人々”へ届けること、そしてマウスやグラフィカルユーザインターフェイスを搭載するMacintoshこそがそれに相応しい存在であることを世間に宣言するものだった。それから30年あまり、PCは多くの人の手に渡り、人々の生活を大きく変えてきた。

しかし、それでもまだコンピューティングが届かない一部の人々がいる。アップルはそう考え、さらなる“the rest of us”に向けて、iPhoneやiPadを発表した。これらのモバイルデバイスはPCと比べて起動が速く、手軽に持ち運べ、さらに指によって直感的に操作できる。そして手元からどんな人でもインターネットという広大な情報へアクセスでき、さまざまなアプリを使うことでデジタル時代の恩恵に与れる。モバイルデバイスが私たちの生活のあらゆる面でPCを凌駕する存在になったことは、毎日の生活を自ら反芻してみれば明らかだろう。

そうしたPCからモバイルへのパラダイム変化は、次第にビジネスの世界へも波及していった。iPadが登場した2010年から、法人市場におけるモバイルデバイスの普及率はアップル製デバイスが先行する形で高まりはじめ、2015年末の国内における普及率は38%に及ぶ(ミック経済研究所調べ)。また、2015年の国内法人向けタブレット出荷台数は241万台で、市場はiOSとアンドロイド、ウィンドウズの3強、中でもiOSのシェアが4割と高い(IDC JAPAN調べ)。

こうしたモバイルデバイスの導入は、当初一部の先進的な企業に限られていたが、iPadの登場から6年が経過し、今では企業規模問わず、製造や小売、流通、医療福祉、金融、サービス、観光、通信、自治体といったあらゆる業種業態でPCに代わり活用されている。コンシューマー市場がそうであったように、「モバイルファースト」の概念から、従来のPCが利活用されなかった仕事の現場にも、生活の延長線上で自然にモバイルデバイスが使われ始めたのだ。

どこでも、だれでも、いつでも

では、なぜビジネスにおいてここまでモバイルデバイスの利活用が広がっているのか。もっとも大きな理由は、どんなビジネスも今はITを抜きにして語れなくなっていることにある。大量生産の時代は当の昔に終わり、モノから情報へ、労働集約型から知的集約型へ、答えのあるものから答えのないものへ、新たな価値を創出しないことにはどの企業も生き残れない時代になった。そして、それを解決するためにはITのチカラによって従来のムダを省き、本来人間がすべき価値創造の部分に注力することが必須となる。

「生産性のアップ」「顧客満足度の向上」「従業員のモチベーションアップ」「仕事の効率化」など、企業がモバイルデバイスを導入する目的はさまざまだ。しかし、その背後にある本質的な理由は“Digitalization”(ITによる価値創造)であり、それを実現するためには企業そのもの、そしてそれを構成する一人一人の“個人”を、ITによってエンパワーすることこそが求められている。

それを理解すれば、なぜこうしてモバイルデバイスの導入が進んでいるかがわかるだろう。従来のPCによるITに加え、携帯性(どこでも)、操作性(だれでも)、即時性(いつでも)が加わったのがモバイルデバイスであり、従来のPCでは持ちえなかったこれらの特性によって、ITは個人にとってより身近な存在になる。

「会社でないと作業ができない」「操作を覚えることが大変」「使い始めるまでに時間がかかる」といったこれまでの悪しき慣習から、モバイルデバイスは働く人を解放する。こうしてITのチカラが一人一人の働く人に与えられれば、その威力は絶大だ。

それは、ビジネスにおいてもiPhoneやiPadをはじめとするiOSデバイスが広く受け入れられている理由にも通じる。iOSデバイスがもっとも好まれる理由、それはシンプルで誰もが使いやすいからだ。極力ボタンを廃し、明快なユーザインターフェイスを備え、安全に使うことができる。重要なのはデバイスの使い方を覚えることではなく、個をエンパワーしてアウトプットを生み出すことなのだから。

もちろん、iOSデバイスが受け入れられている理由には、その美しいデザインや基本性能の高さ、ユーザビリティの良さ、MDMをはじめとする管理・運用面でのソリューションの豊富さ、ビジネス用途においては重要となるセキュリティの堅牢さ、安全で豊富なアプリケーション、1つのデバイスを長く使い続けられるライフサイクルなどもある。また、多くの企業で先行して導入が開始されたため、実際のノウハウが横展開され、広く共有されていることも理由に挙げられるだろう。

魔法使いになれるか

モバイルデバイスの企業導入はこれからもさらに進んでいくと思われる。しかしここで重要なのは、単にモバイルデバイスを導入することが、そのままビジネス変革に直結するわけではないということだ。導入前には「どのように使っていきたいか」というイメージの明確化が必要となるし、導入には小さいスケールで段階的に試行錯誤しながら行うといったPCとは違った手法も必要となる。

モバイルデバイスを単にPCの延長線上で捉えてしまうと結果は思わしくない。効果的な導入のためには、モバイルデバイスの特性を活かした働き方とはなんなのか、これまでPCを使ってこなかった、あるいはPCを適切に活用できていなかった現場でどのように使うのか、個人をITのチカラによってエンパワーすることで何を実現したいのか、そうしたことを今一度考える必要がある。モバイルデバイスによってビジネスに魔法を起こすためには、それを使う人々や企業そのものがまず魔法使いになり、自らを変えなくてならない。

多くの企業にとって、モバイルデバイスによるビジネス変革はまだ道半ばだ。IBMがアップルと提携し、モバイルデバイスの企業導入を促進しようとするのはそのためだ。単にデバイスを入れれば終わりではなく、モバイルによるビジネス変革を継続的にサポートし、ワークスタイル変革を促し、ひいては企業の新たな価値創造の手助けとなること。自らアップルデバイスの導入を実践し、今の時代に求められるツールやサービスを意欲的に開発、自身の成功/失敗体験をもって企業をサポートすること。そうした妥協なき試行錯誤の連続、それが今のIBMが目指すところなのだ。