「モバイルファースト」という言葉が登場して久しい。ビジネスにおいて、WEBやコンテンツ、業務に必要なツールを提供する際に、PC環境ではなく、モバイル環境での利用を優先して対応する、という考え方である。今や、通勤電車の車内でも空港の搭乗口の待合室でも、あらゆる業務やコンテンツの閲覧をモバイルデバイスで行うことに、何の違和感もなくなった。人の手にモバイルデバイスがない状態のほうが違和感を感じる。一方で、シンギュラリティ(技術的特異点)が世間で騒がれているように、人工知能やVRが発達し、人が行うものがどんどんテクノロジーの進化によって置き換えられていることも、また事実である。
このように、テクノロジーは日々気づかないうちに、我々の日常生活の中に入り込み、我々の行動を変化させている。では、これからどのようなマインドセットを持って、変わりゆく時代に対応すればいいのか。
以前、私が拝聴したセミナーの登壇者の言葉である。
「変化の激しい、変化のスピードが速い時代に、安定した人生はない」
この言葉を聞いて、私が現在取り組んでいるエンタープライズモバイルの世界も同様であると感じた。業務用アプリの開発やデバイスの導入、MDMなどの運用管理に限らず、ウェアラブルデバイスやIoTなどモバイルと連係するテクノロジーが広がりつつあり、モバイルデバイス単体での利用体験から、モバイルデバイスが起点となって周辺のものと連動し、拡張する利用体験へと変わりつつある。
こうした移り変わりの早い時代において今を生きる我々は、時代の変化に適応する「術」を身につけなければならない。特に、ビジネスにおいて変化に適応したモビリティを実現するためには、事前の準備がすべてである。そして、それに必要なものは「戦略」だ。辞書で調べてみると、戦略とは「長期的・全体的視点に立った戦うための準備・計画・運用の方法」とある。
個人的に、モビリティ導入の戦略には次の4つが重要な検討事項であると思う。「①トレンドをつかむ」「②強みにフォーカスする」「③圧倒的な差別化」「④継続性」だ。まず時代の流れをつかみ、これから先どのような働き方を実現したいかをイメージする。次に、自社の強みを理解し、そこを活かす活用方法を検討する。競合他社をマネするような、他社の導入事例を取り入れるのではなく、時間的な差別化(先手必勝)で、圧倒的な差を実現する。そして最後に、その取り組みを継続する。
このような新しい取り組みには、マインドセットも変える必要がある。今までの仕事のやり方自体をどう変えるか。検討フェーズでは、既存の業務プロセスにとらわれず、いかに他者を巻き込むかがポイントだ。ルールを作るのではなく、どうルールを変えるか。新しい取り組みに対し、寛容な環境が求められる。実行フェーズでは、小さな積み重ねが大きな結果を生み出すことにつながる。一発逆転で大きな成功を掴めることはなく、小さな成功体験の積み重ねが大きな成果となって返ってくる。
時がいくら流れようとも、変化の主体は「人」でなければならないし、テクノロジーは我々の生活により良い変化をもたらすツールでなければならない。しかし、現実社会ではテクノロジーに振り回されることも多い。だから、人工知能が仕事をしてくれる世の中になったとき、働き方をどのように変えていこうか、日々生きていくことの何に意義を見出していこうか、ということは今から考え抜かなければならない。
最後に、マハトマ・ガンジーが言ったとされる言葉「Be the change that you wish to see in the world.」で締めくくりたい。「見たい世界があるのなら、あなた自身がその変化になりなさい」。まさに、我々は変化を生み出す側にいるのだと。
Hironori Fukuda
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple