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“投資の神様”も見込んだブランド企業Appleの底ヂカラ

著者: 山下洋一

“投資の神様”も見込んだブランド企業Appleの底ヂカラ

持続性を持たないハイテク株

5月の中頃、1つのニュースが投資家たちに衝撃を与えた。ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが、今年第1四半期にアップルの株式981万株を約10億ドルで取得したのだ。

バフェット氏は、コカ・コーラなどの堅実なビジネスを展開する優良株を長期保有する主義で知られる。いくら短期的に大きな成長が予想できても、持続性を持たない銘柄は敬遠する。その代表が、先端技術を手掛ける企業のハイテク株だった。

投資家、経営者、慈善活動家であるウォーレン・バフェット氏。ウォール街のあるニューヨークなどではなくネブラスカ州オマハを中心に質素な生活を送っており、人々から敬愛の念を込めて「オマハの賢人」と呼ばれている。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップル株の保有を決断したのはバフェット氏ではなくファンドマネージャーの1人。だからといってバフェット氏の投資哲学と無関係ではない。バークシャーはバフェット氏の理念に沿った投資戦略で、長年顧客の期待に応えてきた。バークシャーが保有するアップル株はポートフォリオ(投資対象における金融商品の組み合わせ)全体のわずか1%程度と規模は小さい。それでも、これまで同氏が否定してきたアップル株である。投資の神様が自身のルールを変えたか、そうでなければ今日のアップルがバフェット方式に適う企業であることを意味する。

バフェット氏はバリュー投資家である。本来の価値よりも割安になっている銘柄を、長期的な視点に立って買い付ける。「割安」と「持続性」が投資のポイントだ。バークシャーがアップル株を買ったのは、同社が四半期決算でiPhone初の販売台数減を発表する直前だった。アップルを成長株と見なしてきた投資家たちがiPhoneの減速で逃げ出し始めたタイミングを考えると、バークシャーのアップル株買いは理に適っている。株価の割安度を測る目安の1つ、株価収益率(PER)は、S&P500種株価指数(ダウ平均などと並ぶ米国の代表的な株価指数)のPERを大きく下回っており、アップル株には割安感があった。

2016年第二四半期のアップル株価の推移。iPhoneが前年同期比で販売台数減となった第一四半期決算の発表で下落したが、バークシャーのアップル株購入が明らかになってから緩やかな上昇に転じた。

出典:Google Finance(https://www.google.com/finance?q=NASDAQ:AAPL

ただし、長期保有に値する価値という点ではどうだろうか。多くの投資家がそうであるように、アップルをiPhoneの企業と見なしたら、これから数年ならともかく、10年後、20年後も安定した市場を維持し続けるとは断言しにくい。

アップルはIT企業にあらず

だが、アップルをブランド企業と見なすなら評価が変わってくる。10年後にスマートフォンは衰退しているかもしれないが、人々は変わらず、おそらく今日以上にパーソナルデバイスを活用しているだろう。パーソナルデバイスにユーザはアイデンティティを求める。ファッション性やブランドで身に付けるものを選ぶのは消費者の本質であり、それは今も10年後も変わらないだろう。デザインとブランド力に優れたアップルなら、これからもユーザに愛される製品を生み出していくに違いない。

バフェット氏は、ハイテク企業というだけでその持続性を否定しているわけではない。バークシャーは2011年にIBM株を保有し始めた。計画性と実行力のある財務管理とともに、ビジネス分析やクラウドといったテクノロジーの新たな分野に企業が進出するのを手助けする企業と評価している。つまり、企業の浮き沈みこそあれ、ITという市場自体は今後の安定した成長が期待でき、IBMはそのインフラを担う重要な企業と見なされている。

またバークシャーのポートフォリオには含まれていないが、バフェット氏はアマゾンについても称賛を惜しまない。ITという枠ではなく、人々の生活を便利にする事業を展開しているからだ。

今年初めに、個人のプライバシーを徹底保護するアップルとFBIの対立が世界的な論争を巻き起こしたように、アップルはIT企業の枠組みを超え、その製品やサービスは私たちの生活に浸透し始めている。バークシャーが今後もアップル株を買い増し続けるかはわからないが、iPhoneが減速しても、ピークを過ぎたら雪崩のように業績を崩す急成長企業とアップルは異なるというのが投資の神様の見立てである。

フォーブスが発表した2016年のブランド価値ランキング。アップルはブランド価値が1541億ドルで、昨年に続き1位。2位のグーグルの825億ドルに2倍近い差をつけている。

出典:Forbes(http://www.forbes.com/powerful-brands/list/

【News Eye】

1990年代終盤のインターネットバブルの頃、ネット企業への投資を聞かれたバフェット氏は、株価の上昇を予想しながらも「10年後の状況を想像できない」と保有の可能性を否定した。それ以降、2011年にIBM株を取得するまで、ハイテク株を慎重に避け続けてきた。