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TITLE 15 月明かりのフィッツロイ

著者: 鈴木陵生

TITLE 15 月明かりのフィッツロイ

3月下旬。南半球に位置するパタゴニア地方は、秋の終わりを迎えようとしていた。アルゼンチンとチリの国境にある山、“フィッツロイ”の麓にテントを据えて、9日間。僕たちは凍えながら、あるものを待ち続けていた。わずかに残っていた紅葉もすっかり終わり、山は日に日に寒くなる。完全に秋のつもりでいた僕たちは、冬山にそぐう装備を持ち合わせておらず、寝袋から出られない日々が続いた。

僕たちが待っていたのは、朝日だ。東の果てまで雲のない、晴れた朝。地平線から昇る太陽は、フィッツロイの尖った山頂を照らし始める。そして、先端からだんだんと、山を金色に染めていくのだそうだ。登山ブランド「パタゴニア」のロゴのモチーフにもなった、フィッツロイのその姿は、美しいを通り越して、さぞ神々しいに違いない。しかし、「スモーキーマウンテン」とも呼ばれるこの山の山頂は、そもそも雲に包まれていることが多い。すっきりと晴れた朝は、なかなか訪れなかった。

そろそろ寒さの限界に近づいた10日目の真夜中。セットしていたiPhoneのアラームで、僕らは目覚めた。もそもそと寝袋のままテントから這い出し、山を見上げる。よく晴れた星空の下、フィッツロイが月に照らされ銀色に光り輝いていた。圧倒的な光景だ。僕らは寒さも忘れて、空が明るみ、そして山が金色に光り輝くまで、ずっとずっと見続けていた。

鈴木陵生(Ryosei Suzuki)

映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。 【URL】http://ryoseisuzuki.com

【PS】

ようやく見られた金色のフィッツロイは、やはり素晴らしいものでした。ですがそれ以上に、この月夜に光るフィッツロイは神がかっていたように思います。でもやっぱり朝日の光景も気になる、という方は、「旅する鈴木 フィッツロイ」で検索してみてください。動画でご覧いただけます。