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生徒一人一人のもっとパーソナルの学びのために

iOS 9.3で大幅に強化された教育向け機能「iPad+教室の体験」ががらりと変わる●Apple春の新製品

iOS 9.3で大幅に強化された教育向け機能「iPad+教室の体験」ががらりと変わる●Apple春の新製品

真の「1人1台体験」を目指して

アップルが以前より教育分野に力を入れているのは、本誌読者であればご存じのことだろう。教育分野でのアップル製品導入事例は、アップルの公式WEBページ「Appleと教育」で多数の映像とともに公開されている。特にiPadは、ほかのOSと比較して、動作の安定性、操作の容易性、バッテリ持続時間の長さ、豊富な教育向けアプリ等を武器に、教育機関で好んで選ばれてきた。

背景にあるのが「個々の生徒・児童に合わせた教育体験の向上」であろう。学習に取り組む生徒児童の課題や強みは一人一人異なり、パーソナライズされた体験が重要だからだ。それゆえ、iPadの教育機関導入には「1to1(1人1台)」の導入が理想的だ。

事実、2010年の博多高等学校(福岡県)や袖ヶ浦高等学校(千葉県)を皮切りに、私学を中心に1to1のiPad導入校が続出している。2015年9月には茨城県古河市が、市内の研究指定小学校3校にLTE搭載iPadの1to1(他校は1校40台ずつ)配備を行うなど、公立小での事例も出てきた。

しかし、日本国内全体で見れば1to1実現校はわずかな割合にすぎない最大の理由は「予算」だ。現状ではタブレットを1クラス分(40台)程度導入し、複数の生徒児童が同じ端末を「共用」するケースのほうが一般的である。一方で、iPadは1台に1つのアップルIDが紐づき、そのアップルIDは個々人で取得する前提となる。アプリやユーザデータはアップルIDやアイクラウド(iCloud)に紐づくため、ほかのOSと比較するとマルチユーザでの共用が難しかったのである。

その状況が、iOS 9.3で一変しそうだ。今回の新機能は「個々のユーザ体験が共用環境でも実現可能になった」ことを期待させるもので、教育現場へのiPad導入にさらに拍車がかかりそうだ。4つの新機能を順に見ていこう。

※iOS 9.3で強化された一部の機能を利用するためにはMDM製品の対応が必要。

【Key Feature】共有iPad

デバイスは共有、そして体験はパーソナル

新機能である「Shared iPad」(共有iPad)はiPadの共用利用を可能にする仕組みだ。キャッシュ機能を活用し、iPadログイン時には生徒児童が最後に使ったときのアプリやブック、データが復元され、すぐに学びを再開できる。また、前回と異なる端末でログインした場合でも、最低限の情報を読み込み直すことで迅速に授業が開始できる仕組みが実装されていると推測される。

この仕組みを利用するために必要なアップルIDは、後述する「アップル・スクールマネージャ(Apple School Manager)」を利用することで一括作成できる模様だ。生徒児童のiPadには利用登録されている生徒の顔写真(Photo ID)が並んでおり、自分の写真をタップしパスコードを入力するだけでログインが可能となる。低学年の児童向けにパスコードを数字4桁にシンプル化する機能(iOS 9以降、標準は数字6桁)もあり、スムースな授業開始をサポートしている。

Shared iPadにより、一人一人の生徒児童があたかも「自分専用のiPad」を利用しているかのようなユーザ体験が可能になるだろう。この機能を応用すれば、その学年の授業に必要なアプリだけをiPadに表示させる、万が一iPadが故障した際には他のiPadで作業の続きを行う、といった活用も可能になりそうだ。1to1導入が難しい教育機関でも、今回の新機能を活用して最小限のiPadと利用環境を整えれば、最小投資で効果を最大化できることが期待される。

【Key Feature】クラスルームアプリ

毎日の授業をよりリッチかつスムースに行う

「クラスルームアプリケーション」は、OSレベルで教員によるiPadの集中管理を可能にする3つの仕組みから構成される。

まず1つ目は、パスコードリセット機能。Shared iPadの場合、授業開始時に生徒児童はパスコードによるログインが必要になる。ここでパスコード忘れやパスコードロックが発生すると授業の進行に影響するのだが、そんなときは教室内ですぐパスコードリセットが可能だ。

2つ目は、iPadの集中コントロール機能。生徒児童全員のiPadに向けて同じアプリやテキスト、WEBページを開く指示を出したり、iPadの操作を一斉にロックできる。従来は先生が「○○を開いて」と指示しても「どれを開けばよいかわからない」と混乱するケースもあったが、そうした課題が軽減できそうだ。

そして3つ目は、モニタリング機能。教員は専用画面で生徒児童が今iPadで行っている作業をモニタしたり、特定の生徒児童の画面をエアプレイ(AirPlay)でプロジェクタや電子黒板に無線投影することが可能になる。これまでエアプレイは生徒児童側からの能動的な操作が必要だったが、先生が生徒の「GoodJob」を見つけて、クラス内に即共有、といったことも可能になる。

いずれも授業をスムースにする意味で便利な機能だが、2と3の機能に頼りすぎると授業が支配的になり、生徒児童のパーソナルな体験を阻害するリスクもあるので、利用シーンには注意したい。

【Key Feature】スクールマネージャ

IDや有料アプリの管理ならおまかせ

「アップル・スクールマネージャ」は、iPad利用に必要な準備と管理を集中的に行えるクラウドシステムといえる。従来はMac専用ソフトである「アップル・コンフィギュレータ2(Apple Configurator2)」が必要だった作業の多くが、WEBブラウザ上で利用可能となる。主な機能としては、(1)Share iPadに必要な「Managed Apple ID」の一括作成、(2)iTunes U用の「授業コース」の作成と一括配信、(3)VPP(Volume Purchase Program、教育機関向けのアプリ一括購入による割引プログラム) によるアプリやテキストの購入・管理・配布、(4)MDM(Mobie Device Management、サードパーティによるiPadへの遠隔アプリ配信や機能制限・制限解除、不正利用防止監視などを行うシステム)を活用したiPad初期設定や管理の効率化、(5)Student Information Systemと連係した生徒、職員、教室の管理(日本国内には同様のシステムはほとんど存在しない)が挙げられる。

これらの機能は公立学校を管轄する教育委員会を強く意識したものとなっており、分散した場所にある多数のiPadを離れた場所から遠隔で一括管理することを意識して、管理者を必要に応じて増やせるようにもなっている。台数が増えてきたときに、管理に必要なものがパッケージ化されている印象だ。

【Key Feature】管理用アップルID

学校向けに特化した新しいアップルID

「Managed Apple ID」(管理用アップルID)は、アップル・スクールマネージャ上で作られる、Share iPadや教室でのパスコードロック解除などの新機能をフル活用するための新しい概念のアップルIDだ(従来のアップルIDで新機能はサポートされない可能性が高い)。

これまで学校でiPadを導入する際、アップルIDの作成にはメールアドレス(公立学校は教員も生徒児童もメールアドレスを持たないため、その都度フリーメールなどを必要数取得)、パスワードと秘密の質問などを準備し、そのアップルIDを個々のiPadに設定する「キッティング」に手間が必要で、多くの場合はこれを業者が代行していた。つまりコストが必要だったのだ。執筆時段階ではまだアップル・スクールマネージャを日本では利用できないため推測になるが、アップル・スクールマネージャを通してアップルIDの作成と設定の手間が大きく減れば、教育機関は業者へのキッティングや端末の保守費の支払いを削減ができる可能性がある。そういう意味でManaged Apple IDは、今回の最大の目玉といっても過言ではないだろう。