お付き合い始めました
「スミエを好きになりました。以前から気にはなっていたのですが…実際に一緒に過ごしてみて、ああやっぱり思っていたとおり、いやそれ以上に素晴らしいと思うようになりました。ぜひ末永くお付き合いをお願いいたします」
縁あって、過日よりワタクシはスミエとお付き合いを始めている。モノトーンを好み、派手さに欠けるスミエは、古臭いとか堅苦しいと思われがちだが決してそんなことはない。もの静かな佇まいで枯れた味わいを見せることが多いが、最近ではスポーツシーンでダイナミックに躍動する姿を披露することも増えている。長い伝統に縛られず活躍の場を徐々に広げつつあるスミエに、ワタクシは無限の可能性を感じるのだ。そもそもスミエが生まれたのは中国。禅僧に連れられ日本にやってきて…。
えー、もうとっくにおわかりでしょうが、スミエとは墨絵、いわゆる水墨画のことです。いきなり墨絵が…と始めると、ちょっと話が堅くなりそうなので、暴投覚悟で変化球を投げてみました。そんなわけで今回は、アプリを使って見よう見まねで墨絵(らしきもの)を描いてみたら、予想外な面白さにハマったという話です。
一発勝負の壁
これでもワタクシ、一応プロの絵描きですが、「Mac」と「イラストレータ」なくしてはロクに絵が描けないナンチャッテ絵描きなんである。早い話がフリーハンドで描くのが超苦手で、絵はあとから修正するのが当たり前っていう、何とも情けない絵描きなのだ。
そんなワタクシにとって、一筆一筆が一発勝負と思われる墨絵はあまりにハードルが高い。タレントの片岡鶴太郎が描く達者な魚や野菜、漫画家井上雄彦が描く猛々しい武蔵などの今どきの墨絵を見ると、自分も描いてみたくなるのだが、己を知る身としては踏み切れなかった。
ところがアプリなら、同じ一発勝負でもやり直しが利く。筆が思うように運べなかったときは、慌てず「アンドゥ(Undo)」ボタンをタップして元に戻せるのだ。厳密にいえば一発勝負ではなくなるが、難しい一発勝負を丸々やり直すわけだから緊張感は維持したまま、納得がいくまで何度でもチャレンジできる。
またファイル保存機能も心強い。マメに作画中の絵を保存しておけば、描き損じても被害は最小限に防げるからね。その安心感が次の一筆の思い切りの良さにつながるのだ。これもアプリならではだ。
難しいから面白い
このアプリで実際に墨絵を描いてみて感じたのは、墨絵の特徴である濃淡は実に難しいってことだ。筆を入れる順番や墨を塗る範囲を読み違えると、墨が思わぬ具合に重なり意図せぬ濃淡が生まれてしまう(とても悔しい)。そして思いどおりの濃淡を描くにはそれなりに計算が必要で、まるでパズルを解くようにうまく事が運んだときは気分爽快なのだ(偶然でもうれしいけどね)。
また濃い墨の上に薄い墨色を乗せても上書きされないので、最終的に薄い墨で描きたい箇所は最初から頭に入れておかねばならない。このアプリには消去ツールがあって、塗った墨を消したり薄くしたりすることができるが、消した跡は少し不自然になるのであまり多用しないほうがいいだろう。
いずれにしても、墨絵は思ったより頭を使うのだ。そこが面白くてハマる。一発勝負の連続は、実にスリリングだ。描き続けているうちにだんだん思い切りが良くなり度胸がついてくる(気がする)。手と頭を使ってアートするこのアプリ、何かと萎縮しがちな中高年におあつらえ向きなんじゃないですか。
Zen Brush 2
【作者】PSOFT
【価格】360円
【カテゴリ】App Store>エンターテインメント
和筆のさらさらとした、それでいて力強い描き心地にこだわったドローアプリ。にじみや薄墨を重ねるといった表現に優れ、墨絵を描くのに最適なアプリだ。指による筆圧シミュレートにより、筆の運びに強弱がつけられるのだが、ワタクシのiPad ミニでは機能しないので0.5減点。基本、iPhoneとiPadの両方に対応。
絵心だけじゃなく気力も刺激!?「墨絵アートアプリ」にチャレンジ
色は2種類、濃淡は3種類
使用できる色は黒と赤(朱)の2つ。濃淡は「ディープ」(ベタ)、「ミディアム」(中間)「ライト」(薄墨)の3つだが、ベタ以外は重ねて塗ることで、さらに違った濃淡を出すことが可能だ。
ものは試しに墨絵風に梅を描いてみました
①サイズの大きな筆で中心となる枝を一気に描き、細いサイズで細部を調整。
②花のなる枝を描く。直線的に描くのが難しい。筆は先端から入れたほうが綺麗。
③朱色で大小5つの点(丸)を打ち、梅の花に見えるような形をいくつも作る。
④細部を描き終え、仕上がったので紙選び。背景が違うとまるで異なる作品になる。
⑤梅なので冬用の紙を選んで完成。蕪村の俳句を添えてみた(意味は知らんけど)。
【担当者後記】
これでもかという和風テイストに「Zen(禅)」というワード、それがかえってちょっと洋風で、てっきり米国西海岸あたりの会社を想像していたのですが、開発元のPSOFTは宮城県は仙台の会社のよう。アップルのCMにも採用されたというこのアプリ。日本の、しかも地方からっていうのがなんかうれしいです。
【担当者後記】
各種感圧式スタイラスペンに対応している「Zen Brush 2」は、iPadプロ&アップルペンシルへももちろん対応済み! 公式WEBサイトにて自作の筆風タッチペンの作り方を指南する(http://psoftmobile.net/jp/extra001.html)など、描き心地への徹底したこだわりを感じます。