カテゴリの融合を拒否
アップルのプレゼンテーションでしばしば目にするのが、同社の製品を小さい順に並べたラインアップ一覧の図だ。左から、アップルウォッチ、iPhone、iPad、MacBookプロ、そしてiMac。これら5つの製品は、iPhoneと組み合わせることが前提となるアップルウォッチ以外、どれか1つだけでも存分に活用できる。加えて、1人の人がすべてのデバイスを所有する可能性もまた存在している。
「アップルのプロダクトはそれぞれが役割を持っている、とてもユニークな存在です。腕に装着する、ポケットに入れる、持ち歩く仕事環境として、など。1つずつが異なるカテゴリにあり、1つずつを完成させていくのが我々の仕事です」
そう答えるのは、アップルの副社長、ブライアン・クロール氏だ。クロール氏もまた、「複数のデバイスの体験を統合することではない」と、MacとiPadのクロスオーバーを含む、カテゴリの融合について否定している。それよりは、いかに複数のデバイスを組み合わせて使っていくかを追究する姿勢だ。
アップルはデバイスメーカーだ。iPhoneでつかんだユーザに、もっと他のデバイスも使ってもらうことで、売上を伸ばしていこうとしている。そのためには、iPhoneユーザが心地良く、タブレットやパソコンへと作業を移行させていく「術」が必要になり、またiPhoneを持っていながらアップルウォッチを装着する「必然性」も求められる。
日本市場への取り組み
ここ10年間、PC市場の浮沈みに関わらず、Macは成長を続けてきた。とりわけ日本市場においては、ここ5年間で、販売シェアを2倍に伸ばしている。クロール氏も、東京にあるスターバックスの前を通りかかった際、非常にたくさんの人々がMacを使っている光景を見かけ、日本におけるMac市場の拡大を肌で感じたという。同氏は日本市場への取り組みについて次のように語る。
「デバイスの国際展開を考える際、日本市場をまず最初に考えてきました。特にMacは、アップルの歴史の中で、日本と深い関係を築いてきたプロダクトです。ポストスクリプト(Postscript)のサポートにはじまり、1986年の日本語フォントの提供、そしてOS Xエルキャピタンではレティナディスプレイに映える新たな美しい日本語書体を追加しました。また、日本語入力のライブ変換や辞書などの魅力的な機能を追加し続けています」
日本からの学びもあったという。特に最近世界中で人気があるのが「絵文字」だ。現在、iPhoneだけでなく、iPad、アップルウォッチ、そしてMacでも、絵文字の表示と入力が可能だ。また、日本語フォントへの取り組みは、中国語のサポート時にノウハウとして役立っている。クロール氏は、「今後も日本の消費者向けの取り組みを強化していく」と、日本市場へのコミットを約束した。
試してほしい3つの「連係」
Macの特徴はさまざまな仕事や作業、作品作りを簡単に、しかも高いクオリティで行うことができる点だ。クロール氏は、Macで使い始めるだけでなく、手元にある他のアップルデバイスで始めて最終的にMacで仕上げるといった使い方にも簡単に対応できる点を強調した。つまり、アップルはハードウェアとソフトウェアの統合によって、ユーザにデバイスの違いを考えさせずに1つの目的を達成できる、唯一の環境を提供しているとの自信をうかがわせる。そして、クロール氏は、次の3つのパターンで、Macらしい体験を試してほしいと、デモを交えて紹介してくれた。
1つ目は、「写真」だ。iPhoneのカメラの高画質化は、アップルの写真体験の統合をより魅力的にしている。アイクラウドフォトライブラリで連係していれば、iPhoneで撮影した写真がすぐに同期され、たとえばiMacの5Kディスプレイで楽しむことができる。もしiPhoneもしくはMacで写真を編集しても、瞬時に各デバイスに最新の編集結果が反映される。
2つ目の体験は「メモ」だ。「メモ」はiOS 9、OS Xエルキャピタンで非常に進化したアプリの1つ。まず、編集機能の大幅な進化があり、To DOリストの作成や手書きスケッチ機能が搭載された。ノートの中に写真、地図、WEBページなどの添付アイテムをプレビュー付きで挿入できる点は、日本でも人気のあるエバーノートよりも便利でわかりやすい。また、種類ごとにまとめて表示する機能も便利だ。エバーノートなどの他のアプリからのインポート機能も用意するようで、アップルは本気で「メモ」の活用を押し広げたい考えのようだ。
3つ目の体験は、「クリエイティブアプリ」。動画編集のiMovieや音楽編集のガレージバンドは、iPhoneやiPadを起点にして作品作りをスタートし、そのデバイス内で完成させるだけでなく、Macにデータを移してより快適に仕上げられる。こうしたワークフローは、Macユーザだけの特権であるという。
特に、刷新されたガレージバンドの連係はユニークだ。1月のアップデートで新たに搭載された「ライブループス(Live Loops)」は、DJのようにタッチ操作でループを組み合わせて、曲を仕上げていくことができる。まるで、タッチパッド付きのサンプラを使ってパフォーマンスをする感覚だ。これをアイクラウドに保存すれば、すぐにMacでの編集作業に移行できる。しかも、ロジック・リモート(Logic Remote)でiPadをMacの鍵盤として利用可能だ。
Three Connectivity We try on Mac
【1】Photo
アイクラウドフォトライブラリで連係していれば、iPhoneで撮影した写真がすぐに同期され、Macでも楽しむことができる。Macで編集した内容はすぐに他のアップル製品にも反映される。
【2】Memo
エルキャピタンで大幅に刷新されたOS Xの「メモ」。日常的にさまざまな場面で利用するソフトだからこそ、連係の大切さを実感できる。
【3】Creative Apps
iMovieやガレージバンドなどのソフトを使うことで、iPhoneやiPadを起点にして作品作りをスタートできる。それをMacで仕上げるというMacならではのワークフローが可能だ。
オープンな選択と新たな魅力
Macらしい統合を活かしたデモを披露したクロール氏は、その意図を次のように話す。
「さまざまな人々がiPhoneを使っており、その結果としてMacを選ぶ人々も増えました。手元にある2つのデバイスが、いかにして一緒に動くか、より多くの皆さんに理解していただくことで、アップルらしさを体験していただけるようになると考えています。
アップルはプロダクトありきで、さまざまなデバイスに取り組んできました。その結果、多くの顧客から共鳴を得ています。これまで以上に、抵抗なくMacを選んでいただけるようになったのです。Macを購入した人は、Macを使い続ける、という実際のデータがありますから、今後も多くの人々に魅力を発見してもらえるでしょう」
日常の仕事の統合と、身近に感じさせてくれるクリエイティブアプリは、Mac体験をユニークなものにし、また多くの人々に魅力を与えている。簡単な作品作りを経験すると、スキルはだんだんプロへと近づいていくからだ。
現在アップルが、Macに加えようとしている新たな魅力は、プログラミングだ。スウィフト(Swift)をオープンソース化して、アプリ開発だけではない汎用性を手に入れている。スウィフトの魅力は、Macの優位性を高めるとアップルは考える。
「スウィフトは、教えやすく、学びやすくする言語にすることを念頭にスタートしています。また、言語自体も成長しており、学べば学ぶほどコードが深まる、素晴らしい言語だと考えています。すべてのMacで利用できるXcodeには、『プレイグラウンド(Playground)』という、書いたコードをすぐに実行できる環境が用意されており、楽しさや学びやすさを象徴しています。
もし若い学生がスウィフトを学んだ場合、すでに150カ国で使われているプロのアプリ構築の道につながっているのです。始めやすく、キャリア構築につながっているスウィフトを、ぜひMacで学び、使い始めてほしいと思います」
すでにMacはエンジニアに人気だが、スウィフトとXcodeの組み合わせは、これから始める若い人々にとって大きな助けになる。今後もアップルはこうした新しい魅力を加えながら、Macユーザを増やしていく流れを続けていくことになるだろう。
【News Eye】
OS Xエルキャピタンでは、「クレー」「游明朝体+36ポかな」「筑紫A丸ゴシック」「筑紫B丸ゴシック」の4つの新しい日本語フォントが追加されている。それぞれ2種類の太さから選べ、文書やプレゼンテーションをさらに魅力的にできる。
【News Eye】
ライブループスが追加された最新のガレージバンド2.1では、そのほかに仮想ドラマーがセッションを演奏する「Drummer」が新しく追加されている。iPadプロへの最適化もなされた。